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序章

 過去と現在の違いとは何だろう。

 過去はすでに起こったことで、現在は今の現状。これが模範的な解答だろうか。

 なら未来は?

 未来の明確な解答は?

 今から起こることが未来?

 それとも、誰かが想像したのが未来?

 未来は変えられるとよく言うけれど、それって未来が決まってるってこと?

 私は、未来がわからない。想像し、思慮し、思考し、熟考し、苦悩しても、解答にはいたらない。

 未来ってなに?

 一秒後? 一分後? 一時間後? 一日後? 一年後? 一世紀後?

 先生に聞いてみると後々に起こる不確定なことはすべて未来だと言ってもいいのだと。

 じゃあ、一秒後は未来じゃない? ドッチボールで自分に向かって飛んできたボールを避けられないと理解して当たるのは未来とはなりえない?

 五時に放映されるテレビ番組が予定通り放映されるのは未来ではない?

 じゃあ、それらはいったい何に区分されるのだろうか。

 過去、なわけがない。

 現在、なわけがない。

 未来、というのはさっき否定されたばかりだ。

 ならば、なに?

 納得するだけなら簡単だ。

 未来には二種類あり、何が起こるかわかる未来と、何が起こるかわからない未来があると自分に言い聞かせればいい。

 けれど、私の歪んだ心理状況はそれを良しとしない。

 ただ割り切れば解決することなのに、解答を求めようとする。

 それはやはり、私が壊れているから、そうなるのだろう。

 私には過去がない。正確にいうと、過去にそれほどの価値を見出していない。

 興味がない。いわゆる、無駄なものと判断している。

 私は、経験を蓄積できないから。

 私には、現在と未来しかない。だというのに、二つしかないものの一つが理解できない。

 そして、私に残されたのは現在という一つの真実。

 今の、瞬間の、刹那の、この時間。

 私は、生を実感できる。

「あら、ダメじゃない…」

 足元で蠢くものを、容赦なく踏み潰す。

 ぎぃ、と卑屈な泣き声を辺りに撒き散らし、ぶしゅっ と血が噴き出す。

 ぴとり、と。

 顔についてしまった血を左手で拭い、溶けに溶けたチョコレートのようなソレを指先で糸を引かせて弄ぶ。

 あぁ、―――私は今を生きてる。

 右手に握る獲物を赤く湿らせて、私はそう実感した。

 足元に血だまりができている、その場所で。

 月明かりが溶けるように、その姿を際立たせて。






『バカじゃねえのかお前?』

 反射的に言ったかのような軽い暴言に、僕は眉をひそめる。

「バカとはなんだ。学生の本分である勉強を忘れない、至極真っ当な行動だと僕は自負している」

『何をまたバカらしいことを……、』

 電話の相手である渋木に僕の長くから暖めていた『一生に一度は言ってみたい台詞』を何の悪ぶれもみせずに言ってのけると、そう反応された。

 渋木のため息をつく音が耳に当てている携帯電話から流れ出す。溜めに溜めた大きなため息は僕の眉間に皺をよせる理由には十分すぎた。

「なんだよその反応は。僕がそんなにバカに思えるのか」

『ああ、思えるね。この頃、連続して町で殺人が起きてるってのに、徒歩でコンビニにレポート用紙を買いに行くヤツは十分なバカか、自殺願望者のどちらかしかない』

 渋木の言葉に僕はぐうの音もでなかった。深夜徘徊の現行犯である僕は、今現在コンビニの帰り道を歩きながら友人と通話していた。

 「今、コンビニに居るが、渋木は何か買ってきて欲しいものとかあるか?」と、隣の家に住む渋木にメールしてみたら即座に電話がかかってきて、いきなり説教された。

 むぅ、面倒なヤツめ。たった徒歩三十分のところにあるコンビニに出て何か不都合なことがあるわけでもなし。

『あるだろ。隣人がいきなり死んだら俺の目覚めが悪くなるってーの』

「ああ、そうか。しかし、渋木のためにコンビニに行くなと言われたら僕は意地でも家から飛び出ただろうね」

 だけど面倒だから、すぐに家に戻ってくるんだろうなぁ。

 うーん。僕は本当に面倒な心の作りをしているな。天邪鬼というかなんというか、意地悪なものである。

「ていうか渋木。今何時だかわかる? 僕時計を家に置いて来ちゃって」

『携帯見ろよ』

「お前との通話に使ってる」

『画面見れば時間くらいはわかるだろ』

「あいにくと僕の携帯はそこまで最先端を取り入れていないんだ」

 旧世代の遺物だと言っても過言ではないのだ。嘘だけど。

『ったく。ちょっと待ってろ』と、携帯の向こうからガサゴソと何かを取り出すような音がする。

 ふぅむ。どうやら一瞥して時計が見えるような部屋の状況ではないらしい。つい最近掃除していた気がするがその努力はいったいどこに消えたのやら。

 周りが畑だらけの風景に、山の周囲をぐるりと回る一つの登り坂が見えた。

 コンクリートで舗装されてない、土の道は現代人からみれば遅れてるの一言で片付けられるそれは僕の家へと続く一本道である。

 そこへ一歩踏み出し、レポート用紙と共に買った付属品の重さのかかるレジ袋が気になり始めた右手と携帯を持つ左手の持つものをチェンジし、僕は改めて携帯を耳に押し付ける。

