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第六感の彼女  作者: 朱月
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第一話:リアルゴースト

狩谷家一階居間。

大きなテーブルの上は所狭しと様々な料理で彩られている。いささか一般家庭における平凡な一日を締めくくる夕食にしては豪華すぎるものがあるかもしれないが、それにはちょっとした理由がある。

それはこの料理を作った狩谷綾のちょっとしたこだわりのようなもので、狩谷家と江藤家が一緒に食卓を囲む際に料理に妙な気合いが注がれるようなのである。

そして今日は更に量が多い。

もしかしたら会長も食べていくかも、という綾の配慮から来ているものだ。

その配慮に甘えたのか食卓を囲む人達の中に会長の姿も見えている。

四人で食事をする時でさえ食卓はいつもよりかなり賑わい、楽しいものになるというのにそこに会長までもが加わったらちょっとした会社の忘年会以上に騒がしくなる……はずだった。

(空気が……重い……)

しかしながらさらに一つ、たった一つ。会長に加えただ一つの要因が加わっただけでこの空気の変わりようは何なのだ。

いや……俺にだってわかる。こんなにも空気が変わるほどの要因なのかということが俺にもわかる。

「ねぇ悟」

かちゃん、とご飯茶碗の上に箸を置き静かな声で俺の名を呼ぶ。

「な、なんだ?」

がちゃん、とご飯茶碗の上に箸を置こうとしたら震える手のせいで転がり落ちる。

すぅーと長めに息を吸い、視線を下に向けたまま俺を呼ぶ綾からただならぬオーラが立ち上がっているのがなんとなく見えた。

うん、ほら、雄がびびってんだろ?落ち着、

「そこの女は一体誰なのよーーーーー!!」

バン!とテーブルを左手で強く叩き、余った右手の人差し指をビシッとある人物の顔に一直線に向けた。

「わぁ、これ美味しいです。こんなに美味しいの食べた事ないですよぉ」

当の本人はまったく気づいておりませんが。

「あー、うん。綾が気になるのも仕方ない。なぜなら、俺も超気になってる」

悪魔召喚の生贄にされるかと思われたあの儀式(本人達の言い分は治療)の後、気を失った俺が目覚めたのは綾が夕飯の時間になったと家まで呼びに来た時だ。

俺自身も確か昼過ぎくらいだったはずなのに、いつの間にか外が暗くなっているという唐突な時間経過に驚きつつ、例の非現実的な低体温から解放され正常な状態にもどった自分の体をひどく愛おしく感じ、密かに増えた住人に気づいていなかったのだ。

「姉貴、この人は?」

と、無理に自然を装って姉貴に尋ねてみる。

「悟の中身」

無表情のままそう告げる不良姉。姉貴のポーカーフェイスは見飽きた。どうせその下にはさぞ面白おかしい笑いがあるんだろうな。

「な……中身?」

綾のオーラが一際大きく膨れ上がる。それに比例して雄が小さくなる。

おいおい、中身だってサ。冗談キツイね。

うん、冗談キツイよ……そろそろ綾がちょっとやばいよ……。

「ね、ねぇ君……。自己紹介とかしてくれないかな?」

モグモグパクパクと食卓を囲む六人のうち一番早かった箸の動きが止まり、俺のほうに意識を向ける。

姉貴が素知らぬ顔を貫き通すなら俺がなんとかするしかあるまい。

とりあえず名前とか、どこから来たのかとか、お……俺の中身ってどういうことかとか。

「えぇっ!?悟さん……私のこと、覚えていないのですか?あんなに……あんなに愛を語り合った仲でしたのに……」

ぴしっ、と空気にヒビが入ったのがわかった。

「さ、悟……?」

「ちょっ、待て!待て待て待て!俺は知らないぞ!人違いだ!本当だ!」

本当!マジに!俺の人生17年においてこんな子と愛を語り合ったり愛を確かめ合ったりしたことなんかしてない!

「と言えと、お姉さんに言われました」

「姉貴!!」

「ハナさん!!」

ぐりん、と俺と綾の首の向きが一斉に姉貴の方向へと変わる。

「あ!もう、駄目じゃない。そんなに簡単にばらしたら」

姉貴のポーカーフェイスが崩れ、その仮面の下にあった表情があらわれる。

「あはははっ。サトー君、面白い!」

ついでに終始口を閉ざしていた会長からもせき止められていた笑いがこぼれ出す。またあんたらはグルか!

