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「……私も、捨てられるのかな」


 駆けていた足はいつしかその速度を落として、先生と鉢合わせにならぬよう人気のない廊下を選んで歩く。


「……あ」


 そうして気づけば図書室の扉の前に立っていて、試しにスライド式のその扉に手を添えてみたら簡単に開いてしまった。


「当番が鍵閉め忘れたのかなぁ」


 そういえば自分たちもよく閉め忘れかけたんだよなとか、そんなことを思い出す。

 カウンターの中に座って片肘をつき、返却されたのに片付けもされずに放置された本をペラペラとめくった。


(私も、疾風も。じゃんけん負けたんだよね)


 昼休みと放課後に拘束されることになる図書委員になった時は最悪だと思ったけど、当時隣のクラスだった疾風と一緒に当番をすることになって幼稚な口喧嘩をしながら時折笑い合うことが案外楽しかった。

 高一が終わる頃にはもう疾風が好きだった。

 同じ当番になった最後の日。勢いのまま「好きなんだけど!」と告げれば、こちらを驚いたように凝視した後「じゃあ、付き合うか」ってそれまでに見たことがないくらい優しく笑ってくれた。


(……あ、「付き合うか」とは言われたけど、「好き」とは言われたこと、ないや)


 今さら思い当たった事実に不覚にも涙が出てくる。

 ぱたんと本を閉じて、涙を隠すために机に突っ伏した。


「お、ラッキー。開いてる!」


 突然、茜しかいない図書室の扉が外側から開かれて、反射的に顔を上げた。そうすると扉と対面の位置にあるカウンターに座る茜と、扉を開けた人との視線は必然的に交わることになる。


「先客はっけーん。なんで泣いてるの?」


 知らない人に泣いているところをばっちり見られてしまい慌てて涙を拭えば、無遠慮に近づいてきた彼が拭う手の方の手首を掴む。


「こすったら目赤くなるから、やめときな?」

「……ごめんなさい」

「謝んなくていーって。俺は三年の三枝達也(さえぐさたつや)。きみは?」

「二年の、立木茜、です」


 三枝は掴んでいた手首を離してカウンターの前にしゃがみこむと、茜と目線の高さを合わせてくる。オレンジに近い金色の髪がふわりと揺れて下りてきた。


「茜ちゃんかー。それで、なんで泣いてたの?」


 にこにこと悪気のない三枝の笑みはずっと以前からの知り合いであるような親しみすら感じさせて、ついつい口を緩ませてしまう。


「……先輩は、」

「うん?」

「もしも彼女が、自分のことを好きじゃないって知ったら、どうしますか?」

「んー、俺は捨てる側の人間だからなあ」


 本当に簡単に、淡々と、三枝は「捨てる」という言葉を使った。それに胸を抉られるような痛みを覚えて、茜は服の胸元を握る。


「……私も、捨てられるのかな」



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