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第六感の彼女  作者: 朱月
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第十二話:活動開始?

 部屋に戻ったとき、先ほどまで無かったはずのオカルト研に新たな備品が加えられていた。白い板に黒いペン、つまるところ普通教室には必ず備え付けられている黒板とは逆のホワイトボードであった。

「この教室は一応物置、ということになっているので黒板は設置されていないのです」

 と、古屋が補足する。確かに普通の教室とは二回りほど小さく、たった五人しか中にいないというのに少し狭苦しさを感じてしまうほどだ。

 その五人でも狭苦しく感じてしまう教室の一番奥にはホワイトボードがあり、それに何やら文字を書き込んでいる会長がいて、その横に控えるように立っている美代さん。そして長机を挟んで入口側で椅子に座っているメグ、古屋そして俺。何をするわけでもなく、ただ会長がホワイトボードに書き込んでいる何かが完成するまでじっと待っていた。

「さて」

 会長が持つペンの動きが止まる。どうやら書き終えたようである。皆が注目する中、会長が高らかに宣言した。

「オカルト研究会第一回ミーティングを始めます!」

 それに合わせて隣に控えていた美代さんがクラッカーを鳴らす。相変わらず用意がいいのはいいのだが、たった一発のクラッカーでは言葉に出来ない寂寥感が溢れてくる気がする。

「はい、拍手!」

 その寂寥感を払拭するべく会長が俺たちに向かって拍手を要求する。呆気にとられていたメグは慌てるように拍手を、慣れっこだった俺はメグの後を追うように拍手を、古屋は組んでいた腕を崩すことなく溜息を吐いていた。

「さて、今日はオカルト研究部にて活動するにおいて知っておかねばならない事を学習します。ああっと、そんな難しい事じゃないから気楽に聞いてね!」

 会長は持っていたペンを置いて代わりに指差し棒を取り出し、一直線に俺に向けてくる。

「さて問題です。私達の母校であるこの巫山高等学校は今年で創立何周年を迎えたでしょうか!」

 急に振られて慌てて自分の記憶の中にダイブする。有象無象のデータが散らばった記憶を創立何周年という言葉で検索にかける。しかしいつまでたっても該当するデータは見つからず考えあぐねた結果、そういった事に詳しそうな隣の人物に視線で助けを求める。だがその視線の先にあったのはまるで『その程度の事、この学校の生徒ならば知っていて当然。知らないのなら一からこの学校の変遷をたたき込むしかありません』みたいな顔だった。ならばと逆に視線を向けてみればそっぽを向いている。わからないのか……。

「確か、五十いくつだと思うんだけ……ど?」

 自信無く答えると目の前と隣にいる人物に溜息を吐かれてしまう。仕方ないだろ!普通創立何周年覚えているヤツなんてごまんといるだろ!それに聞かれなかっただけでメグも知らないはずだ。

「全くサトー君は勉強が足りてないんだから……。うん、そうだね。槻実が説明してもいいけど、せっかくだから新入会員である灯さんに説明してもらおうかな。会員との理解を深めるのは大事な事だと槻実は思うの。灯さんもそう思うよね?」

 古屋はとりあえず今はオカルト研を無くそうと動いている訳ではないので、古屋への呼び方が普通になっている。しかしながら灯先輩でなく灯さんであるあたり、完全に気を許した訳ではないらしい。古屋もそれをわかっているのか僅かばかり表情を厳しくして椅子から腰を上げてしゃべり始めた。

「まぁいいでしょう。勉強不足な人がいるのは確かな事なのでこの際じっくりとこの学校の歴史と言う者を叩きこんでおくのも悪くはありませんから」

 ちらりとこちらを見下ろす古屋の視線は『後でテストしますからよく覚えておくように』と語りかけてくるようだった。

「巫山高等学校、つまりこの学校自体は今年で創立六十一年を迎えます。残念ながら五の字はどこにもありません。六十一年、つまり終戦から暫くしてという事になりますが、これは厳密に言えば正しくはありません。巫山、と名が付いたのは確かに六十一年前の事になりますが、この場所に学び舎という物が出来たのは江戸の時代にまで遡ります。当時この辺りは霊験あらたかな土地として有名でしたので、そこに学び舎を置く事でそれらにあやかろうとしたのでしょう。それから長い時間有名な学び舎として名を広めていきましたが、戦時中の空襲によって建物が完全に焼失。その際学校の名を校舎を置く山の名に改め現在に至る、という事です。わかりましたか?江藤君。それに初瀬さん」

