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誰かにとっての嵐の前触れ


 その日の教室は、どの休み時間も不自然なほどに静かだった。


「茜! お手洗い行こ!」

「あ、うん。わかった」


 それは騒がしい原因の片割れを休み時間の度に夕紀が教室の外へ連れ出すからだ。そして戻るのは鐘が鳴るのと同時だったり、次の教科の担当教師と一緒だったりで、もう片割れと接触する機会を一切排除しているからでもある。

 またしても鐘と同時に教室に戻って来た二人はそのまま席に着き、すぐに授業が始まった。

 夕紀はちらりと斜め前を確認する。


(まあなんとも不機嫌そうな面だこと)


 眉間に深い皺を寄せた疾風は、そのさらに前の席の茜の背中を睨むようにじっと見つめていた。

 一方で茜は朝のホームルーム直前に教室へ戻って来てからというもの、どこか上の空気味。たまになにかを思い出したように頬を赤くしては首を振ってなにかを振り払おうとしている。

 夕紀は三枝とのやり取りを聞いたのでそのあれこれを思い出しているんだろうなと察するが、まったくなにも知らないどころか朝拒絶されて以降近寄ることすら許されていない疾風は相当に苛立っているようだった。


(ざまあみろだわ)


 疾風に問い詰めた朝のやり取りを思い出して夕紀もイラっとするが、疾風のあの様子と思いがけず他に目を向け始めた茜を思えば溜飲が下がるというものだ。



◆◆◆



 約束の放課後、先輩は本当に来るのだろうかと扉の方を見ていた茜の視線を遮るように誰かが立つ。

 驚いて見上げると不機嫌さも苛立ちもまったく隠さない怖い顔をした疾風が、冷たく茜を見下ろしていた。向けられたことのない表情に、びくりと身体が硬直する。


「……」

「……」

「……」


 疾風は黙ったままなにも言わない。

 逆にそれが恐ろしく、茜からなにか言った方がいいのかと思い始めたところでようやく彼の口が動いた。


「朝の、」


 朝、疾風。この二つで連想されることに、気分がぐっと落ちる。聞きたくない、知りたくない、話したくない。少なくとも今日は。

 茜の全身から漂う拒絶の意思を感じ取ったのか、言い(よど)んだ疾風が一瞬口を(つぐ)んだ。


「茜ちゃーん」


 この場から逃げ出したいとまさに思っていたタイミングでの上機嫌な呼び声に、茜はハッと立ち上がる。


「三枝先輩!」

「迎えに来たよ。もう行ける?」

「い、けます! 行きます!」


 机の横にかけていたバックの肩紐を掴んで、疾風の横をすり抜けた。

 視界の端で彼が驚いた顔をしているのが見えた。でも茜は振り返ろうとは思わなかった。



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