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心のよすが


(放課後もダメだった……)


 疾風に一緒に帰ろうと誘おうと勇気をかき集めていた茜だったが、帰りのホームルームで担任に用事を頼まれてしまった。

 日直を安易に指名するのはよくない。

 せっかく日誌も早々に書き上げ、ホームルーム前に黒板も綺麗にしておいたのに。回収していた先月分の連絡帳の確認が終わったから取りに来てくれなんて。だったら先生が教室に来る時に持ってくればよかったのに、うっかり忘れちゃってなんて笑ったところで誤魔化せていない。あんまりだ。


「クラス分だから地味に重い……!」


 一冊一冊にさほど重さも厚みもないのだが、それが三十冊もあるとなれば話は変わる。ずっしりと両腕を独占する荷物と、一階の職員室から三階の教室までの距離にげんなりした。

 いつもさっさと帰ってしまう疾風はどうせもう教室にはいないだろう。

 ため息を吐いた。


「早く帰ろう……」


 ふと視界の端、窓の向こうで動いたなにかが気になって無意識にそれを追いかけた。たぶん、それが間違いだった。


(…………え……?)


 外を歩く疾風の姿を見つけた。その隣を歩く、見知らぬ女の子の姿も。

 心臓の音が身体に重く響き、ざわりと不快な感覚が背中を這う。

 見間違いであってほしい。あってほしいのに、肩にかかった鞄も歩き方も間違いなく彼だと茜にはわかってしまう。そして答え合わせをするかのようなタイミングで女の子を見下ろす疾風の横顔が、見えてしまった。


(だれ、だろう。知らない子だ……)


 腕にかかる重みが増し、足はその場に縫い付けられたように動かない。ぐわんぐわんと、脳みそが揺さぶられているかのような気持ちの悪さもある。

 相手が誰なのか、はあまり重要ではなかった。

 その時点において茜を酷く動揺させたのは、疾風が茜以外の女の子と二人で帰っているという事実。そして茜とは一緒に帰ったことも誘われたことも一度としてないという事実の二点だ。

 一緒に帰ろうと誘う予定だったから、なおのこと。


(大丈夫、だいじょうぶ……きっと知り合いの子にたまたま会ったから、話しながら歩いてるだけだよ。……だいじょうぶ……)


 呪文のように大丈夫を繰り返して、自分に言い聞かせた。たとえその日から何度もその光景に出くわしたとしても。

 ――大丈夫、だいじょうぶ。

 付き合おうと言ってくれたあの最初の言葉だけが、心のよすがだった。



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