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翳り行く街の光と影  作者: いしかわがる
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【商店街】 ーー屹立ーー

「あんた! 何時だと思ってんの!」

 窓辺にはいろとりどりのマーガレットが咲きほころぶいい陽気。しかし毎度のことながら煎餅布団のぬくもりから抜け出せぬ晴男を目覚めさせるのにかなりの熱量消費を強いられる良妻賢母な輝世。


「何時て……まだ十時じゃんかよぉ!」

 剥ぎ取られた掛け布団に再度むしゃぶりつき有り得ない逆ギレを見せるヤドロク亭主。次の瞬間、輝世の艶めくしなやかな脚線美が晴男のぶっきらぼうな下半身を固める。

「! はぶっ! ……‼ ギブ! ギブギブギブ!」

 芸術ともいえるスピードでリヴァースインディアンデスロックを決められ、惰眠の淵を彷徨い歩く、貪りの虜はめでたく現実世界に引き戻されたのであった。

「豪ちゃんとモモさんになんか頼まれてんじゃないの? アンタ」

 あの会合から、五大老は本腰入れて改革の基礎作りに取り組み始め、更に突っ込んだ計画の予算案が常楽町振興会総会で迅速に討議、過半数の賛成を得て是認され、復興及び振興計画はより一層の信憑性を帯びて来たのであった。 

 どうやら、復興の狼煙はミナミビルを軸として、周辺の地主にも賛同を仰ぎ、そこから始まる複合型コミュニティセンターの建設から上げようぜ! と、まぁ随分思い切った絵図を描いた五大老。とりあえずややこしい折衝は江尻の大将サイドで進めるとして、ハルオの遊び人故のカオの広さと機動力を利用しての改革案の周知活動と参画希望者(便宜上)の言質をとる役目を依頼したのだった。

「そうだったな、あーかったりぃ。……しかし、ママ、いいのか? もし、用地買収とか、資金繰りが巧い具合に運んじまったら……」

「いいことじゃないの。モモさんも『絶対損はさせない』って言ってることだし。あと何年かかるか分かんないしね」

 晴男の心配などどこ吹く風と、どこまでもクールな輝世。

「そうだよな、ママがハズレ引くなんて想像出来ねーしな」

「さっさとご飯食べちゃってよ、アンタと違ってアタシは忙しいんだから。1ミリグラムでいいからアタシの負担を軽減して貰いたいもんだわ」

「イエッサー! ただちにアサメシに向かいます!」

 階下のリビングに降り、サラダに焼き肉のタレをブっかけ生の食パンに昨夜の残りの鶏唐揚げとともに挟み、カブリつく。それをカルピスオレンジで流し込みながら新聞に目を通す。

「そういえば、輝男から苦情があったわ」輝世は洗濯物をたたみながら伝える。

「夜明けにパパが悪夢にうなされる声がキモ五月蝿くて迷惑してる。今後度重なるようなら、然るべき措置を講じるらしいわよ」

 新聞に目を通しながら上の空で応える晴男。

「ふーん、そりゃ、まぁ、すまねーこって。つーか、『キモ』はあんた付け足したね、今。」

 カルピスオレンジをすする。「あぁ、旨い」と、化学的なオレンジフレーバーの妙を存分に堪能する。

「おい、ママ! 〝北米諸島〟上空でまたも軍用機が消息不明だってよ。なんかおっかなくねぇ?」

「……アタシらには関係ないハナシだね」

 一瞬、輝世が言い淀んだかに見えたが、黙殺。

「最近俺、ちょくちょく見るんだよね、悪夢っつーの? 内容が全く同じの」

「ふーん」

「隕石かなんかがこの惑星ホシに激突してさ、なんもかも破滅。自分の絶叫で目が覚めちまう時もあるんだよ」

「輝男、可哀相……」

「それにさ、ちょっと前までは、とぉーくの方から誰かに見られているような感覚が有ったんだけど、ここんとこそれが更に倍率ドンでさ、第三の目が開いちゃう一歩手前なカンジ。ほんとマジ、ジョーダンじゃないぜ」

「………………。」

「輝男も自分の部屋があんだから、ソッチで寝ればいいのに。まったく、パパといっしょじゃねーと寂しくて寝れないっつーんだぜ? もう三年生だっつーのに」

「とかいって、そんな事言われてウレシくてしょーがないってカオに書いてあるよ、アンタ」

「そ、そんなことねーぜ」と己のカオを撫で回す。

「晴輝や那実は頼んでも一諸に寝てくれないわよ」

「だぁれが、あんな極悪な外道共となんか! あいつらとなんか一諸に寝た日にゃあ、悪夢も現実になりそうで怖いワ!」


 ――南家長男の晴輝ハルキは、どヤンキーだが頭脳明晰、超理工系のメカ好きな高専高校三年。一年で全課程を修了してしまい。教師達にはUSCユナイテッドステイツオブチャイナの工科大学への飛び級留学を勧められたが、十代の貴重な時間を勉学ごときの為に費やしたくないと言う理由で特待生の誘いを蹴り、現在は学業そっちのけで幼馴染みの不良仲間とオヤジの単車を勝手に乗り回し遊び回る市内でも有名なフダツキである。長女の那実ナミは高校一年生。やはり近所の幼馴染みと組んだロックバンド『Rouxiousルシャス』でGtを担当するハードロック少女。やはりお勉強よりも、アルバイトとギグにつぐギグに明け暮れる日々を送っている。――「ま、二度と無い青春、今のうちに徹底的に馬鹿をやっておくがいいさ」とはヤドロク親父の談。

 そして、件の末っ子。輝男テルオ。小学三年生。晴男が、目の中に入れたら痛いけど可愛い! という程溺愛しているが、そろそろウザがられている。しかしながら、巧みにパパ心を掴み手玉に取っては使役する非凡なる才能を煌めかせるニュータイプである。

「ちゃんと労働の汗を流せば悪夢にうなされる事も無く熟睡出来るだろうに……」

 愛妻の言葉がグサリと、毛のはえた心臓に刺さる。

「と、とりあえず、ハジメんちに行ってシゴトの依頼しよーっと。だからママ、昼飯代とおやつ代と交通費でこんだけくれ。」

 晴男は人差し指を立てて要求した。

「はいよ」

 手渡されたのは梅毒研究で有名な人の紙幣だった。

「ええぇぇえええ⁉」

 露骨に不満を全身で表現するヤドロクオヤジは尚も懇願する。

「天は人の上に人を作らず!」

「黙んな! 子供三人とアンタ食わして、人件費も払って余分なカネは無いんだよ!」

「せめてもう一枚、もう1ノグチ! おねげーします、お代官様ー」

 いとすさまじき様相を呈している。

「まったくぅ、だれにむかってふっかけてんのよ!」

とか何とか良いながらも、もう2枚渡してやるところが男前な妻。

「やったね! マシンにガス入れてやれるぜ!」

なぞ言いながら、輝世のウェストを抱き寄せ感謝のキスをしようとクチビルを尖らせる晴男の股間にニーが入る。

 悶絶しのたうちまわるヤドロクを踏みつける、シルクのような皮膚をまとった妻の素足。

「ったく、チョーシ乗んじゃないよ」

「ううぅ、酷い……」



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