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翳り行く街の光と影  作者: いしかわがる
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【商店街】 ーー理論ーー

「先ず、〝クロガネ〟さんに取り入ってですね、……そう、譬えば、入婿にでもなれればいいっすね、然して実権を掌握した暁には〝蓮華銀行〟と関連するゼネコン、マスコミ、行政を籠絡し、この地域を開発区域に指定。皆様には高層免震タワーマンションに御転居いただき、この商店街をベースとしたショッピングモールのテナントになって頂きます。ご当地のプロ球団を立ち上げたいですね。ドームスタジアム、アリーナクラスの複合多目的施設、遊園地にホテル、あ、そうそう、合法会員制カジノ、港湾地区に競艇場もいいですね。出来ればJRAも招致したいです。常楽町を中心に東西三市に跨がるリニアモーターカーで行き来できればお互いに商圏も広がりますし。

 国道の中央分離帯を利用すれば用地買収の手間も要りませんよね。インフラも充実、雇用も拡充。若手の流出も防げて万々歳。とまあ、アイデアだけなら無限に出てきますけど、こんなんでどうでしょうか?」

 どうせ通らぬ意見なら思いっきりフカシてやろう。と、かなりの割合でアイロニーを込めた不知火のスピーチが終わる。


 暫く沈黙が続く。億劫で不快な、煩雑な困惑と、浅薄なやるせなさを纏った沈黙の中、陽子と桜子は感嘆の拍手。

「スゴ……、なんか、リアルに想像出来た。ような出来ないような……」

 桜子は不知火に羨望の眼差しを向ける。

「流時さんなら、マジで〝クロガネアスカ〟落とせそうだし……」

と陽子は呟く。


 ――鉄飛鳥はクロガネ商事代表取締役社長、鉄拳也の溺愛する一人娘で年齢は23歳。容姿端麗頭脳明晰武芸百般。文句の付けどころの無い完璧な女性として、マスメディアにも度々クローズアップされる、クロガネ商事の広告塔であり、不知火の店の顧客でもあるが、店主と顧客という間柄の領域を越える関係では、当然ない。――


 桜子と陽子につられて山口と中山も手を叩く。

「こんな発想、我々にはとても出来ないな」と中山。

「色々とダークな要素も孕んではいるけど」

 珍しく山口がコメントする。

「荒唐無稽で無責任ではあるけど、様々な可能性を示唆するリアリティもちゃんとあるし、論理的だ。なによりワクワクさせられる。今迄のミーティングの中で今回の意見は群を抜いているよ」と、猛田を見るが、猛田はどうも芳しくない表情で、山口の意見に生返事。

 たしかに、いっつも表面のコケ取りみたいな意見しか出せなかった老人達もその突飛さに満ちた具体案には喜びを伴う愉快な驚きを感じる。が、同時にかなりの痛みを伴う荒療治の必要性も明白であった。

 江尻、猛田、桜井は眉間に皺を寄せていた。クロガネの屋号が出た時点でもう不快感を露にしていたのは不知火にもヒシヒシと伝わっていた。


 ――『㈱クロガネ商事』――

 蓮華市政100年の歴史とともに事業を発展させてきた地方豪商である。地元蓮華市を中心とした港湾地区での沖仲仕から出発し、倉庫業と其れに伴う輸出入の管理、海運業、建設業、金融業、産廃業、雑貨にスーパーマーケット。果ては県政を巻き込んでの空港建設に航空会社経営。まさに地元の陸海空を制す王者なのでる。

 当然、地元企業の大多数はクロガネからの下請け孫請けでメシを食っている割合が高く、市民の大多数がクロガネの恩恵に浴している。商店経営者でさえも自分のセガレをクロガネもしくは蓮華銀行に就職させたがる者が多い。

 しかしそれとは逆に、地元を苗床に、資本力を振るい排他的な経営方針で利己のみに邁進するクロガネに煮え湯を飲まされたものも数多くいるわけで、此処に居る不動産屋の社長と零細工務店の跡取りムスコもその内の2人なのである。

 江尻の大将など、現社長『鉄拳也クロガネケンヤ』の父親、つまり先代社長である『鉄金矢クロガネキンヤ』とは幼馴染みで、先代の頃からクロガネのやり方に苦言を呈していた。それでも事有る毎に『えじり鮨』を使ってくれる超常連であったのだが、つい先だって『えじり鮨』に来店した拳也の傍若無人な態度にブチ切れた大将がクロガネ社長をはじめ社員全員出入り禁止を言い渡したばかりであった。

