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英雄(ヒーロー)は眠らない!  作者: ともひろ
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プロローグ

web小説には慣れていないので、ひとまず習作として投降しています。問題あったらすみません。

俺には夢がある。それほど難しい夢じゃないはずだ。


中肉中背という言葉通りに日本人成人男子の平均身長プラス1センチの身長とマイナス1kgの体重を誇る俺、山本大輔30歳は現在、小さな会社で平SEとして働いている。

残念ながら給料は平均給与に遠く及ばないが、一人暮らしをしつつたまに気に入った深夜アニメのDVDBOXを買うくらいの金は貰っている。年に二回のコミケで散財するために貯金は欠かしていないしな。

この一月クールに流れたアニメについてはBOXを買うほどでもなかったので、気に入った作品だけHDに保存して終わりにした。おかげで少しだけ暖かい懐が心の支えだ。


だが、その金を使う当てすらも今の俺にはないのだ。

支給品のPCの前で繰り返しエラーをはき出すソースコードとにらめっこしながら、俺はため息をつく。

またやり直しだ。前任者の残したスパゲッティコードは、一から作り直した方がずっと楽だと思わせるやっかいな代物だった。客先から改良を依頼されたのが二ヶ月前。会社に泊まる事、既に三週間。それでいて納期は一昨日。これって俺のせいなのか? 

PCに刺していたヘッドフォンのプラグを引き抜くと、気持ちを暗くするアラート音が部屋中に日響いた。一週間分の作業が無意味だった事を知らされたプロジェクトチームの仲間たちが同時に肩を落とす。


「部長……俺、そろそろ帰っていいですか? コンビニで着替えを買うのもそろそろ限界ですよ」

「……明日の朝、俺の奢りで買ってくるからさ。今回のレポート作成まで、頼めないかな」

「しゃあないっすね。判りました。残業はつけてくださいよ」

「もう限界まで付けちゃってるからなあ。来月は残業しなくても今月の分乗せとくよ。ごめんな」


申し訳なさそうに頭を下げる初老の上司に、俺は了解というように手を振る。

仲間たちも自分の私物からお菓子やドリンク剤を俺のデスクに捧げると帰宅の途についた。

ため息をついて、俺はひとりになったデスクでエラーレポートを書き始める。

どうやら、今夜もろくに寝る時間はないらしい。


つまり、夢は叶わなかったってことだ。


もちろん、残業を断っても良かった。

だけど、俺は生来、頼まれたらイヤというのが苦手なのだ。

21世紀の日本に生を受け、大学を出るまで裕福とは言えないまでも十分な暮らしをさせて貰った。

大学を出る直前に父が病気で夭折し、一年後に母が再婚したのが人生一番の山場だったくらいだ。とはいえそれほど平和な人生だったわけでもない。学校生活はそれなりに辛くて、運動が得意でない事と内向的な性格が災いして友達はあまりいなかった。更に言えば、時々いじめられていやな思いもした。

それでもいつもクラスに何人かは同じようにコミュニケーションが苦手な仲間がいたから、彼らとつるんでいればそれほど寂しくなかった。残念ながら男ばかりだけど。

彼らに連れられてコミケに行った時には感動したものだ。ネットの中だけじゃなく、これほどたくさんの俺みたいなヤツがいると知って、色んな意味で救われた気がしたのだ。

絵の才能がなかった俺は、小説を書いてみてサークルを取った事もある。実売数は聞かないでくれ。以降は買う方専門で、創作文芸と男性向け創作に相当な金額をつぎ込んでいる。


話がそれた。


そんな友達が少ない俺は、とにかく「話しかける」のが苦手だった。

話しかけて貰えさえすれば、何とか会話を続ける事は出来る。だけど、自分から話しをふれない。

だから、誰かから話しかけて貰えるだけで嬉しくなるし、その時に頼まれたり、お願いされたことを断るのはイヤだった。そんな事をしたら、次は話しかけて貰えないんじゃないかと不安になるからだ。

学生時代も、それで色んなやっかい事に巻き込まれた。

妙なビタミン剤を買わされそうになったり、宗教の勧誘に巻き込まれたり。修学旅行で女子風呂にのぞきに行こうと誘われ、ついて行ってしまったあげく主犯の一人にされてしまったのも痛い思い出だ。大学時代のバイトでは重宝されまくって連日連夜働かされて危うく卒業を逃すところだったこともある。そんな俺は、この会社に入っても同じような有様だった。

物語の中と違って、別に極端にイヤな人がいたりはしない。だけど俺以外は家庭があったり彼氏彼女がいたりする。俺は、夏と冬に三日ずつの休みを確保して貰えれば他に対して趣味もないし、彼女は今までの人生でいた事がない。皆の嫌がる残業や休日出勤は、俺に取っては大して負担ではないのだ。

安いとはいえ残業代は出るし、泊まり込みをした場合は夜食代と朝飯代も出る。役所の担当者が見たら激怒するようなブラック企業には違いないし社畜と言われても仕方ないと自覚はあるけど、周りの人間から頼りにされて、しかも貯金が増えていくのは悪くない。BDも同人誌も安くはないのだ。

それにさっきだって、斜め向かいの席に座っている後輩女子から「すみません、先輩。これも食べてください」と手渡しでチョコレートを貰った。バレンタイン撲滅運動に署名しそうな俺が、だよ? どうだ、いい職場だろ? チロルチョコだけどな。


だが、それも限界が近づいている気がする。


ろくに寝なくなって何年経つだろう。というか、高校を出たくらいからゆっくり寝た記憶自体がない。

嫌と言えない性格が災いして仕事やプライベートで要領の悪い俺は、常に寝不足だった。まぶたがピクピク痙攣している状態はいつものことでしかなく、時々背中がイヤな音を立てて軋んだりする。

