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P14.5 椋の魔術考察

第一節14-15の間、椋がアルセラの施術を見学し考察する場面。


 ひとりの患者を診るたびに、己の未熟さに不完全さに、知識の曖昧さに眩暈のようなものすら覚える。

 しかしそんな感覚を押し殺して、次に入ってきた患者に椋は向き合った。所見を取る。患者の訴えを聞く。患者を見る。状態を観察する。…問診ひとつまともにできない自分に、更に更にと嫌悪感は重なっていく。

 しかし自分で言いだした以上、途中で引くことなど椋には出来なかった。

 アルセラの施術の前に患者への問診をさせてくれと、確実にそれまでより一人の患者に割かなければならない時間が増えることを承知で椋は、言ったのだから。


「【闇に陰りし魂へ光を。宿す光へ祝福を】」


 既に幾度となく耳にしている、魔術を発動させるため唱えられるアルセラの声がどこか妙に遠い。どうして俺はこんなことをやってるんだと思いかけ、しかし結局は自分が望んだことだと椋は思いなおす。

 発熱、咳、のどの腫れに痰、鼻水。既に数人同じような患者を見ているが、アルセラの唱える術式は基本、変わらない。

 明確に変わるのは術式紋だ。この世界でいう流行病、要するに感染症にかかった人間に対しては三つの区分の中、一番下の部分の術式紋がより詳細に複雑なものに変化を遂げる。

 以前ヘイにも言ったことだが、感染症とは体内に存在する病原体が、一定数以上存在することによって引き起こされるものだ。だからこそ何かしらの感染症にかかったときには、もともと椋のいた世界では抗菌薬、病原体を殺す作用のある薬を服用していたのである。

 しかし今いるこの世界にあるのは、薬ではなく治癒の魔術だ。そして彼女が患者たちに対して使っているのは、「めぐりを理解し、賦活化」させる魔術であるという神霊術。

 賦活化させることにより、体内に存在する病原体を排除することが可能になるもの。

 そんな便利な体の仕組みは、椋にはひとつしか思い当たるものなどない。


「リョウ、次の患者を呼ぶよ」

「あ、…すみません!」


 患者の流れは決して途切れない。不必要に患者を待たせるようなことは、してはならない。

 アルセラを訪ねてくる、彼女の神霊術にすがろうとする人々の抱える疾患は非常に多様だった。治癒職はただ治癒職とだけざっくりまとめられ、その中での役割を細分化されてはいないのだから当然と言えば、それも当然なのかもしれない。

 知識と現実に目にするものがどうしても一致しない中、それでも何とか足掻くように椋は思考する。あいつは何をどう組み立てた。絶対にそう複雑なものにはなっていないはずだ、系統を変に凝ってしまえば、あとあとやつ自身の首を絞める事態にしかならないことは明白だったのだから。

 循環、賦活、…免疫。

 本当にあいつは何の本をどう盗み見てくれたのかと、しみじみ頭を抱えたい気分になってくる。


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