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翳り行く街の光と影  作者: いしかわがる
14/42

【商店街】 ーー好機ーー

 シャッター通りが年に一度、活気を取り戻し、唯一輝けるシーズン。

 老若男女がこぞって舞い踊り、市外からも多数訪れ、マスコミも取材に来る。

 由緒ある街の誇り『常楽町七夕祭り』。

 この日が無かったらこの街の存在理由さえ怪しくなる。それ程、この街にとってかけがえのない大イベントなのである。

 駅前アーケード街からこの商店街までの約1kmに露店が立ち並び、商店主が丹精込めた七夕飾りが軒先を彩る。

 空きテナントもその日限りのイベント会場として使われたり、ビアホール等を催しては小使い稼いだり……、とにかく、普段は一体どこに隠れているんだろうというほどの人出から、この街の持つポテンシャルを鑑みるに、たしかに磨けば光る燻し銀の魅力は否めず地元有志達の恋着愛執も甚だ理解に難くない。

 客観的に見ても、実に地主店主の欺瞞や怠慢を推察するにつけ、憤懣やら、忸怩たる思いを禁じ得ないのである。

 そんな大イベントまで二ヶ月を切った忙しいサナカ。スナック『ディアマンテ』では、猛田豪太郎が桜井正義と共にアルコール補給にて英気を養っていた。

 晴男はというと、チイママ陽子と共に猛田のボトルをじわじわと消費させ、輝世ママはTVのニュースを眺めている。

 平日という事もあって桜子は非番。たまたま手持ち無沙汰であった長男晴輝と南家の収入源、美容室オーナースタイリスト不知火流時がカウンターに入っていた。二人とも白いYシャツに黒い前掛けがなかなかサマになっている。

 TVモニターが映し出すニュースは警告する。

 『森林の衰えに因り生態系のバランスが崩れ、各地で熊、猿、イノシシなどの野生生物出没が続発。今後も注意が必要……』と……


                 ✻


「要するにだ! なぜゆえに商売の跡取りがいねぇのか! それが問題なんだよ。なぁ、豪ちゃんよ!」

 桜井が愚痴りはじめ、猛田のエンジンにも点火する。

「まったくだ! てめぇらは父祖代々の財産でさんざ贅沢しといて、時代も読まねぇわ、商売が左向きんなりゃケツももたねーわで廃れっぱなし。挙げ句セガレにゃ固ぇ仕事に就け。だ」

 どうやら猛田と桜井は普段使う事の無い神経を酷使しすぎてフラストレーションがそろそろヤバいらしい。

「商売する気がねぇなら土地売ってどっか他に住めば良いのによぉ」

「とまでは言えない。辛いトコだわな」

 晴男も適当にツッコミを入れ盛り上げを図る。

「人権問題ですな」

 と陽子。

「てゆーか、土地売ろうにも安い上に買い手も付きゃしねぇ……」

 どうにもこうにも地主との折衝で当初から想定していたカベにブチ当たって早くもクサっている猛田と桜井に便乗して猛田のボトルをグイグイ減らす晴男と陽子。


 過去幾度も聞いた事のある話を繰り返すばかりの討論会が佳境に入ろうとしたその時、ディアマンテのドアを開けたのは不穏なムードと派手なスーツを纏った7分3シチサンのリーゼントと、エルメスっぽい意味不明な柄のブルゾンに白いボンタンに白いエナメルの尖った靴を履いたオールバックにキャッツアイのチンピラだった。


「いらっしゃいませ〜。カウンターでもいいですか〜」

 ホロ酔いのイロッポイ笑顔で陽子が促すも、派手スーツの7分3シチサンは無視。ボックス席にドスッと腰をおろしては「シャンパン」とひとこと。

 陽子もまったく動じない。「ママ〜、シャンパンはいりました〜」と快活な笑顔で7分3シチサンの目の前でコルクを抜く。

 エルメスのエナメルは、猛田、桜井、晴男、晴輝それぞれを頭からつま先までためすがめつ、まるでニワトリのようなモーションで値踏みする。値踏みが終わり、陽子のガッツリ開いたブラウスの胸元からあふれるようなおっぱいをガン見しつつ席に着き、7分3シチサンのグラスに酒を注ぐ。

