【ネタバレ】第一節あらすじ【復習用】
なにしろ二年半ぶりなので(笑)私自身の復習の意味もかねて作ってみました。
お役立てくだされば幸いです。
エクストリー王国王都、アンブルトリアにある酒場「クラリオン」で働く青年リョウ。変わり者の魔具師ヘイの家に居候する彼の本名は水瀬椋、数えること約一か月前、突然何の前触れもなく、この国、この世界に迷い込んでしまった医学生だった。
魔術が圧倒的な利便性をもって発展するこの世界には、医師という概念が存在しなかった。幼いころから医師を目指し邁進していた椋は、迷い込みと同時に自分の夢も失ってしまったのである。
なにができるのか、どうすればいいのか。
分からないまま過ごしていたある日、王都の東区画に魔物が出現。たまたま居合わせた椋の友人にして第四魔術師団の若き団長カリアの迅速な対応よりその場は事なきを得るが、その後、この東区画と、同時に魔物が出現し小さくない被害が出た西区画にて、原因不明の奇病「アイネミア病」が発生する。
世話になった人たちが、何もわからない椋に優しくしてくれた人々が体調を崩していく。魔術による癒しを受けても治らない。むしろ悪くなっているようにすら思える。
しかしその事実に気付いているのは椋だけだった。疑問を持っているのも椋だけだった。
水瀬椋は、動き出すことを決意した。
皆が苦しんでいるのをただ見ているだけなのは嫌だった。
そもそも治癒魔術とは何か。数多くの魔術の中で唯一魔具、「魔術が使える道具」にできない理由は何なのか。
資料の絶対的な少なさに衝撃を受けながら調べていこうとする中で、椋はこの国における治癒魔術の大家、治癒魔術師のヨルド・ヘイル、祈道士のアルセラ・ヘイルのヘイル夫妻と知り合う。
「治らない」ことに頭を悩ませていた彼らに教えを受け、偶然から知り合い友人となった、魔術の使えない騎士クレイの力も借りて椋は調査を進めていく。周囲の人々に話を聞き、様子を診ていく中で、椋はアイネミア病が「自己免疫性溶血性貧血」という疾患に似ているのではないかという暫定結論に至る。
しかしそれなら症状が足りない。しかもどうして同じぐらいの発症で症状に個人差が大きいんだ?
少しの問答の末に王都の詳細な地図を手に入れた椋は、魔物の出現地点と症状の重症度および有無のプロットを開始。徐々に目に見える結果が集積し始め、翌日には中間報告に行こうと考えていたその夜、事態は急転する。
王都北区画、貴族の屋敷の数多く立ち並ぶ一角に突然オルグヴァル【崩都】級、放置すれば一日でひとつの都を完全に崩壊させる力を持った魔物が現れる。同時刻、東西区画ではアイネミア病の患者たちの容体が急変。幾人もの患者が「ショック状態」、何らかの原因より致命的な血圧低下、呼吸不全を来した状態に陥る。
時は夜、魔物の出現より治癒魔術が使える魔術師の来訪を望める状況ではない。椋の魔術考察より、不完全ではあるもののふたつの治癒魔術、神霊術と創生術の魔具の作成に成功したヘイの力を借りて、椋は患者の治療を開始する。
しかしどれほど癒せど急を一度は脱せど、患者はしばらくの時間の経過で再度全身状態を悪くする。手持ちの魔具もすべて壊れ、もうだめか、手詰まりかと思われたそのとき、突然北の空が白くまばゆく光った。
この場にはいなかったはずのエクストリーの王、アノイの放った一撃が、ぎりぎりのところで魔物を消滅させたのだった。
かくして王都は危機を脱し、表向きには椋の生活も特に変わらなかった。
平穏はただ一時のものでしかなく、この先にもまた異なる「異常事態」と相対することになるとは、まだこのときの椋は知らなかった。