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翳り行く街の光と影  作者: いしかわがる
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【零次元】 ーー寂静ーー

 ――漆黒の闇に抱かれ、静寂の中、宇宙と一体となる。祈りの中、この世もあの世も次元も越えて、遍く隅々まで想いを巡らせる。万物の悲哀、歓喜、愛と憎、正と邪、生と死、一切を包み込む宇宙。

 其れ即ち、一切は『空』であり、一切が宇宙と一つである。という真理。

 其処に到達した者は、一切の迷いから解き放たれ、その思念は次元も時空も超えて、過去現在未来、前世現世来世を縦横無尽に駆け巡る。

 そんな境地に到達した我らが四人衆。激しく、厳しく、切なく狂おしい修行の果てに、だれ1人脱落する事無く悟りの境地に至ったのだ。

 神が、仏が、宇宙が彼等に与え賜うた異能の力を世の為人の為、惜しみなく発揮せんが為に!――


「これでもう、この次元に於いてあなた方のすべき事はすべて完了したといって差し支えないでしょう。おそらく、Go次元に於いてあなた方を凌ぐ存在は無いでしょう」

「文字通り『宇宙一』か……」

「怖いモノ無しですね」

「まぁ、敢えて畏れるモンがあるとすれば、ジブンの才能かな」

「晴男さん! 驕れるもの久しからずですよ!」

「ったく、おめぇってヤツぁ……!」

 東海林は的確に嗜め、西園寺は面倒くさそうに咎める。すると、

「やっばい、ハラ減った……」

 突如晴男がヘタりこむ。北大路も続いて、

「い、いかん! 俺もハラ減った……」

「またかよ! おめぇら、ちったぁ懲りろよ……」

「振り幅、ハンパないっすね……」

 東海林は真面目に呆れたようだ。しかしながら、この二人の、此処一番の傑出したパワーはこの知恵と愚かの振り幅から来るものだということは、いつまでも、誰にも気付かれない事だった。

 リュミエールが軽く咳払いをしてから説明口調で喋り出す。

「……私が思うに、それはきっと増長した孫悟空を戒める緊箍経きんこきょうのように、あなた方の心が尊大に膨れ上がると、エネルギーが激減するように大宇宙の不可思議な力がプログラミングしたのでしょうね」

 一同がリュミエールを凝視し黙考する。「(い⁓や、アンタの仕業だろう?)」そう直感しながらも、「どうやらそのようでゲスね。トホホ……」と自嘲する他なかった。

 同時にこの世で最も畏怖すべきなのは、この女であり、そしてこの総てを見透かす、ズ抜けたニュータイプっぷりなのだ! と理解した。

「それでは、私から、あなた方の旅立ちを祝う餞として最後の晩餐を開きたいと思います。お腹の足しになるかどうか分かりませんが……」

 彼女は微笑みながらもどこかしら寂しげな雰囲気を滲ませていた。

 東海林と西園寺に担がれて、晴男と北大路は命からがらに着席する。給仕ロボが次々に運ぶ彼女の手料理に舌鼓を打ちながらハラペココンビはみるみる回復する。普段ほとんど無表情な北大路も幸福に顔を綻ばせている。


「おい、ハルオよ!」

 西園寺が熱く燃える眼差しで呼びかける。

「なんだい⁉」

「俺ぁ、もうシノビとして生きて来た暗い過去は捨てるぜ!」

「そうか‼ つーか、イマサラ⁉ 俺ぁもうとっくに忘れたね」

「そういう問題じゃねぇよ! 俺の、俺達のケジメだ!」

「そうかよ、じゃ、俺も宣言するぜ。殺戮マシーンとしての俺は今此処に登録抹消。はいサイナラ! 皆様、こんにちは。わたくしが、南晴男でございます‼」

「よし! もうこれで過去を振り返って嘆く事もない」

 西園寺はここでどうしても己の覚悟の一端を披瀝しておきたかったらしい。

「あぁ……その通りだ。過去に執着するとろくな事にならんからな……」

 北大路がモグモグしながらそのような意味のことを呟いた。


         ……………………。


「……、ええっと、なんか、〝いい雰囲気〟になっちまったところで、我ら血よりも濃い繋がりを持ったチームの揚々たる前途を祝し!」

 取り繕うように晴男が音頭をとり、皆が一斉に盃を掲げる。

「カンパイ!」

 贅沢で麗しい食事に美しき恩人の微笑み。

 かけがえの無い仲間との語らい。

 ここに至るまでの艱難辛苦。各々が噛み締めながら、濃密な空間で、凝縮された時間が刻まれ、過ぎてゆく。

 得難く愛おしい時を惜しみながら刻々と別れの時が近づく。

 修行によってすべての感覚を超越したはずの彼等が流す感謝のシルシ。

「姐さん……あ、貴女には……ほ、ほんと……どどれほろ……かんしゃじでぼぉ……しきれな……うぃいん……」

 南は嗚咽を押さえ込み言葉が続かない。西園寺もそっぽを向きながら、肩を震わせている。ので東海林がまとめに入る。

「リュミエール殿。このご恩に報いる為にも今後一層の精進怠らず、世の為人の為、粉骨砕身努力してまいります」

「南晴男さん、西園寺肇さん、北大路紘慈さん、東海林公右衛門さん、振り返れば光陰矢の如しですが、この長い旅路で、わたくしは、皆さんが如何に優れた人物かを、誰よりも理解していると自負します。どの次元にいようと、わたくしとディアマンテ号と共に在った日々に恥じぬ生き様を期待しております。〝いつもここから〟皆さんのご健勝をお祈りしてますよ。がんばってくださいね。それでは、どうかご無事で…………」

 リュミエールはいつもと変わらぬ、凛とした荘厳な佇まいで別れの言葉を告げた。

 四人はディアマンテ号のデッキに立ち、こみ上げる万感の思いと共に輝くオーラを湧出させ亜空間ドライブモードに入ってゆく。

 目指すはGo次元、母なる大地。


 ――時空と重力が強大に捻曲がった次元のハザマを超光速で航行する4人の姿は常楽の世界に生きる黄金の龍の様に、狂おしく、雄々しく輝きながら、ただ一点を目指し、永遠とも思える刹那の旅の終点であり始まりの入り口とも言える出口に飛び込む。

 Go次元の宇宙空間に放り出された4人、天の川銀河の輝きを身に纏いながら、ホームスィートホーム、蒼く輝く我らが母星の南半球の某地点に着地。

というよりは衝突! 

 ほんの些細な誤算。スピードオーバーだった。晴男達が思っていた程この惑星の人類が築いた文明は強靭ではなかった。というか、これも摂理か……。


 ーー衝撃波が地表を舐め、鉛直方向に貫いた慣性モーメントは地軸を断裂させ、対極にあった北半球随一の軍事及び経済大国に配備された火器一切が誘爆。一瞬にして現世に於ける地獄と化す…………。

 熟れた果実のように、朽ち果てるのを待つのみの社会で、怠惰で傲慢な堕落を謳歌していた人類をはじめとして、生きとし生けるもの全てがワケもなく肉体を奪われその魂が悲しみのベールのように星を包みやがて地中に没して行った。        

 ……………… ………… ……

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