「う……」

 古屋に知らなかったことを見破られ唸り声をあげるメグ。というよりそんな話、忘れていたというより初めて聞いた。古屋お得意の生徒手帳にもそんな事は書いていなかったと思うぞ。

「確かに。巫山と名を変える以前とは一応別の建物として区別されているので生徒手帳はおろか図書室の蔵書にも記述があるかどうかも怪しいです。しかし別と区別されているとしてもお互いに全く関係が無いという訳にはいきません。特にこのオカルト研究会では」

 どういう事だと尋ねようとしてふと頭に何かが引っかかる。

厳密に言うなら違うようだが、この学校は一度空襲で完全に焼失しているらしい。つまり、つまりつまりだ。空襲された時間が時間なら……?

「そう……。サトー君の想像は多分当たりだよ。この学校の下にはその際犠牲になってしまった人達が埋まっているの……。言うならばこの学校はお墓の上に……いや、一説によればこの学校は墓石という意味も込められて建てられ」

「ツキちゃんストップ!ストーーップ!止めて止めてそれ以上言わないでーっ」

 会長の話が終わる前にメグが大きな声をあげてそれを妨害する。女の子にはちょっとキツイ内容の話だったのだろう。ただこの部屋の中にいる四人の女の子の中ではメグ以外は平気そうな顔をしていた。会長はもとより平気だとして、古屋も柳に吹く風のようにさらりと流している。美代さんも浮かべていた笑顔をぴくりとも崩していない。流石本物、というより会長の話の内容を理解していない可能性がある。

「メグったら……。そんなじゃオカルト研としてやっていけないよ!大丈夫なの?」

 メグは胸の前で手を結び、目には薄らと涙を浮かべている。誰が見てもオカルト研には似つかわしくない女の子らしい仕草であり、同時にこんな場所にいていい子ではない。

正直俺もかなり動揺していた。オカルト研なんて前に会長に読んでおいてと薦められ、今は美代さんの愛読書と化している本に書かれているような事を遊び半分に実行し、もちろん何も起こらず笑いあうみたいな事をするものだと思っていた。

しかしこの学校にそんな曰くがあるとしたら話は別だ。というよりもあの姉貴がこの学校でオカルト研究会なんていうものを発足させてしまった所から気付くべきだったが、会長が姉貴から今の会長に移ったからと言って安心できるなんて言う根拠にはならない。

「だ、大丈夫。大丈夫だもん……。私、がんばるよ」

 しかしメグはそこでぐっと堪えて踏みとどまる。このオカルト研に彼女をこうまでさせる理由が一体どこにあるのだろうか。思い当たるフシ、みたいな事はいくつかあるが、どこか昨日のメグと今日のメグは違う人物のような違和感を感じてしまう。そんな事あるはずないのに。

「メグ、その息だよ!じゃあ覚悟も決まったみたいだからサトー君に質問だよ。槻実の話を聞いてオカルト研がこれからどんな活動をしていくのか予想がついたと思うけど、どんな事をすると思うかな」

 またもや指差し棒で俺を真っ直ぐに指し示す。突き出された白い人差し指が微かに揺れている。

「あんまり考えたくはないけど……洒落にならないくらいにマジな七不思議を解明したり、夜の学校に忍び込んで迫りくる怪奇現象と戦ったり……とか?」

 自分でも現実離れした答えだとは思うけど、現実離れした姉に現実離れした事をされ続けた俺にとっては割と現実的な答えだ。

「うんうん、そうなんだよね。槻実もそういう活動できたらいいなって思ってるんだけど、実はそうもいかないというより出来ないんだよね」

 本当に残念そうに肩を落とす会長。それと同時に安心感から胸をなでおろす俺とメグ。しかし、出来ないとは思わなかった。会長がどれだけ怪しいパワーを持っているかは知らないけど、少なくとも一般人とは言えない事をする事は出来ると思っていたのだが。

