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提案がひとつ、ふたつ


「……私も、捨てられるのかな」


 あえて考えないようにしていた本音が、ぽろりと口からこぼれた。

 慌てて口を塞いでも至近距離にいた三枝には当然聞こえていて、ぱちりぱちりと目を瞬かせている。そして「ふむ」となにかを一瞬考えこんだ後、にっこりと笑った。


「じゃあさー、茜ちゃん。俺と付き合わない?」

「………………へ?」


 ぐっと身を乗り出して顔を近づけてくる三枝から逃げようと無意識に背をそらす。

 すぐには言葉の意味が理解できなくて、戸惑った。自分は今、なにを言われている?


「茜ちゃんは彼氏に捨てられちゃうんでしょ?」

「ま、まだ決まったわけじゃ……っ」

「えー、いいじゃん。俺と付き合おうよ?」

「せんぱ、」

「ね?」


 三枝のひどく軽い調子でされた提案に、いつもなら揺らぐはずのない心がゆらゆらと揺れ、じわりじわりとひび割れた隙間から心の奥の方へ侵入しようとする。

 しかしそれでも黙ったまま動かない茜に三枝がまたひとつ、提案をする。


「いきなり付き合うのが無理ならさ、試しにデートしてみない?」

「デート、ですか?」

「うん、デート」


 三枝はずっと笑顔だ。毒気が抜ける、裏表のない柔らかい笑顔。

 それに先程見た疾風があの子に向けた表情が重なって。


「……わ、かりました……」


 三枝が「やった!」と喜ぶのを、罪悪感に満ちた心で受け止めた。


「茜ちゃん、立って?」

「え? あ、はいっ」


 がたりと椅子を鳴らしながら立ち上がると、カウンターの中に回ってきた三枝が茜の手を取る。手慣れているからこその、その自然な動作に抗うことを忘れた。


「放課後、教室まで迎えに行くから」

「え?」

「今日一日、そのことだけ考えてて」


 軽かった口調に、まるで口説かれているような甘さが急に含まれて茜の心臓がドキッと飛び跳ねる。恋愛経験値がほぼない茜にはそれだけでも十分刺激が強かった。

 真っ赤になって固まる茜に、三枝は「茜ちゃん、かぁわいいー」と褒め言葉を口にする。そして悪戯を思いついた子供のような顔をして、固まったままの茜の額にキスを落とした。

 短く息を飲んで咄嗟に逃げようとするも、手はがっちりと三枝に掴まれたままなので大した距離も取れない。掴まれていない方の手で触れ合った額を押さえた。


「せんぱいっ!?」

「わは、やっぱりかわいい!」


 すっかり三枝のペースに巻き込まれて、耐性のない茜の頭はぐつぐつと沸騰しかけていた。



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