「おめぇら、見ねぇカオだが、どこの極道だ?」

 半嗤いでイカくんを齧りながら桜井が小馬鹿にした口ぶりで尋ねる。

シチサンは依然として知らん顔。エルメスのエナメルが食いしばった歯を剥き出しながら桜井にメンチを切って行く。桜井もこれに応じ、「あ!」「お!」とやり合う。

「ニィちゃんこの店であんましハシャがんほうがいいぜ。ホントもの凄く後悔する事になるから……」

と、猛田が神妙なカオで警告する。

 猛田のヘネシーをチビチビ消費する晴男はもはや出来上がっちゃっていい気分。

 カウンターの中晴輝はアイスピックで黙々とロックアイスをつくる。

「南那実サンて、ココの娘さんですよねぇ!」

 シチサンが虚空を睨みながら声を張る。

「ウチのムスメがナニか?」

 晴男がおもむろにシチサンに向き直る。

「あ〜あ……詰んだ……」

 猛田はあきらめ顔で天井を仰いだ。

「先日、ウチの社長がオタクのムスメさん一味に囲まれてボコボコにされちまいましてねぇ、それで今、那実サンを傷害で訴えようか、それとも誠意を見せていただければ示談でもいいかというハナシになっとるんですわ」

と言いテーブルに名刺を置く。

『DNTレコード渉外部長 躑躅ケ崎昌胤』と記された名刺を手に取り、晴男はカオをしかめる。

「ケしか読めねーよ。めんどくせーからシチサンでいいよな」

とシチサンの分け目にチョップした。

 陽子は思わずフキ出し皆それにつられる。エルメスのエナメルだけが唖然とし愕然となる。

 その手を払い退けるや、シチサンの手はシャンパンのボトルを掴み、晴男の頭を殴打。瓶の破片とシャンパンが飛び散る。

 シャンパンと晴男の頭部から吹き出す血が混ざり、晴男のダボシャツをロゼ色に染めて行く。

「あ、申し訳ない。アタマにハエが止まったと勘違いしまして」

 スーツについたシブキを拭いながらシチサンは猛禽類のような目でハルオを見下ろす。

 意識を失い倒れ込む晴男を猛田が抱えながら慌てた表情で、シチサンを諭す。

「おい、マジ悪ィこといわねぇから、帰れ。お前ら。マジで」

 シチサンは表情を変えず晴男を抱えた猛田に近づく。手にはまだシャンパンの瓶の口が握られている。

 気絶したハルオを覗き込みながらこう告げる。

「災難が降り掛かったのがお父さんで良かった。これが娘サンや、小学生の息子さんだったら大惨事ですよ」

 慇懃無礼な口調で脅迫にかかるモノ知らぬ他所者ヤクザ。

 顔面蒼白の猛田は覚悟した。「(コイツ、マジ詰んだ。全て終わりだ)」と。

 街の復興どころか、惨殺の現場として歴史に汚点を残してしまう。どうやって隠蔽するかが、猛田のアタマの中を駆け巡る。

「素人がっ! 本職ナメてんじゃねーぞクラァ! また来るからな!」

 エナメスはイキがってワメキちらす。

 『ドカン!』カウンターの中、晴輝の持っていたアイスピックは厚さ10センチあるハードメイプルのカウンターに付け根まで突き刺さっていた。

 エナメスは晴輝の覇気に、チビリそうになるのをなんとか堪えた。

 シチサンはというと、更にスルドい視線を晴輝に向けながら、恫喝する。

「君は、那実サンのお兄さん? バイクに乗る時は気をつけた方がいいよ。最近マナーの悪いクルマが多いから……え?」

 その瞬間シチサンのカラダはフワリと空中に浮いた。ブチ切れ状態の晴男のボディスラムで仰向けになったカラダは天井近くまで飛び上がり、そして思い切りフロアに叩き付けられた。

