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翳り行く街の光と影  作者: いしかわがる
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【侵略者】 ーー蠢動ーー

 北米諸島群のほぼ中央部、広大な荒野がひろがるその島に生命の息吹は無かった。

 海抜1000m弱、不自然に隆起した台地は不気味な程フラットで360度見渡す限りの『無』。鉄とポリマー樹脂の残骸がマーブル模様のように固まった、荒涼としたスケール感の無い光景。

 ガイガーカウンターが絶叫する程の放射能夥しき土地にアンドー総統閣下自らが陣頭指揮を執る巡視艦隊が赤錆の粉塵を巻き上げながら着陸。其処をベースと定めた。

 レーダーのみに頼らず目視での策敵を怠らない総統閣下。パトロール艇に乗り込み周囲の視察に出る。ベースより東に数十キロ程行ったところで更に数キロ先の不審物を肉眼で確認する。「自然の産物ではないようだな」アンドー総統閣下は呟いた。

 すなわちそれは、生命体の存在を示唆している。

 パトロール隊は直ちにランディング。総統閣下自ら艇を降り、その地に足を着けた。

 ――重い―― 

 この星の重力、亡き母星テッケンの3割ほど増しか……。インジケーターの表示で認識してはいたが、実際体で受けると、成る程こたえる。

 総統閣下はスゥーっと深呼吸する。高濃度の放射能が細胞の隅々まで行き渡る感覚に全細胞余すところ無く覚醒するようだ。大股で歩を進めた総統と護衛の兵は一歩一歩慎重に踏みしめる。

「肩ならしには丁度良い」

 三十分程歩き不審物が何であるか確認出来る地点に到着。確認するや一同の表情に憤怒の焰が宿る。

ポリマーの地面に突き立てられたH鋼に括られ、乾いた風をはらみ雄々しくはためくフラッグ。

 斜に構えた髑髏を白く染め抜いた深紫のフラッグ。あの忌わしき仇敵のシンボルマークを見てアンドー総統閣下は、もう一歩で正気を失う程臨界ギリギリの怒気を纏った。

 大気が揺れたのでは? と兵士達は遠のく意識を必死にたぐり寄せながら、総統の指示通り、惑星オーヴァーレイジのフォトン社製レーザービーム銃で灰にした。


                  ✻


 上空遥か静止軌道上[テッケン]から惑星侵攻にむけて出動したクンタッシ級駆逐艦は10隻、総統麾下近衛師団を除き、キ・レール軍最強の第零連隊を10個大隊に分け中長期に亘るミッションに臨んだ。

      

       Operation Code : [Metal Slime]

     Phase・1

 各地に潜入、潜伏し、文明、文化、風俗に融和。

       Phase・2

 政治、経済を掌握し、洗脳による思想統制。信念強固にて恭順せぬ者は粛正。

       Phase・3

 従順なる遺伝子のみ交配し奴隷としての適正に特化した改良品種の作出。


 以上の工程を三世代で完了する事を目標とし、達成次第速やかに惑星全土を占領支配する。


 誇り高き戦闘種族にとって破壊衝動を制御しつつ、被占領区の種族に対し迎合の色合いを帯びたミッションなど前代未聞、空前絶後、他言無用の歴史的汚辱に他ならない。しかし、この惑星にミナミハルオら一味の存在確率がほぼ100%で有る以上、かつての敗北と同じ轍を踏むわけにはいかない。よって今回はマザーコンピュータ[那由他]の算出したところによる作戦要項を甘んじて遵守する運びとなった。

当然のことながら、幕閣のみならず、兵卒の中に疑問と不満を持った者も少なからず存在したが、種族の長たる総統閣下の命令は絶対。DNAに刻み込まれた血の掟に抗うものは、表向きには皆無であった。

 各隊に総統閣下の勅旨が入電したのは、各隊それぞれに所定の配置に着き、IDの捏造と脳内データベースへのアップデートが第二戦闘配備の下、行われている最中であった。

 北米諸島の基地より血管を膨張させ、アビエイターの奥で目玉を剥きながら玉言を放つ総統閣下の映像が贈られる。

「栄えある我が軍の精鋭諸君! 作戦行動の士気もいよいよもって昂まっているところであろう。ここでひとつ私から激励とともに本日策敵中明らかになった事実を報告しよう。……ミナミハルオ、サイオンジハジメ、ショウジキミエモン、キタオオジコウジ。以上四名の当惑星における存在確率が100%となった。尚『あの女』に関しては未だ所在は明らかではないが、該当する確率の極めて高い対象が数名検索にヒットしておる故、楽観は赦されるものでは無い」

 総統閣下の声は激しい嫌悪を纏い毒を孕んだ呪詛の如く聞く者の頭蓋に重々しく響く。

「よいか諸君。この惑星を効率的且つ能率的に制圧、奪取するには、彼奴らとの衝突はフェイズ3までは極力回避せねばならなぬ。不本意なれど、現段階で万が一にもあの、肥溜めのウジにも劣る愚劣な生物と遭遇した場合にも、ゆめゆめ戦闘状態に至ることの無きよう、心してかかることを望むものである。尚、当然のことながら、彼奴らとの遭遇、若しくは痕跡だけでも、得た情報は逐一作戦本部に打電怠らぬ事を要望する。以上。諸君等の武運長久を祈る!」

 玉言放送を拝謁し終えた総員の顔に、カラダに、じっとりと冷たい汗が滲んだ。

 隠密行動が主たる今般のミッションではあるが、ITHセンサーの太鼓判があるとはいえ、現時点でこのアースとやらが抱える戦力も完全には把握出来ておらず、ミナミらの存在は、考慮していたとはいえ明確になった今、『あの女』の存在も懸念しつつ、ミッションは益々以て慎重に薄氷を踏む思いで進行せざるを得なくなったのだ。

 臥薪嘗胆の年月がキ・レール人を辛抱強く変化させたのか、はたまたこの放射能煌めく美しき惑星に魅せられてイカレてしまったのかは、今は定かではないが、回り出した運命の歯車はもう何人たりとも止める事は出来ないのだ。多分。

 それにしても、彼等がいちいち危惧する『あの女』とは一体……………………


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