表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翳り行く街の光と影  作者: いしかわがる
12/42

【商店街】 ーー箱主ーー

ライブハウス『Heart Break Hotel』

 ーーRouxious東京強襲ツアー凱旋ギグ!! ToDays Act:「Rouxcious」「凄腕スティックマスター」「マジカルミステリーハンドガール」「ソルトシュガーペッパー警部」「ザ・パルプンテ」ーー 


「へぇ~、コリャまた豪華なメンツ集めたねぇ~」

 蓮華市内最大の商業地域〝大黒町〟の片隅、裏路地のフキダマリにある老舗ライブハウス〝ハートブレイクホテル〟のサインボードを見て晴男は感心する。

「ふん! 悪かったな、裏路地のフキダマリで」

 オーナー海野航平ウンノコウヘイ(49独身)は憮然としたカオで晴男とハイタッチ。

「あ、なに、キゲンわりぃ?」

「べつに……、これからお前のムスメっ子達のリハだからよ、手短かにな」


 ――海野航平は、平生からしてロッカー特有の無愛想な不機嫌ムードを漂わせ、本当に不機嫌な時にも落差が分からないので、深く付き合えるのは、繊細な気配りの出来る者か、全く無神経な者かのどちらかだ。しかし、一度心の通じた者には、それこそ身内のように親身になって献身的なサポートを惜しまない昭和のロックスピリッツを持ったナイスガイなのだ。――


 そういえば、ハートブレイクホテルの前の通りに路駐してあるのはリアフェンダーに猛田不動産と書かれたハイエースバン(Rouxiousの機材車)だ。RouxiousのリーダーでDrを担当する猛田豪太郎の長男、武士タケシ(25)が鼻息も荒く自前のタイコを運び込んでいる。

「おい、タケシ! 気合い入れてけよ!」

と声をかけると、一瞬驚いて体を硬直させ、何故此処に? という表情で

「チワッス! どーもッス! 晴男さん今日俺らのステージ見に来て下さいよ。今日は俺らの東京ツアー成功のパーティーなんで」

などと生意気を得意気にホザきやがるからついイヂメたくなってしまう。

「おう! ほんじゃぁ、商店街振興組合の重鎮達引き連れて来てやらぁ。勿論ロハでな!」と、海野と共に悪代官笑い。

 武士の顔面に縦線数本と汗のマークがありありと見て取れた。

「バカいわないでよね! タケちゃん。パパが来たらアタシ帰るからね!」

 店から出て来た娘の那実がリーダーの機材運びを手伝いながら激しい拒絶反応を示す。

 ちょっとこれには流石にヘコんだ晴男。海野も流石に気の毒そうな顔になる。

「あーあ、パパってば嫌われちゃってェ……」

 コンビニから帰って来たVo担当のスージー、鈴木須美子スズキスミコ(18)が背後から晴男の腕にしがみついてはもたれ掛かりながら

「でもナミは本当はパパのことが大好きなんだよねぇー」

と言ってからかう。那実といえばそんなことはシカトで、せわしなく機材を運ぶ。

 鈴木須美子は常楽町に隣接する〝弁天町〟に住んでいる。南家の長男晴輝の中学生迄の同級生で、現在は那実の通う高校の先輩である。幼い頃からよく南家に出入りしており、晴輝と遊んだり、まだ幼児だった輝男のお守りなんかもしてくれていた。

「あのなぁ、須美子、おめぇやたら胸を押し付けてくるんじゃないよ、それから、そんなに肌をさらけ出して歩くなよ……」

 Wのライダース風なGジャンを羽織っているとはいえ、目にも鮮やかな真っ赤なパテントレザーのビスチェからこぼれそうな乳房や、ミニスカートとニーハイブーツの間にある太腿の弾けるようなかがやきが道行く者の視線を釘づけにしている。

「なになに、晴男パパ。照れてんの? もぉお〜、かわいいんだからぁ!」

といいながら、晴男の腕から離れる様子は無い。

「だ、誰がっ! まだまだヒヨッコだっ、おめぇなんぞ。 ツーカ、なにしてんだ、リハだろ? とっとと行けよ」

「何よ、見に来てくれたんじゃないの? アタシらの凱旋ライブ!」

 須美子は他の誰にも見せないフクれた表情で晴男にダダッ子のように振る舞う。その妖しい愛らしさに海野はクラリとしそうになるが、同時に晴男に対しメラっとした感情を覚えるのであった。

「俺がいたら、お前以外のメンツはまともに出来ねーだろーが。特にナミがよ」

「そういう試練を与えるのも保護者の務めなんじゃないの? ま、ウチらもう、そんなにヤワじゃないけどね」

 イタズラな瞳の輝きからは100人中120人の男の人生を狂わせるであろう程のポテンシャルが溢れ出して溢れている。 

 USC日本大使館の常駐外交官である父親とは滅多に会えず、家庭は裕福ではあったが母子家庭のような環境で育っていた為、幼児の頃から幼馴染みの晴輝や那実をダシに、南家に家族のごとく出入りしては晴男に父性を求めていた須美子はファザコンだ。が、最近では晴男に家族愛以上の何かを求める自分に薄々気付き始めている。晴男は晴男でその気配は察知していながらも女房以外の女に男っ気を出す気は毛頭無く、まして伜の同級生など論外と、努めてぞんざいに扱うことにしているのだ。が、しかし、厄介な事に幼少期から晴男に啓蒙されて育った須美子はそんなことでめげるようなヤワな女ではないときている。