たまに残業なしで家に帰れても、溜まっているアニメを消化していたら朝が来たなんてのもざらなので、自業自得な面も大きいけどな。寝不足は俺の基本属性といってもよかった。正直、反省している。


俺の夢、それはただ一つ。


「好きなだけ寝たい」


くだらない話だと言われるかも知れない。アニメ見ないで寝ろ、とか、仕事休んで寝ろ、と言われればその通りだ。だけど、そうじゃない。やりたい事をやった上で、ゆっくり寝たいんだ。家で寝てるだけの暮らしを始めたら、二度と社会復帰できなくなる自信がある。アニメを見てないと、ネットに書き込みをしたり、数少ない友達と共通の話題を作れなくなってぼっちになってしまうかも知れない。会社でだって、俺は六年目の社員にしては特別スキルの高いSEじゃないから、残業をしなくなったらあっさりリストラになったりしかねないのだ。レポートを書きながら、俺はそんな事ばかり考えている。


一日が48時間あればいいのに。〆切前のラノベ作家のような愚痴を垂れつつ、俺はキーボードを叩く。

エラーを吐いている行の関連づけを確認して、客先のデータを照合してバックアップと比較して……その時、モニターが白く明滅した。とうとう疲れすぎて目眩がし出したのか。

差し入れのドリンク剤のキャップを捻って一気に飲む。モニターに、俺が打った覚えのない文章が浮かんでいた。


『最後の質問です』


「あれ? なんだ……これ」


『あなたの夢は?』


最後の質問? 一体何の話だろう。回答を求める空欄が書き込みを要求していてる。

どうやら俺はうたた寝しているらしい。うちの会社の客先にこんなアンケートはない。

何かのパスワードなのかも知れないが……まあいいか。どうせ、夢かイタズラのどちらかだ。

寝不足を極めたぼうっとした頭で、俺は自分の夢を書き込んだ。


「好きなだけ寝たい」


うーん、それだと「じゃあ寝てろ」って言われそうだな。ちょっと考えて、文章を変える。


「好きなだけ寝ても、やりたいことが全部出来るようになりたい」


うんうん、こういうことだよね。会社を辞めたい訳でも趣味を諦めたい訳でもないんだ。ただ、もっと俺が効率良く動ければそれでいいんだよなあ。やっぱ体力かな。でもジムに行くにも時間がかかるし、今はまず睡眠時間が取れないとどうにもならりませんな。

少し目が覚めた気がして、この問題を作ったヤツに感謝する。で、いったい俺たちの作ったプログラムのどこにこんなものを隠していたんだ? エラーの原因だったら犯人は全員に対して切腹(自腹でご馳走)して貰わないとな!


と、再びモニターに向かおうとして、違和感に気付く。身体が……動かない。

うわんうわん、と耳鳴りが始まる。心臓が、やけに痛い。


モニターに、見たこともない画面が出ている。


『受領しました。それでは、さようなら』


そんなこと言われても、反応すら出来ない。身体を支えられずに、俺はキーボードに突っ伏す。

ブラックアウトしていく視界の中で、俺は反省していた。


やっぱり、今日は帰って昨日放送されたはずのラノベアニメを見ておくべきだった、と。


*   *   *   *   *   *


「うわあああっ、寝オチしたっ! 今何時だっ!」


俺は、大の字に寝ている自分に気がついた。

椅子から転がり落ちて寝てしまうのは、週に一、二度あるミスだ。

過労死するからせめてソファで仮眠しろとみんないうけど、そんなことをするヒマがあるなら俺は帰ってアニメを見て寝る。とにかく、書きかけの作業を客先の出勤時間前に終わらせなければ。

床から立ち上がろうと椅子を探す。


――そんなものはなかった。

それどころか、机も壁も天井もない。


「……なんだ。ここは」


呆然と、周囲を見回す。雑然とした零細企業の開発室ではない。

土の匂いがする草原。少し離れた所には、森のようなものも見える。

空気がやけに澄んでいて、頬に当たる風がやけに心地よい。

散髪に行けずに伸び放題だった前髪を、風がさわさわと吹き流していく。

ぽかぽかの日差しはやけにうららかだ。草原に点在する木陰で、俺は眠り込んでいたようだった。


……俺、どうなっちゃったの?

こんな景色、アニメや漫画でしか見たことないんですけど。


なんとか立ち上がり、俺は深呼吸して自分を確認する。昨日着ていた服装のままだ。一週間近く着たままのワイシャツと薄手のジャケットに、綿パンは量販店の安物。うん、いつもの俺だ。

ポケットには小銭と家の鍵……財布もあるようだ。胸の内ポケットには携帯が入っている。

取りだした携帯は全力で圏外を示していた。


「なるほど……夢か」


ほっぺたをつねってみる。痛い。ちょっと心配になってきた。

夢だとして、どこからが夢だったんだ? モニターに変な質問が出たあたりからか?

実は残業せずに帰宅して寝ていたとか? 後輩女子の手渡しチョコも夢だったとか?


混乱した俺は……しばらく考えて。


もう一度寝直すことにした。夢の中くらい、寝まくっても問題ないだろう。

目が覚めたら、またあのデスマーチな開発が待っているに違いない。

こんな過ごしやすい場所でピクニック的な昼寝なんて贅沢は現実には出来ない。


俺は目を閉じる。

みんなが出社してきたら、この夢の話をしてやろう。同情してくれるかなぁ。


そんな日が二度と来ない事を、この時の俺は想像もしていなかったのだ。

書きためしてから投稿するつもりで相当先に予約投稿するようにしてます。さて、何話書きためとところから始まるのかなあ……ドキドキ。

ゆっくり仕事の合間に進めて行きますので、宜しくお願い致します。

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