『おぉ、あったあった。ったくこんなところにあるとは誰も想像つかねえよ』

「自分で片付けたんだろうが」

『俺のエロ本。やっと見つけたぜ』

 ぶちっ。

 あ、しまった通話切っちゃった。まあいいか、特に話さなくちゃいけないようなこととかないし。

 とりあえず、携帯で現在時間をチェックしてから、己のポケットの中に突っ込んだ。

 深夜一時。こんな時間に近所の悪がきがしゃしゃり出てくるわけもなく、辺りは沈黙に包まれていた。

 等間隔に置かれた電柱と明かりだけで道すべてを照らすことなどできるわけもなく、僕の足元は時折見えなくなる。

 もーまっくら。お先は真っ暗ひー怖いね。

 そこに不安はないし、不満もない。けど、ほんの一抹の恐怖はある。

 数週間前から起きた連続殺人事件。いや、起きたじゃない。今もなお起こっている連続殺人事件、というのが正しいか。それとこれとは意味がぜんぜん違う。

 テスト一週間前か二週間前くらいに違う。この例え自体違うけど。

 現在進行形での殺人犯の存在。昨日で確か五人は死んでいたはずだ。どれもこれも深夜の時間帯で、いい感じに解体されてたとのこと。

 犯罪心理学のスペシャリストの井上(有上だったも)さんが『これは娯楽殺人ですね』と神妙な顔で頷いていたのを覚えている。

 ………違うなぁ。

 殺人や殺戮に理由を求めるってのは、間違ってる。

 それらはもっとシンプルにあるべきだ。殺したいから、殺す。それ以外に殺人を表す言葉があるのかな。

 よく殺したくて殺したわけじゃないといったものを聞くけど、それは殺人じゃなくて事故に分類したほうがいい。

 そして、似てるけれど、殺人と殺戮は違う。

 殺人は確固たる目的があっての人殺しで、殺戮はなんの意味も理由もない人殺し。殺害という行為に人に対する感情があるかないか。殺さなくてはならない人がいるかいないか。

 それが殺人と殺戮の明確な違いだ。

 と、僕の理論を展開してみたけど、反論は随時受け付ける。

 僕の考えが絶対に正しいという確信も覚悟もないから、反論されたらそれまでだろうけど。言い返すのなんて面倒だからね。

 けど、僕の理論で考えてみて、今回の犯人は殺戮と殺人のどちらを行っているんだろ。

 殺された五人には接点がないっていうから、殺戮でいいとは思うけど。うー。なんか考えるの面倒だ。

 けれど、家へ帰るまですることがない。足を動かす意外に何か面白いことはないだろうか。

 あ、UFOだぜフー!! とか叫んでもいいけれど、それではただの変態なので自重する。

 あ、ケンケンとかはパスね。暇を持て余したの理由にケンケンをして足の骨を折ったら笑い話にもならない。

 そんなことはないとは思うけど、念には念をだ。と、面倒だからしないという行動に後付けで理由を付け足してみる。

 我ながら悲しい作業だ。

 こんなことなら渋木との通話を切らなければよかった。

 だからといって、もう一度かけ直すのもなんとなくはばかられるし、この暇な時間をどうするべきか。

 とりあえず、家へ帰る時間の短縮のために走ることにした。

 足に少し力を入れ、次に踏み出す一歩目の歩幅を大きくする。それを繰り返し、僕の足が安定した一定運動を開始した。

