【桃源郷】 ーー確執ーー
テッケン人達の築いた都市に到着し、その合理的な町並みと、脈打つ生命感に晴男は感嘆する。
「こりゃあ、元老院のじじぃ達に見せてやりたいぜ。」
「いや、人類全てが見習うべきかもしれん」
溜息まじりに北大路が呟く。
都市部幹線道路をキ・レール軍中枢部に向かい、緩やかに流す四人を乗せたラムバン。四人に気付いた者は皆驚愕と恐怖の反応をみせる。
リアルタイムではない世代にも惑星ペドロ戦役における[凶悪な女海賊率いる四人の悪霊]の悪虐非道の物語がカリキュラム的に語り継がれているのであろう。因って、この四人の顔を知らない者はここには一人も居ないのだった。
「……なんか、悲しくなって来ちゃうねぇ。どいつもこいつも、もんのすげぇ目ぇして見てくる……」
西園寺は楽しそうにレイバン・シューターの奥で瞳を輝かせる。
「逆に、本気でダチになりてぇって気にもなってくっけどな……」
という晴男の呑気な言葉に即座に反応する北大路。
「おいおい、頼むぜ、これは師匠からの指令(ミッションコード[アトミックスパイダー])なんだからな、馴れ合いの感情を差し挟む余地は無いから。そこんとこヨロシク!」
「大丈夫ですよキタさん、晴男さんは、やれば出来るひとです」
「なんか、引っかかるフォローあ・り・が・と!」
ーー北米諸島群ーー
晴男ら4人の惑星〝到着〟時の衝撃に因る当惑星へのダメージは6大陸全てに及んだのだが、とりわけ北米、カナダ、アラスカに関しては筆舌に尽くし難い程甚大で、塵々に裂かれた大地は大小500を超える最低海抜1000m、最高5000m級の切り立つ台地の群れとなり、放射能汚染もさることながら、複雑で強い海流と不安定な気候にともなう突発的で極端な気候の変化により、空、海いずれからも上陸はおろか、接近すらも不可能で、尚かつ電磁波と磁場の影響で人工衛星からの観察も困難という、キ・レール人達が人知れず地球に溶け込む橋頭堡として完璧なまでに最適な絶海の諸島なのである。
全長90km、全幅50km、全高45km、総重量35億t(推定)の超巨大宇宙戦艦〝テッケン〟は、兵器としての威容はどこへやら、静止軌道上で、北米に根を下ろし始めた我が子達を見守るように穏やかに沈黙している。
『惑星テッケン』を生まれ故郷とする民約40万と下等種族10万余りが、無尽蔵と言える程の放射能及び放射性廃棄物の残骸やら斥候隊の鹵獲物を駆使し、惑星探索当初に置かれた軍事拠点を中心に放射状に整然と区割りされた自治区建設をアンドー総統閣下の絶対的統治の下、帝国建設の礎たらんと労働の喜びに面を輝かせていた。
この惑星のユトリある環境に馴染んで行くうちに、いつしかキ・レール人の剝き出しの闘争本能も丸くなりつつ有るのかも知れない。
とはいうものの、毎時37564msvの放射線を浴びているキ・レール人をはじめとするテッケン星人の身体能力たるや、下等種族の『シ・メール人(成人男子)』を例にとると、300kgの資材を担いで100mを13秒台で走る程であるから、いわんやキ・レール軍人をや。なのである。
キ・レール人の動向を天眼通にて逐一観察していた果心居士と、その情報を得たI・S・S・O(世界科学機密機関)の首脳陣。当初の目論みでは、北米諸島の環境下で塵となるもよし、運良く適応し、独自に発展し文明を築きこちら側と融和出来るなら尚好しと楽観視して傍観を決め込んでいたのだが、(実際ストレスと風土病で命を落とす者も少なからずいたようだ。)此処最近のキ・レール人の異常な適応力と急激な発展・成長に当局は食指を動かすと共に、さすがに脅威を覚え、速やかに楔を打っておこうと、W・F・C(世界連邦協議会)のバックアップを得て、動き始めたのだった。
放射能を吸収し、代謝エネルギーとするキ・レール人をはじめとする『テッケン星人』達の『浄化作用』により当初は生物の存在が皆無であった土地の片隅に今では何処からともなく舞い落ちて来た種子が芽吹き、密かに咲き誇るコバルトブルーの花が、いずれ訪れる波乱を予感させる。