緊迫していた空気が一気にはじける中、

「寿命が80年くらい縮むかとおもった……」

小さくなってた雄がぼそっと安堵の言葉も漏らす。80年というと下手したら死んでいたと言う事か。でも胃とかそのあたりは確実に縮まったぽい。

「もうちょっと引っ張っても良かったと思うんだけど……まぁいいわ。詳しい話は食べ終わってからね。せっかく綾ちゃんが作ってくれたのにもったいない。悟はいつも味気ないものばっか作るから……」

じゃあ自分で作れと声に出して言えない自分が悲しい。いつだって弱者は強者の下働きをしなければいけない悲しい運命なのだ。

「あ、これもう一個食べていいですか?」

そして四人+α分しかなかった料理は、たった一人に二人分は食べられるというちょっとひもじい結果に終わることになった。








「彼女、悟にとりついてた幽霊なのよ」

食後に一息いれて姉貴を問い詰めようとした矢先、いきなり真実は明らかになった。

いきなりすぎて俺も綾も半分聞き逃しかけていた。

「姉貴、ワンモアプリーズ」

「彼女、悟にとりついてた幽霊なのよ」

一字一句違わずにどうもありがとう会長。すっかり姉貴に懐いちゃって……。

「はい、私幽霊みたいなんです」

そしてにっこりと他人事みたいに幽霊である事実を認める少女。

見たところ年齢は俺と同じか、少しばかり上のような雰囲気がある。

「最近の幽霊はこんなにリアルなものなんですか」

さすが綾。幽霊と聞いても一歩も引き下がらない。

「足もあるし、普通にさわれるし」

「い、いたひでふ……」

無表情のまま幽霊少女の頬を掴んで伸ばしている。あー、こえぇ。

「今は実体のある幽霊がトレンドなの」

流行ってたまるか、そんなもの。

それなりに当事者であるはずの俺は、三人+一人のやりとりを遠くから眺めとばっちりの被害が及ばなさそうな距離と、とばっちりを受けた際の防御の近くに身を置きながら心の中で突っ込みをいれていた。

「で、雄は何してんだ。防御の要なんだからあまり離れてくれるなよ?」

夕食が終わってすぐ、それはもう姉貴が先手を決めるよりも早くに戦渦から距離を起き、普段つけない眼鏡の奥で眼を光らせていた。

「待て、今解析中だ」

何をだ。

「例のあの子だ。悟、お前にはわからないのか?」

だから何が。

「信じられん……。この世のものとは思えないな……」

姉貴いわく、あの世のものらしいですけど。

「ていうか何の話だ」

「馬鹿野郎!!良く見ろ!!」

テンション高いな。

とりあえず、見ろと言われたので見てみる。

「可愛いだろ?」

「そうだなぁ。まぁ、可愛いな」

特殊な嗜好をお持ちの方でなければ贔屓目なしでも文句無しで可愛い部類に入ると思う。

「しかしだ。可愛いというより、あれは最早カテゴリが違う。単純に可愛いというだけなら槻御ちゃんのがレベルは上だ」

確かに。会長の可愛さは規格外だ。

「あれは例えるならば可愛いから美しいへと変化する途上……可愛いと美しいの両方を併せ持つが故にそのどちらでもない別種の輝きを持つ極めて短い期間のみ見られるものだ」

ふむ……。一理ある。つぼみが大輪の花を咲かす……その瞬間にだけ見られる趣というものはわからないでもない。

「あの黒く艶やかな長い髪も少女らしさだけでなく、シックな大人の雰囲気を持ち合わせ、まさに彼女のためにあるようなと言っても過言ではない」

ふむ……ふむ……。なるほど、見れば見るほど惹かれていくような気さえしてくるな。

「これは最早反則だ。綾がカリカリするのもわかる。同じ女として焦っているのだろう……」

いやしかし、綾も綾で人気あるんだぞ。毎年バレンタインにチョコかなりもらってるし。……アレ?

「悟。お前の目線は今彼女の顔に向かってるか?」

ああ……。お前の話を聞いていたらなんだか男として視線を動かせなくなってきたような気がしなくもない。

「悪いことは言わない。目線を下げろ」

目線を……?少し、下げ……、

「な……、なんだあれはっ!?」

「気づいたか。しかし遅すぎだ。そんな体たらくでは戦場を生き延びる事はできないぞ!」

まさか……、これは!?

「今彼女が着ているのはハナさんの服だ。ハナさんとて、俺の知る限り女性としてそれなりのレベルに入っているはずだ」

どとん、どとんと心臓が早鐘を鳴らす。

「肩口や袖などは幾分余っているというのに胸元だけあのキツさとはどういうことか!!」

「ありえない……」

「あれは80台などという一般的なレベルとは違う……。ましてや綾などという一般レベル以下と一緒にしたら神が許しても俺が許さねぇ!」

ごく……。

じゃ、じゃああれは……あれは!!

