【侵略者】 ーー発火ーー
そんな最高潮に有頂天な晴男のスリップストリームにいつの間にか1台のBMW(多分S1000RR)が食らいついていた。
確かに、借り物の、そして中古パーツを寄せ集めたマシンだとて、晴男の駆る東海林公右衛門の矜持を懸けた珠玉の2スト500を追い上げてくるとは大したウデだ。
借り物のマシンでの限界バトルは遠慮したいもの。落ち着いたベテランライダー晴男はペースを乱さない。
ミラーの中に入ったり消えたりするBMヤローに対し『抜けるもんなら抜いてみろ』的なオーラを背中から発散させ、最速ラインを維持したまま頂上までランデブーを続けた。
富士見平山頂のパーキングでコーラを飲みながら、丹念にタイヤのチェックなどをする晴男にチラチラと視線を送りながらBMWの男がヘルメットを脱いだ。
ビシっと切り整えられたブロンドが、まさにナイスガイなカンジを醸し出す白人の若者が、爽やかな笑顔と共に近づいてくる。
「コニチハ。ローカルノハシリヤサンデスカ? メチャメチャハヤイデスネ」
含みを持たせたような白々しい片言で話しかけてくる。
「オー、ジーザス! ベリベリエクセレントモーターサイクル。ソーセクスィ!」
「お前のマシンもそうとうカッコイイぜ。実物初めて見たよS1000RR」
「オゥ、センキュウ。ワタシ、ジョニー・ウォーカーいいます。MI6ノスパイ、ソノジッタイ、ウチュウカラノインヴェイダー……今後とも宜しく」
俄に若者の顔から、ナイスガイの仮面が剥げ落ち冷酷な猛禽類のように眼光が鋭さを増す。
「テル坊のガッコの先生か⁉」
晴男が、そう言うや否や青年の鋭い上段回し蹴り一閃! 晴男の頸部を襲う。
ゴキゲンなライディングの後の高揚感と相まって闘争本能にスイッチが入った晴男は鋭敏に相手のオーラを察知、というか、ハナっからこのブロンド坊やの薄っぺらなスマイルの下に隠された獰猛な殺気に勘付いており、既に第一撃に対して警戒体勢をとっていたのだ。
よもや攻撃をかわされるとは思いもよらなかったスチュワート、勢い余ってバランスを崩す。体勢を立て直す間を与えず、今度は晴男のローキックが唸る。
ひかがみ(外側側副靭帯)にモロに決まり、たまらず膝を着く。ここで側頭部にもう一発入れときたいところだが、万が一死んでしまったら、輝男に会わす顔が無い、っつーか、逮捕される!
「テメエ! 何者だ⁉ なんで俺を狙う! まさかウチのセガレに何かしてねぇだろうな! オルァア!」
鋭い気合いで相手を威圧する。スチュワートは気圧されながらも、先程までとは打って変わって流暢なイントネイションで、なにか覚悟を伴うドスの効いた声を放つ。
「見損なうな。我々は女子供を盾に取るような愚劣な性根など持ってはいない!」
――何だろう? 脳裏をかすめる既視感。この青年の放つ、妙に暑苦しくも潔癖なエナジー。青白いガスバーナーのようなオーラに対峙するのは、初めてでは無い。……?……、 確信は持てないが……勘違い?――
様々な困惑がマーブル模様になって晴男の意識に靄をかける。が、今それどころじゃない! この金髪の青年はマジで自分の命を狙って来ている。
「ミナミハルオォ! 俺の正体を、息子の拙い情報から正確に割り出すとは、貴様やはり危険人物だ! 総統閣下は手を出すなと言われたが、俺には堪えられん。たとえ軍律を犯しても、貴様ら四人とも許す事は出来ん! 刺し違えてでも、今此処で貴様を殺す!」
スチュワートは漲る闘志を、憎悪に燃える視線に宿らせる。
呪うような叫びが、冗談や世迷い言でないことはビンビン伝わってくる。
しかしながら晴男には彼の怒髪がそうまで天を衝く理由が分からない。全く分からない! 彼は視線を晴男に据えたまま、ルイスレザージャケットのポケットから、一見して武器とは分からないが、『ヤバイブツ』だということは何となく分かる、見慣れぬ金属で出来た装置を出した。
「ちょ、待て! ジョニー! 総統閣下? 4人ともって、ナニ⁉」
晴男の混乱も絶頂だ。
「我がキ・レール帝国に栄光有れ!」
スチュワートが、大声を上げ突進してくる。
「‼(なにぉ⁉ 自爆テロ?)」
流石の晴男も硬直した。




