【侵略者】 ーー総統ーー
その、蒼き惑星より、遥か彼方230万光年の銀河から、情念の烈火燃ゆる眼差しを向ける巨大な宇宙戦艦。
その巨大さたるや、全長90000m、全幅50000m、全高45000m、推定重量35億t。
握り拳を模した筐体は、戦艦というよりはむしろ母艦、否、要塞と言った方が近いと思われる。
「あの星か? あの湿っぽい星のどこかに居るのだな、ミナミは!」
モニターを仰ぐ宇宙船のキャプテンと思しき、分厚いナイスミドルの苦い眉間には深い溝が刻まれ、顳顬にはアブラがギトリ照り映えている。
「ハハッ、アンドー総統閣下! 当該惑星に於けるいかなる有機生命体とも明らかに異なる構成成分を持つ、ヒト型の熱源4体捕捉。マザーコンピュータ『那由他』も98・7%の確率でミナミハルオ並びに他3名と判定しました」
上級士官らしき堅牢な体躯と、インテリジェンスを漂わすマスクを併せ持つ若者は気色ばんで敬礼しつつ報告する。その表情のほんの片隅、口角挙筋のコンマ数mmの動きに、彼の満足げな愉悦の念を垣間見た気がしたアンドー総統閣下は理不尽で陰険な、言い掛かりと言っても良い苦言を呈す。
「98・7ぁ? なーんでヒャクパーじゃねーんだよ! おぉい、カトーくんよ。我が軍のスーパーコンピュータがそんなハンパなことでどーすんのよ? えぇ、おい大佐殿!」
アビエイターの奥から刺すような視線で不要なプレッシャーをかけまくる総統閣下。
若き上級士官は総統閣下の怒りの原因が判然とせず、軽いパニック状態に陥りながらも、ひたすら背筋に力込め、全くもって無駄に重厚な圧に耐える。
「たかだか98・7パーっくれぇで賢しらに……、100イってから報告しろっつーんだよ! 馬ッ鹿野郎がっ!」
口を開く程に止めどなく激昂する、現場至上主義で叩き上げの親方の怒気がドス黒い瘴気のように、もはやクルー全員に巻き憑いている。
自分の落ち度ではないトコロに言い掛かりとも言えるツッコミを入れられても只々耐えるほかない大佐の、乾いてヘバリついた喉の奥から返答が絞り出される。
「お、恐れながら総統閣下、当時と現在とでの次元的な相違及び、若しくは、ええ、と、摂取エネルギー源の相違。或いは電磁波の影響とか……」
「ええい! もうよいわ! 一億歩譲って、98・7で勘弁してやるとしてもだ!…………」
『赦す』と言いながらも更に詰め寄る総統閣下。もはや、酔狂で若者イヂメに興じるクソジジィ感が全面に露呈している。
「彼奴等めが何処に潜伏しているのか、居場所の特定は出来ておろうな? カトー大佐殿」
「!」
またも不備をつかれ、既に色を失っているカトー大佐の、精悍であった顔はイッキに20年程加齢していた。
「お、恐れながら総統閣下、と、当該惑星ほ、ほ、北緯48度西経97度あたりを中心とした、広範囲に密集する諸島群の何処からか、強烈な電磁波及び放射能を検知。おそらくはこれが強く起因するところのサーチシステムの錯綜とおもわれ……」
シドロモドロの釈明を遮り、総統閣下は口角を上げ猛獣のように犬歯を剝き出す。
「ほう、放射能とな」
獲物を引き裂くジャングルの猛獣のような表情にカトー大佐は更に竦み上がる。
「それにしても、さっきから『おそらく』が多いな貴様! その『諸島群』とやらの何処かに居るのは明白ではないか! とっとと乗り込んでシラミつぶしに爆撃してやるのだ! 放射性物質の採取も忘れるでないぞ! 総員配置に付けぃ! 彼の惑星に向け全速前進!」
真っ黒でタイトな軍服の下の筋肉の脈動が見て取れる程、昂揚とともに全身がパンプアップしたアンドー総統閣下の灼熱のオーラに呼応するかの如く、超巨大宇宙戦艦テッケンのメインエンジンは臨界に達していた。
「あの日あの時あの星の屈辱以来幾星霜……栄えあるキ・レール帝国復興の御旗のもと更に屈強なる心身に錬磨された我が軍の冴え、とくと見るがいい! ミナミハルオめ!」
総統閣下に感化され種族の本能に熱い火が灯った幕閣およびクルー達も、思わず鬨の声を上げ、拳を突き上げる。
テッケンはその巨体を捩り、血気に逸る騎馬武者の如く230万光年を一気に跳躍した。




