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翳り行く街の光と影  作者: いしかわがる
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【零次元】 ーー変態ーー

 皆が仰天するのも無理からぬ事。北大路の『ジ』の濁点も残らない程、全身をハガネの外骨格で覆われたクリーチャーと化し、輝くオーラを身に纏う姿は、さながらシルバー仮面か、突撃ヒューマン。

「おい、牛若ちゃん? 大丈夫か?」

「でもなんか、カッチョいいな!」

「ホント、羨ましいかも! ですね」

「なんか、力が湧き出て来てしょーがねーんだけど⁉ 今なら何でも出来る気がしてショーガネーゼェエエエ!」

 北大路のカラダから火柱のように燃え立つオーラが見て取れる。

 さすがにリュミエールも想定外の現象に驚きを隠せず、慌ててNTナノテクスキャナーを起動。四人の細胞組織を丹念にスキャンする。

「牛若ちゃん、頼むから闇雲にタイムワープすんのはナシな! マジで」

 晴男がそういうと、無表情なメタルの口元がニヤリとしたように見えた。

「やっべ。このモードやべぇ! 次元の壁も越えられるんじゃないか?  こりゃあ。すげえ!  うおぉおおおお!」

 強烈な覇気が三人にまでビンビンに伝播し、今にも全員が変態を遂げてしまう寸前で、いきなり北大路の体を螺旋状に光の粒子が踊り、メタルの外骨格もまるでデジタルパネルの表示のようにパラパラと元に戻ってゆく。すると、北大路はヘナヘナと崩れ落ちる。

「なんなんだこりゃ? は、腹が減って動けません…………」

 一同暫し唖然……。

 やにわにホログラムモニターが出現し、データが映し出される。

 データを読み終えたリュミエールは、恐れ入ったと言わんばかりに、ガラス細工のように繊細な肩をすくめ、桜の花弁のような唇から溜息を吐く。

「あなた方は、ほとほと呆れる程の強運の持ち主ですね。まぁ、相応の不運にも見舞われましたが……かいつまんで説明するので、早急に理解してください」

 一呼吸おかねば、とても語れぬ奇跡の連鎖、怪我の功名、棚からぼた餅。流石の宇宙海賊リュミエールさんといえども、ついぞ斯様な、馬鹿げたハナシは見た事も聞いた事も無い大珍事!

「とにかく、あなた方はシッチャカメッチャカにガラクタと化したデオキシリボ核酸やら染色体やらゲノムやらなんやらをこの船で修復しました。それは確かな事実」

「フムフム、ごもっとも」

「それだけでさえ、マッハで針の穴を通るよりも得難き奇跡ですね」

「ええ、えぇ、そうですとも」

「ところが、その遥か上を行く嬉しい誤算があったのです」

「ほほぉ、なんと!」

「一見、正常化したように思われた細胞組織をナノレベルまでスキャンしたところ、細胞すべてに『高エネルギー源を有する新たな元素』の組織結合を確認。その他諸々のダークマター。それらは主に甲状腺に多く分布しており、交感神経の高まりによってアドレナリンが分泌されると、新たな元素が発電するのですが、この時点での電力がなんと毎秒1・21ジゴワット! これによって、甲状腺の働きが活発になるとともに様々な物質を合成し異常代謝するのです。その結果が先程の北大路紘慈さんの完全変態ということですね」

「?……何か、凄い事になってるね……」

 晴男は彼女の説明の10分の1も理解していないようである。

「……なんか、色々な意味でヤバいカンジがするね?」

 こんなとき無駄に才知の効く西園寺は、なんだか良く分からない不安にかられる。

 北大路は空腹が限界のようで、昏倒している。

 東海林が、いち早く全てを受け容れた上で問う。

「交感神経の高まりですか。では皆一様に〝変態〟に至る訳ではないのですね?」

「そうですね。東海林公右衛門さん、脳内物質の分泌に及ぶ機微のツボが各々違うわけですから……」

「とにかくこの、モノ凄いメカニズムを使いこなせれば、本当に俺達の力だけで次元も、時空も越えて行けるんじゃない?」

「その可能性は十分有ると思います。南晴男さん。あなた方の全細胞の内0・001%の細胞原子核にどうやら、伝説の無限エネルギーがバランスを保った状態で発現していますので、高エネルギー細胞を更にオーバードライヴ出来れば、こちらのエネルギーも稼働し、ハイパーギガドライヴ、他の次元では、デスドライヴとも言うようですが……すなわち亜空間航行が可能となります。理論上」

「素晴らしい! 伝説の無限エネルギーが我らの細胞に宿っているとは!」

「無限て、……キミクン、ここにガス欠でぶっ倒れてるのが居るんですけど?」

「それは多分、北大路紘慈さんは無駄にオーラ出しすぎて無限エネルギーの起動前にカロリーを消費しつくしたのでしょう、南晴男さん」

「なるほど、……そうそう都合の良いハナシばかりでは無いようですね。天もなかなかに試練をお与えになる……」

 東海林は楽しそうだ。

「そりゃそうだろうて! 無敵で無限の超人に、そう簡単になられちゃぁ、たまったもんじゃねぇよ!」

「なんか、晴男さん、他人事みたいに言ってますけど、あなた当事者ですからね?」

「おう、……そうだっけね。大丈夫。わかってるって! キミクン」

「まったく! 何処迄お気楽なんだよてめぇは! おれぁもう、胃に穴開きそうだよ!」

 西園寺は別の角度からの心配事に顔が青ざめたままだ。

 ワザとらしく咳払いをしつつ、リュミエールが更にのたまう。

「……肝心なのは、変態のメカニズムをあなた方自身、生理的に、感覚的に理解しておかねばならないということです。変態時、昂まった感情が電極回路に電流を流すワケですから、アドレナリン、ドーパミン、セロトニン等の分泌をバランスよくコントロールする必要があるのです。つまり、自律神経を任意にコントロールするという、生理を無視した精神力を身に付けなければ、元の次元に戻る事はおろか、即ガス欠で宇宙の藻屑となるやも知れぬということです。おわかり?」

「では、我ら一体どうすれば?」

「そうですね、……とりあえずもう暫く此処で……修行?」

「修行! 嗚呼! 懐かしい響き!」                                    

「修行か……果心居士は厳しかったなぁ……」

「あ、北大路さん、大丈夫ですか?」

「ダ……、ダイジョバないけど…………」

「では、皆さん、修行に入る前に食事にしましょう。こちらへどうぞ」

 そういって、リュミエールは、ディアマンテ号のヴュッフェ室に四人を通す。

「よっしゃぁ! モリモリ食ってバリバリ修行すんぜぇっ!」

「おおぉぉ!」晴男の音頭で他の者も拳を振り上げる。

「フフフ。気合い入れすぎてまた変態しないようにネ」


『高エネルギー源を有する新たな元素』に、『伝説の無限エネルギー』の二段構えの恩恵を、六尺に足らぬ大和民族の体躯に宿しながらも、その過ぎたスペックを持て余す、自らの未熟を完熟に鍛え上げ、円熟に至る修行により己の感情をいついかなる状況下に於いても中庸に保ち、尚且つ、いつでも必要に応じて『変態の電流』を迸らせることを可能にする。というまさに、随時応現。仏陀の悟りを得るようなトレーニングに、これより更に6年の歳月を要するのであった。



著、著っちょっと待って!www!

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