表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翳り行く街の光と影  作者: いしかわがる
11/42

【西園寺】 ーー始動ーー

 晴男は、単車に乗る際の正装、VANSONのレザーウェアに身を包み、自慢のマシンを格納してある2坪程の納戸の扉を開ける。

 普段は晴輝が乗り回してる晴男のマシン。ベースはGSX1300Rだが、原形を止めぬカスタマイズを施されたストリートファイタースタイル。

 モタード風ビキニカウル中央部にラムエアダクト、GSXーRーK8のシートカウルを流用し、タイトでスパルタンなルックスに仕立てられている。

 エクイップメントはまず、SHOWAのビッグピストン倒立フォーク、ブレンボレーシングキャリパーは勿論ラジアルマウントにラジアルポンプ。ローターはルックスで選んだモトマスターフレイム。

 リア周りは晴輝がCADで図面を引きワンオフで作製したカーボンコンポジットの片持ちスイングアームにクァンタムPBーMONOをセット。

 エキゾーストもワンオフ、フルチタン&カーボンサイレンサー、前後ホイールはマルケジーニのマグネシウム鍛造。

 ヨシムラステージRカムシャフト、ワイセコハイコンプ鍛造ピストンにチタンコンロッド、フルカウンタークランクシャフト、その他徹底的な軽量化でカタログ値よりも70kgの減量に成功している。

 最大トルクは6500rpmで15・7kgーm、ラムエア加圧時には321psを17500rpmで絞り出すモンスターだ。

 キーを回すと二眼のダイアル式メーターの針が踊るように跳ね上がる。

 セルを回す。

 キュルルッ、ボボボ…………

 まるでノーマルのように安定したアイドリング。

「あの野郎、ちゃんと乗れてるみてぇじゃねーの」

 アイドリングの澱みの無さとフロントタイヤの様子でセガレのライディングを解析し、いやらしくほくそ笑む。

 アライのゴス・トラッカーを被り、アルパインスターのグラブをはめる。丁寧に指一本ずつフィットさせてゆく。

 充分に暖気運転させピストンもビンビンに膨張したところで、シフトペダルを蹴り、クラッチをニュワっと繋ぐ。ワイセコ鍛造とヨシムラ・ステージRが軽くフケ上がり、前立腺を刺激するようなブっといトルクを発生させながらほとんどフロントが接地しないまま西園寺の家まで束の間の超常空間の旅だ。

 晴男の盟友、西園寺肇の住まいは、蓮華市の西方に隣接する〝花房市〟

 妻子と三人で暮らすウェブデザイナーで、ブロッコリーのようなカーリーヘアとレイバンのシューターがトレードマーク。

「今度、コッチの地元復興の為のPRサイト立ち上げるんで、制作頼むわ。一応これ、ゲラ持って来た」

といって、コピー紙に手書きのトップ頁レイアウトのような物を渡す。

「ゲラって……おめぇ、手書きじゃねーか! っこんなもん!」

 執拗に細かく紙吹雪の如く破り捨てる。

「あーーーー‼ てめぇ、折角七分もかかって書いたのに!」

「プロの仕事なめんなよ、口で説明しろ!」

「わかったよ、あーあ、なにも破るコタァねーだろうによ」

 晴男はボヤきながら、計画の概要を説明した。

「それで、ギャランティなんだけど、こんだけ出るからよ」

 得意顔で人差し指を立てる。

「ツェーマンかよ! シけてやがんなぁ!」

 西園寺は極端に片眉つり上げた表情で不満の意を猛烈にアピールする。

「ばか、ツェージューだっつーの。ま、これは俺の采配だけどな。……今回振興会のお偉方、本腰入ってっからよ、ナメちゃあいけねーぜ。実際PR用にヒャク用意してっからね。割り振りは俺に委ねられてんだけど」

 晴男の、何処かしら偉そうな態度が癪に障る西園寺。

「振興組合の会長、馬鹿? お前にツェーヒャクって……パチンコ台に吸い込まれなきゃいいけどな」

と、呆れ顔でチクリ。

「おいおいおいおい、人聞き悪ィなぁおい、俺ぁな、地元の未来を人一倍憂う郷土愛溢れる男よ。背任なんかするかっつーの。だいいちこの予算でも心もとないくらいだぜ」

 実はこの百万円という資金、晴男が世のため人の為に働くのなら。といって輝世がポンと寄付したトラの子なのであった。流石の五大老や、利害各位もこのキップの良さには舌を巻いたものであった。江尻翁など、感動のあまり心の臓が止まりそうになったくらいだ。そして、有志皆ささやかな老後の蓄えを切り崩して軍資金を持ち寄った。これが、最初の原動力になってこの計画が軌道に乗せられたのだ。

 無論、このことを晴男は知る由もなかった。

「ふぅん、まぁいいや、10で何とかやってみっけど、宣材とかこっちに用意させるなら、もうちっと回してもらうかも。だぜ」

 ジッサイ、まだ計画だけの机上の空論に対して無理苦理信憑性をでっちあげるようなものだから装丁のセンスとキャッチコピーの能力がこのメディア戦略のキモとなるわけで、こりゃ相当本気でかからねばならねーな。と西園寺のハートにも仄かに火が点いたようだ。

「おう、じゃ、ギャラ先払いで置いてく。叩き台だけでも創ってジジィ達を納得させたら予算枠再考すっから必要なら請求書回してくれ。あ、領収書もヨロシク」

 西園寺のレスポール59をチャカチャカ空ピックしながらハイパーメディアクリエイターのような物言い。

「……お前、なんか、カッコいいじゃねーか……」

 言った後、晴男の『フフン』という得意顔に後悔を覚えた西園寺であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