「正確に言うと出来ないというよりする事が無いって言った方がいいかな。シャレにならない七不思議に怪奇現象、この学校は元々そういう類の事に事欠かないんだけどね。そういうのは根こそぎ先代オカルト研によって解決されちゃったんだよね。だから槻実達のオカルト研はする事が本当に無いの。本当サトー君のお姉さんすごすぎだって。少しくらい次に回してくれてもいいと思うのになぁ」

 姉貴、よくやった!と心の中でガッツポーズを決める。思えば姉貴が高校の時が一番弟弄りが大人しかった時期だ。恐らくオカルト研で忙しかったのだろう。その時が俺にとって一番心穏やかな時期であり、そしてその時の姉貴の頑張りによって今の俺に降りかかる危険が減った。今までずっと姉貴は俺に厄介事ばかり引き寄せてくると思っていたけど、いざ本当の厄介事が降りかかろうとした時は姉貴が払ってくれる。ああ、俺ってば愛されてるんだなと一人で勝手に感動に浸っていた。

「ん?じゃあ会長は何でオカルト研なんて作ったんだ?する事が無いなら別に作る必要無いと思うんだけど」

「それは違うよ、サトー君。こういうのはね、作ってから何をするなんて事は大事じゃないんだよ。作る事に意味があるんだよ!」

 声高らかにそう言いきる会長。そこまで自信たっぷりに言いきられると何も言う気になれない。

「でも作った理由を強いて言うならば、尊敬する人と同じ立場になりたかったって所かな。憧れの職業みたいなものだよ。まあ職業とかだったらオカルト研みたいに作るのもなるのも簡単な事じゃないだろうし、その後何をするのかって事も重要になってくるんだけどね」

 はにかみながら笑顔を浮かべる会長に、本当に姉貴の事尊敬してるんだなと今更ながら実感する。いつもは何しているのか全然わからない姉貴だけど、影ではこんなにも誰かに想われるような事をしているとは弟としてちょっと誇らしく感じた。





会長の話はそこで終わった。その後は会長の言っていた通り特にする事もなく、各自思いのままに過ごしていた。美代さんは会長と一緒に例の本を熟読中。とはいえ今は内容を理解するための読書ではなく、漢字の読み書きを覚えるための読書のような感じだった。漢字が出てくるたびに会長に読み方を教えてもらって少しずつ少しずつ読み進めていた。どうにも美代さんは中々優秀な生徒のようで教えられた事は一度で覚え、すぐに自分のものへとしてしまう。この分だと夏休みが終わる頃には俺より博識になってしまうかもしれない。

それと意外にも古屋は所狭しと部屋を占拠する本棚から何冊か本を取り出し、椅子に座って読みふけっていた。てっきりオカルトの類は嫌いだとばかり思っていたが本人に確認したところオカルト研の存在が認められないだけでオカルト自体に特別な感情は持ち合わせていないようだった。

そしてメグは既にこの教室にはいない。一応サッカー部のマネージャーでもある彼女は会長の話に一区切りついた後、教室を出て行って恐らく体操着に着替えグラウンドへと向かったのだろう。マネージャーとオカルト研とはいえ兼任はそれほど楽な事ではない。本当に大丈夫なのだろうか。何のためにメグはオカルト研へと入ったのかという事が未だに俺にはわからなくて、わからないからと本人に直接尋ねるのはしてはいけない事のような気がした。

そして俺は本を読む以外出来る事がないこの空間において本を読んでいなかった。つまりは何かする訳でもなく椅子に座って部屋の中を見渡していた。会長に美代さんに古屋。そして既にここにはいないがメグ。穏やかとは言い切れないものの居心地のよい空気に段々と眠気を催し始めてきていつしか体を机に預けて眠りの中へと落ちていった。

眠りにつく直前、誰かの俺を呼ぶ声が聞こえた気がするが、そんなものでは今の眠気を払う事などできなかった。


「うん。じゃあそろそろ帰ろっか」

 次に俺が気づいた時は、会長が終了の合図を出した時だった。

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