 猛田は苦虫を噛んだような顔で言を発する。

「ま、まぁ大変若者らしい大胆で突飛な発想ではあるけれど……大将、どう?」

 えじりの大将など、ぶそくりかえって返事もしない。

 氷の槍が突き刺さったような数秒が流れ、不知火は「ほぅらねっ!」とでも言いたげな顔で肩をすくめカウンター席に移る。

 意見を求めておいて気に食わないと聞く耳持たぬオイボレの態度にちょいとばかり頭に来た晴男が口を開く。

「俺様のような外様の若卒が言う事など譜代のお歴々にゃ片腹痛いものではございましょうが……」

とミッドの押し出しが効いたなめらかなトーンで喋り始める慇懃無礼な晴男の態度に一同、ハタと背筋を伸ばして向き直る。

「目下のところ、問題は、後継者不在。えーと、それから、テナントが入らない。だな。シャッター通りの汚名を払拭するには、これらはクリアしなきゃならない最低限のハードルだ。社会的要因からくるドーナツ化や交通機関のアクセス不良なんかは行政レベルだし、今言ってもせんない事なのは分かりきってる。しかし、身銭を切るのを嫌がって、現実に取り組めそうな問題すらさえも、さわらぬ神に祟り無しか? 死に行くオイボレ共がこれからの世代の邪魔して迄も⁉」

 興奮を極力押し殺しながらもプロペラ全開の晴男。まさに歯に衣着せぬキツイ苦言ながら、晴男の声のトーンに因りもたらされる求心力で、つい聞いてしまう一同。

「責任の所在は、各々分かってるんならまずは、敢えて徹底追及して明文化でもしなけりゃ、状況なんかかわりゃしねぇよ。アンタらが自らの手で膿を出していかなけりゃ、益々悪化するばかりさ。そのうちクロガネに札束で横っ面ハタかれてベッドタウンにでも成り下がって行くんだろうな。この街もよぉ。……

 老朽化した、しかも家主のオマケ付きなんて物件をドコの馬鹿が借りるってんだ!えぇ? 豪ちゃんよぉ! あんたその道のプロじゃんよ。そういう事実を理解しながらも昔馴染み故の骨絡みで黙殺しあってたんじゃぁ、建設的な考えなんて出て来っこ無いね。一生!」

 一呼吸置く。まだトッツァン達の性根が折れてないのを確かめ、少し強いトーンで畳み掛ける。

「とりあえず資本家や政治家に責任転嫁して、自分達は骨身を惜しんで善処もせずに好き放題。華やかなりし頃に蓄えたアブクゼニと先祖代々の土地財産はガッチリ握ってナニが地域復興だっつーの! 本気で若い者と手を携えてやる気あんのか? ねぇなら帰って11PMでも見てから屁ェこいて寝ろぃ! こんな会合時間の無駄だ!」

 言いながら際限なくエキサイトする晴男を不知火がなだめる。

「まぁまぁまぁまぁ。ハルオさん。……誰が悪いとか良いとかいうモンダイじゃないワケですし、……つーか、イレブンピーエム、敢えてツっこみませんよ。俺」

 あと一歩で猛田と江尻がヘシ折れてしまうところだった。

「オッケー父ちゃん、そのへんにしとこう。おじさま達がどんどんスネてっちまうよ、そんなんじゃ」

 輝世にまでたしなめられて晴男も我に返る。

 なるほど、元老院達は皆背中丸めてコップのビールを舐めている。陽子と桜子は輝世のアイコンタクトとともに始動、なんとか場の復調に努める。

「ハルオさん、あんなコト言ったけど、ここの皆さんにも先祖から代々受け継がれてきた矜持ってものが有りますもんねぇ」

「そうそう、歴史の重みで勝負勝負⁓」

 陽子と桜子のフォローでなんとかカウント2・5で立ち直った元老院達。そして長老江尻がコップのビールを飲み干し語り出す。

「分かっちゃいても何とも成らん葛藤……、俺達だってかつては先代に苦言を呈してはきた。が、言われる側になってみると、わかるんだよ。この街の良いとこも悪いとこもそういう、ズブズブなとこだという事実。もう、オレらみてぇな老人は邪魔なだけなのか? 因果は巡るってか? でもな、みぃんなこの街に生まれてこの街を愛し、盛りたててきた同志なわけよ、ぞんざいには扱えねぇ……」

 皆黙って頷きながら聞いている。晴男は言い過ぎた事を詫びながらビールを注いで回る。

 確かにクロガネ云々かんぬんは、非常に微妙な事柄ではあるが、計画に信憑性を持たせるには他に方法論が見出せないのもメンバー全員が抱えている不快感と焦燥感の源であろう。

「だいたいがだなぁ、のっけからクロガネ頼みってぇのがよ、アレだろ。 何か他に話の持って行きようがあるだろうに……」

 それでも抑え切れぬ不満を口走る猛田に、実際問題、方法論に好き嫌い言ってる場合か⁉ と食って掛かろうとする晴男の肩に腕を回し、静かにグっと力込めながら山口が発言し始める。

 

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