 呼吸が出来ないまま晴男の猛烈なキックを受ける。なんとかアタマを守るが、アバラはもうメチャメチャだろうと自覚する。

「(いってぇえ! ああ、オレ死んだわ。……あのクソ社長! 聞いてねぇぞ、こんなの……クソォ、いてぇなぁ……)」

 シチサンは遠のく意識の中己のツキの無さを嗤った。


 制止しようと飛びかかったエナメスは裏拳をくらいあえなく昏倒。

 こうなってしまってはもう、並の人間では晴男は止められない。

「晴輝! アンタなにサボってんの! 早くパパ止めなさい!」

 輝世の一喝で我に帰った晴輝はカウンターを乗り越え、忘我の父晴男の右半身、肋骨の下側をロックオン。晴男の右足が蹴り込むと同時にカウンターで右のショートアッパーをめり込ませる。輝世以外の誰もが、何が起こったのか理解するのに数秒を要した。

 電光石火のリバーブローがモロに決まり、余りの苦痛に転げ回って悶える晴男に対し、同情さえ抱く一同。

「ああっ、オヤジ、ゴメン! そんなに効くとは思わなかった……」

「ぐぅふぁっ! いたい! いたいよぉお! テメェハルキこの野郎っ……しばらく小使いナシだかんな!……ぁああ!」

と吐き捨ててまた失神。

「そ、そんなぁっ! つーか、オヤジに貰ったコト無いじゃん。小使い……」

 猛田と桜井は、事なきを得て安堵すると同時に、このメカオタヤンキーの腕っぷしに心底恐れを抱いた。

「おい、ニイちゃん、生きてっか? 今救急車呼んだからな。ガンバレよ!」

 桜井と不知火がシチサンを励ます。辛うじてまだ意識はあるようだ。

「だから言わんこっちゃ無い……つーか、DNTレコードっていやぁ、うちのセガレが『スカウトされたぜ!』ってウカレてたの、アレ本当だったんだな……」

 シチサンの名刺を手に猛田がつぶやく。

「しかし、フタを開けたらコレじゃーな……とんだババじゃねーか」

「でもDNTの親会社って大メジャーの『大日本帝国レコード』っすよ、なんかウラが有りそうですね……」

 不知火は厄介な事になったなと神妙な面持ち。

 そこで晴男がパチリと目を覚ます。

「ほほ〜ゥ。叩けばモクモク埃が出そうですなぁこの組織。ひょっとしたらもの凄ェタナボタかもしんねーぜ。コレ」

「ババ引いちゃったのはアチラさんだったってワケね」

 陽子はわくわくしている。他の皆もすでに悪魔の顔つきになっている。

「とりあえずこっちのチンピラに知ってる事全部ゲロってもらいましょう」

 桜井はエナメスの顔に冷やタンの水をぶっかけた。

「俺ぁタダの下っ端だ! 何にも知らねぇよ! お前ら、上のモン怒らせたら命ねぇぞ!」

 この状況でまだイキがるかと、皆呆れる。

 晴男は悪魔のように笑いながら「あ、そう」というとカウンターに付け根まで刺さったアイスピックをまるで豆腐からでも抜き取るように引き抜きチンピラに向き直る。

「わかりました! ジブンの知ってることはゼンブ話します。話させてください」

 エナメスは失禁していた。ーー


 ーーそんなこんなで地元最大の夏フェス4DAYSも終わり、それまでのフィーヴァーがまるでまぼろしだったかのように街は普段の顔に戻る。

 漂う生ゴミとビールの匂いだけが現実にあった幻を物語っているかのように。



 


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