【研究所】 ーー蘇生ーー
富士山麓某所。
国家機密機関である某子力研究所に搬入された晴男と西園寺。
研究所員が慣れた手際でBSPに移し、様々なチューブやらケーブルやら補機類を挿管してゆく。
破損したいくつかの細胞組織の再生、補完、安定化。DNAエラー走査と再構築に伴い、現代でのコミニュケーションに事欠かぬよう、データベースから、ありとあらゆる知識が電気信号化され、バーチャルな経験値として大脳新皮質にアップデートされた。
晴男が目を覚ましたのは、意識を失ってからひと月程過ぎたある昼下がり。
起き上がろうとするも、一ヶ月以上もの昏睡は確実に、そして非情な迄に筋力を奪っていた。
「ぬぬぬ、力が入らん。……困った……」
部屋の奥に人の気配。
「あ、南さん。気がつきましたか? いやぁ、よかった。もう戻って来ないんじゃないかと心配してたんですよ」
「あ、あのぅ……」
「あ、これは失礼。申し遅れました。自分はこの研究所で博士の助手を務めます。東海林公右衛門と申します。どうぞよろしく」
東海林公右衛門はそういって、電動ベッドのスイッチを操作し、晴男を起き上がらせると、生理食塩水を吸い飲みで経口投与する。深く溜息をもらす晴男を背に、東海林は内線で晴男が目覚めた事を所長に連絡する。
晴男はその背中に問いかける。
「ハジメは、西園寺は無事ですか?」
腹に力の入らぬ、なんともか細い声である。
「西園寺さんも元気ですよ。二週間前からリハビリされてます」
「そうっすか」
ホっとしてか、晴男の腹がギュルギュルと音を立てる。
「腹減ったぁ……」
「それでは、食堂に行きましょう。多分西園寺さんもいらっしゃると思います」
東海林は車椅子に南を載せ、食堂に向かう途中、この二週間の西園寺の目覚ましい回復力と亜空間に於ける卓越したバランス感覚を言って聞かせた。
「ハジメは俺よりも空間系の忍術に長けていたからなぁ……」
晴男は苦笑いで呟いた。
「しかし所長が最も驚いていたのは南さんの超回復期におけるオーバードライブのゲインがマックスキャパ380%増しという信じ難いパワーですよ。『通常の三倍以上だ』といって目を剥いていましたから。まさに力と技の風車が回る最強コンビです」
嬉しそうに、そして羨ましそうに話す東海林公右衛門。
晴男は黙って聞いていたが、アタマには入らなかった。一ヶ月もブタみたいに眠りこけ、カトンボのように落ちぶれた己の不甲斐無さを呪っていた。
「(戦国の死神と恐れられたこの俺が、このザマか……)」
拳を握りしめようにも、どうにも力が入らず苛立つ晴男を察してか、東海林が続ける。
「時空を超えるなどという離れ業は、行うにも常人には不可能ですからね。天が授けた能力と常日頃の弛まぬ鍛錬。加えて天文地理に通じる知識と洞察すべてがパーフェクトに近いあなた方だからこそ、現在此処に、五体満足で居られるのですよ。悲観するのは間違ってますよ、南さん」
「しかし、アレを見たら悲観したくもなるって……」
自嘲気味にこぼす晴男の視線の先にある食堂には調理のオバチャンと格闘するかの如く栄養を補給しまくる、少し太り気味の西園寺の姿があった。