 子育てとは、いつの時代も正解の無い難題だとつくづく思う晴男であった。

「今コウちゃんと大事な話してんだからジャマすんな」と、手の甲で追い払うジェスチャーをする。

「なぁに、子供には言えない怪しいオッサン同士の悪企み? 通報するわよ♡」

 蠱惑的な表情で人差し指の銃口を向けながら可愛い台詞を残し、若い肢体を弾ませるように店の中に消えてゆく。

海野航平は晴男にだけは分かるくらい目尻を下げながら我が娘ようにその後ろ姿を見守る。

「……メジャーに行ったら、あっという間にスーパースターになっちまうな。

あいつぁ……」

「そうかねぇ……、そうなりゃ、なったで、地元の宣伝バンバンしてもらわにゃあ!」

「なんだよ、おめー知らねぇのか? アイツらどうも、トウキョウでレコード会社に声かけられたそうだぜ」

「マジかよ、アイツひとっ言もそんなハナシしてねーぞ……」

「……溝、どんだけだよ……」

「…… (溜め息)…… …… 」

 結構ヘコんだカンジになってしまった晴男を素直に気の毒とは思えないのは、自分自身50を目前にして依然独身だからというだけではない海野航平49歳。

「んで、話とは? マジ手短かに頼むぜ」

 そう、何かちょっと海野の言葉に剣があるのは、スージーが、自分にはそこまではしないスキンシップを晴男相手にはしたのがちょっと気に食わなかったからだ。オヤジのかわいい嫉妬である。

 晴男は気を取り直し切り出す。

「……、今さ、こっちの地元商店街発信でプチ都市開発を計画中でね、かなりマジな。いずれコウちゃんも参画してもらうっつー前提で、今は協賛者として名前だけ貸して貰いてぇんだけど。」

「……参画ってのはちょっとビミョーだが、名前だけならやぶさかじゃねぇよこんなチンケな名前でいいならガンガン使ってくれ」

「さっすが、コウちゃん話せるぜ。マジ恩に着ます。細工は流々仕上げをご覧じろってね。コウちゃんが支店を出したくなるようなアツい街にしてみせっから、楽しみにしてくれな」

「フンっ、まぁ、がんばってくれよ。そんときゃ家賃安くしろよな」


 ――ライブハウス『ハートブレイクホテル』は70年代から続く県内に於けるロックの殿堂であり、過去様々な大物ミュージシャンがここのステージを踏み。また数々の名バンドを輩出している、ハコの中のハコ。キングオブハコなのである。

 海野航平が率いていた『Peace Maker』もレギュラーハコバンだった。 

 メジャーに誘われもしたが、メンバー全員一致で誘いを蹴り、インディペンデントの雄のまま現役を退きその後、海野は初代オーナーから店を引き継ぎ、ハートブレイクホテルの名を現在に伝えている。――


「ワケわかんねーよ、何、ハコの中のハコって? マトリョーシカじゃねーっつーの!」

「いいじゃん、キングオブハコ!」

「けどな、名前貸すのには条件が有るぜ、……そろそろお前ら〝PGP〟のギグが見てぇな。いつでもブッキングしてやっから、早く戻って来いよ〝こっち側〟に」

 海野は親指を立てて自分の店の入り口を差す。

「ラジャー! 前向きに善処しましょう。……ただ、北大路とキミエモンが忙しくてね、なかなかスケジュール合わねーんだよな」

「俺らもそんなこんなで、空中分解みてぇになっちまったからな……おめぇらにゃそうはなって欲しくないんだがなぁ……」

「わかってるって」

 ゴス・トラッカーを被りながら海野の老婆心を嗜めるように笑う。

「それはそうと、ウチのガキ共、ヨロシク頼むぜ」

「ああ、アイツらは俺がヨロシクしなくても大丈夫! ステージをちゃんとわかってる。ファンも増えてるしな。やってる事はプロと遜色ねぇ。いまやウチのカオだぜ。大したもんだ」

 海野の顔が我が子の事の様にほころぶ。

「……ジャリバンドを褒めるなんて……、トシとったな、コウちゃん……」

「うるっせーよ! てめぇ、単車も良いけど、ギターもいじれよな!」

「ああ。それじゃ、おジャマさん」

 単車のエンジンをかけた時、桜井正義の長男、B担当のヒトシ(20)が慌てたように出て来た。

「ハルオさん、チワス。なに、もう帰んの? リハ見てって欲しいのに」

「(どいつもこいつも、ちょっと見ねぇウチにちょっと成長しやがって……)

ほう、俺に見せたいと思う程自信があんなら上等。ノープロブレム。思う存分カマしてよし!」

そう言うと、アクセルターンから派手にフロントをリフトさせてシブく去った。

 仁は「ヒュ⁓」と口笛で晴男の背中に喝采を送った。

 その夜のRouxiousのギグは特にリズム隊のグルーブが際立っていたという。


 晴男はPRサイトのコンテンツを飾る実質的及び表面上の協賛者の名義借用の許諾を得る為に市内を駆けずり回り本日のスケジュールは完了。暖かい我が家へ帰還した。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