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救世主の天使


 巷の少女漫画ではこのまま押し流されていちゃいちゃするパターンと、本当に誰かがやってきて男に生殺しの気分を味あわせることになるパターンが多いが、今の茜に前者は苦行すぎた。

 どうか後者であってほしいという全身全霊の祈りが通じ、ガチャっと扉が開く音が聞こえた。


「はーやーてーっ!」


 家中に疾風を呼ぶ声が轟いたかと思えばドタドタと階段を駆け上がる凄まじい音がし、なんの躊躇いもなく部屋の扉は開かれる。

 突然寄り掛かっていた壁が消えて体が後ろへ傾ぐ。踏みとどまることもできずそのまま倒れるのを覚悟してギュッと目をつぶるが、背中に回って来た手に引き寄せられた。

 心臓が激しく太鼓を叩いていて、無意識に目の前のワイシャツを握りしめる。覚悟をしても怖いものは怖いし、痛いのは嫌だ。


「先帰るなら帰るって連絡してよ! スマホ見てよ! ……て、あれ?」

「那由、邪魔すんなよ」

「やあだ疾風ったら! 茜ちゃん連れ込んでなにしちゃってんの!」


 肩につかないくせ毛はふわふわと柔らかな印象を与え、女子の中でも小さい身長、ぱっちりとした二重の瞳。他にも挙げたらきりがないが、とにかく見た目可愛い女の子の口から飛び出した冷やかしは、近所のおばちゃんを連想させる。


「なんだっていいだろ!」

「ええー。昨日まで『また喧嘩ばっかだった……』とか落ち込んでたくせにぃ」

「ば……っ! 茜の前で余計なこと言うな!」

「あっれー? 昨日まで『また名前呼べなかった……』とか落ち込んでたくせにぃ」


(こ、この子、強いなぁ……)


 言い返す言葉が尽きた疾風が茜の背に回した腕に力をこめる。その強さに茜は小さくうっ、と呻いた。


「疾風が私に勝とうなんて百万年早いのだよ!」

「あ、あのっ」

「なあに? 茜ちゃん」


 ふんわりと優しく微笑んだ那由が、打って変わって天使に見える。意を決して茜は訴えた。


「お願いですっ、助けて!」

「人を悪者みたいに言うなっ!」


 睨んでくる疾風なんか無視。とにかく無視。

 しばらくじっと那由と見つめ合った。


「茜ちゃん……!」

「は、はい!」

「かっわいいーっ!」

「へ? わっ!?」


 那由の腕が茜の首に回り抱き着かれる。

 ちなみに背中にあった疾風の手は直前に那由によって叩き払われていた。


「なにこの子! すっごいかわいいんだけどっ」


 ぎゅうと抱きつかれて茜は動けない。だが疾風から解放されたことにホッとしてしまった。


「おい那由!」

「疾風、茜ちゃん私にちょうだいっ!」

「やらねえよ馬鹿っ」

「なんでよっ! 私茜ちゃんほしいっ」

「はあっ!? 俺だって茜ほしいっつの!」

「疾風が言うと卑猥ぃ」

「そういう意味じゃねえよ馬鹿那由っ!」


 二人の激しい言い合いにぽかんとしていた茜だったが、次第に笑いが込み上げてくる。堪えきれずに吹き出したら、同時に二人が茜を見た。



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