【北大路】 ーー昇華ーー
「(ダメか!)」
覚悟を決めたその瞬間。
…………! 晴男は信じられない光景を見た。
スチュワートの、何か未知なる物騒なモノを持っていた側の右半身がざっくり空間ごと削り取られているではないか! 傷口というより光学迷彩で不可視状態になっているかのようだ。無論出血も無い。
スチュワートの背後、淀みの無いオーラを纏った丸刈りの男が諌めるように言葉をかける。
「キレすぎにも程があるよ、お前。こないだお前達のオカシラと講和条約むすんだろうが! スジが通らねーぞ、それでも軍人か⁉」
「……殺せ。畜生が!」
「ふんっ!」
丸刈りは激しく鼻を鳴らすと、目にも留まらぬ早業で印を結ぶ。すると今度は彼の体全体が周りの空間ごと消えてなくなった。
名残りのような深い闇の空間は激しく収縮しみるみるうちに消滅した。何故だか分からないが晴男にはそれが奇異な事とは取れず、やはり既視感と不快感が不気味なマーブル模様のようにアタマの中を巡っていた。
「晴男、今見た事は、とりあえず無かった事にしろ。なっ」
「まったく、いっつもやぶからぼうだよな。ま、おかげで助かったワ。ありがとよ、キタちゃん」
「おう、無事で何よりだぜ。丁度俺もマシンの足回り換えたんでアタリを取りに来てたんよ」
北大路紘慈は、親指で、向こう側の駐車場に停めた愛車『トヨニセ』を差した。
「マジ? ちょっと乗せて、って、納得出来るかぁあ! ちゃんと説明しろや! 今のナニ⁉ 講和条約? おめぇ国連大使かよ。つーかなんで俺がテロリストに狙われなきゃなんねーのよ⁉」
「スマン! 今は話せない。近いうち、極々近いうちにお前にも分かる時が来るから今は堪えろ」
「ぬぅ……。そこまで言うなら、信じるぜ。でも、奴さん、四人て言ってたよな。あとハジメとキミ君だろ? 知ってんの? 皆。何か、こういう事態を」
それもそのうち分かる事だ。と言い残し、愛車にそそくさと乗り込み、峠を港湾地区方面へと下って行った。
晴男は暫く、主の居なくなったBMWを眺めていた。そしてケータイを取り出すと、東海林に連絡する。
「あ、キミ君、オレオレ! オレオレ詐欺じゃねーよ! オレだっつーの! 今〝ダイラ〟にいるんだけどさ、大至急軽トラ乗って来いよ。え? ジコってねーよ。ビーエムのS1000拾ったから、キミ君にあげるよ。ワケは後で。フカシじゃねーって! 早く来いよな。じゃーな」
そんなわけで、その日は結局診察には行かず帰宅したのだった。というか、病院の『ょ』の字すら、キレイサッパリ頭の中には無かったワケで……。