 直後、暗がりに潜む石に足をひっかけ、僕の顔面が土汚れの道へスライディング。

 痛い。予想以上の痛さに、僕は歩く気力を失いそうだ。

 手足に力を入れ、自分の身体を起こす。

 その後、足の裏からロケット噴射で空を飛び家へと向かってもいいのだけれど、それだとただのロボットなので自重する。できないけど。

 立ち上がり、服についた砂を払ってから僕は再び歩き出す。

 この転んだ借りは渋木に支払わせる、と心に決めて、それを実行した時のことを想像して思わず笑みがこぼれる。

 けれど、そんな僕の表情はすぐに消えることとなる。

 視界の端に、何かが映った。

 木とは違う、何かの生き物が蠢いていた。

 月明かりと、心もとない電灯が照らす道の向こう。正確には僕の向かう道の右にある一つの公園。

 ―――月に、雲がかかる。

 最初に気づいたのは、言いようの無い強烈な臭いだった。

 鉄くさい、とでもいうのだろうか。

 その臭いを辿り、僕は公園の入り口をくぐり、その中へと侵入する。

 次に気づいたのは人影。あまりの暗さに影も出来ないその中で、一人の女性が公園のど真ん中で立ち止まっていた。

 歩く速度が、自然と減少する。ゆっくりと、しかし確実にそこへ近づいていく僕の足は、その女性の顔が判別できるほどに近づいたときには完全に止まっていた。

 ―――そして、月にかかった雲が身を引き、月光が辺りを照らす。

 最後に気づいたのは、死体。僕の足元に広がる、溜まりに溜まった水溜り。赤く染まった、水溜り。

 死体が事切れてまだそんなに時間が経っていないのか、その身体は時々ピクリと痙攣していた。

 そして、その血溜まりの中心に佇む、一人の女性。

「あら……、」

 女性が僕に初めて気づいたかのように目を向けた。彼女の右手に持つ、赤く染まりきった果物ナイフが月明かりに反射してちらりと光る。

「こんばんは。良い、夜ですね」

 綺麗な女性、いや少女だった。年齢は僕と同じか少し上くらいだろうか。綺麗な黒髪が肩と腰の中間辺りまで伸びて風に揺れている。

 不純で、不潔で、不条理で、不謹慎で、不真面目で、不可思議で―――純粋な少女の笑顔だった。

 そんな綺麗な綺麗な綺麗な少女の顔は、飛び散った血が所々に付着していた。

 その顔には、見覚えがある。………そうか、そうだったのか。

 いや、今はそれどころではない。感慨に耽っている場合ではない。

 僕は会ってしまったのだ。殺戮を目的とした殺人鬼、その人に。

 そして。

 ―――これが僕、水野景みずの・けいと少女、榊愛さかき・あいの初めての出会いだった。



―――The event was a memorable night for me.~~Introduction to the story of the story~~――――



この作品ではすべてを一人称にして書いていこうと思います



慣れない事なので、お恥ずかしい間違いをお見せするかもしれませんが、少しでも楽しんでいただけたらうれしいです

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