「すまない……。俺のスカウターに蓄積されたデータが足りなくて正確な値は出せん。しかし逆に言えばそれが答えということだ」

なんてことだ……。目の前にあるのがお宝だとわかっているのにその価値を十二分に賞味することができないなんて……。

「いずれわかる時がくる。それを待っていてくれ、友よ!」

「ああ!俺の命、お前に預ける!」







以上、雄の一人芝居でした。どこからなのかはご想像にお任せする。

つうか俺の名前を語るな。一人芝居なら一人芝居らしく一人で完結しろ。

こいつもこいつでたまに壊れるからなぁ。俺がしっかりしないといけないわけだ。

「悟!何やってるのよ!当事者なんだから話くらい聞け!」

ふむ、雄の一人芝居なぞに付き合ってる間に大分ご立腹のようだ。行きたくはないが行かないと命の危険がありそうなので、俺はまだ生きたいので行くしかないか。

だが重い腰が微妙に行けば死ぬぞ、と告げている気がする。




そしてその警告通りに俺は、床にその身を預ける事になる。

「……ちょっと待てや。これは少し理不尽過ぎやしないか」

流石にすれ違い様にラリアットをもらうほどの罪状は身に覚えが。

「綾さんっ!いいんです。その……私の勘違いかもしれませんし」

聞けば彼女、生前の記憶がまるでないようで。しかしそんな中でも俺のことだけは知っているような気がする、というのが唯一頭の片隅に残っているらしい。

他に何も憶えていない中、俺だけを覚えているというのに俺はまったく覚えていないということが綾的に許せないらしい。

「それ以前に悟に取り憑いたって時点でなんらかの接点がある可能性が高いのだけど」

専門家は語る。彼女は普通の幽霊とは何か根本的に違うらしい。実体を持たすためにこの世に定着させるのも驚くほど簡単に出来たようだ。

つうかさ、そんなにホイホイ実体化させられても困ります。

「普通はね、実体化させるのってとっても大変なの。しかもできても数分しか駄目だったりとかあるし」

専門家のタマゴは語る。普通の幽霊は意思がはっきりしてないせいで実体化しにくいってのもあるんだとか。

「ふぅん。それでその特別な幽霊さん?えっと、名前もわからなかったりするのか?」

名前が分からないとどう呼べばいいのやら。幽霊だからユウちゃんとでも……それは何か色々と彼女に失礼か。

「あ、名前なら。本当の名前は分からないんですけど、ハナ姉さんにつけてもらいました!」

待ってましたと言わんばかりに何処からともなく流れだすジャララララ〜みたいなBGMとこれまた何処からともなく巻物を取り出したオカルター二人。

「発表します!期待の新人美代さんのお名前は!?」

今言いましたよね。物凄く。

最早名前より何を期待されてるんだろうっことに興味がうつりそうです。

「ばば〜ん!平坂美代さんです!はい、拍手!」

パチパチと拍手をする美代と名付けられた彼女。しかしその拍手は自画自賛になりはしないか。そして拍手しろと刺さるような目線に体が勝手に反応して拍手をしている俺。こら脊椎。脳までちゃんと信号送れ。そんなだから俺の理性が乾いていくんだ。

「美代って呼んで下さいね」

柔らかい微笑みに俺動揺。綾みたいなタイプに慣れすぎてこういう男としての本能にクリティカルな仕草に耐性があまり無いのだ。いやっほう、ヘタレバンザイ。

「……で、平坂さんは」

「美代です」

うぐ、チェック厳しい。

「……み、美代さん、これからどうするの?」

「さんもいらないんですけど……妥協します」

正直、さん付けでもかなりの抵抗が……。

「ああ。悟、その事だけど暫くうちで預かることにしたから」

ああ、そうなんだー……あ?

「姉貴、それ本気?」

「あら。意外と驚かない」

いやもうなんとなくそうなる予感がしまくってましたし。姉貴がそういうなら俺の反論なんて聞いちゃくれないんだろうし。

「うんうん。素直な男の子は好きよ」

姉貴限定だけどな。素直になるよう調教されてますから。

「不束か者ですが、よろしくお願いします」

こらそこ。三つ指を立てない!まったく……なんだか今日一日でがらりと俺の日常が変わり果てたような気がするなぁ。

明日から騒がしくなりそうだ。


「ところで、明日からテストだけど悟に綾は平気か?俺のノートみる?」


──訂正、今夜からちょっと騒がしくなります。

第一話更新完了したので、自らのブログ内で登場人物紹介なぞをぽつぽつとアップしていくのでよろしければそちらもどうぞー。ブログURLは作者紹介ページに載せてあります。

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