セクシーな大根
ギルドマスターの執務室から逃げるように退出した翌日。
俺とセレスは、ギルドの特別受付に呼び出されていた。
(またかよ‥今度はなんだよ)
「単刀直入に言う。お前たちに指名依頼だ」
受付嬢が差し出したのは、王都近郊の砦を占拠した『オーク・ジェネラル』率いる豚鬼の群れの討伐依頼だった。
「き、昨日の今日で指名依頼とは、展開が早すぎるんじゃないか?」
俺が尋ねると、受付嬢は少し引き攣った笑いを浮かべた。
「ギルドマスターからの強い推薦があったの。あんな……その、独特な水魔法を見た後だけど、実力は本物だと判断したみたい」
受付嬢も笑いを堪えている顔だった。
どうやら昨日の『浜辺の狂った人魚』ポーズは、一部の職員にも見られていたらしい。穴があったら入りたい気分だった。
‥いや本当に。
セレスが涼しい顔で依頼書を受け取った。
「受けるわ。彼ならオークの百匹や二百匹、変なポーズで一掃してくれるもの」
彼女はすっかり『氷の聖女』の仮面を被り直しているが、俺にはわかる。
こいつ、俺がまた奇行に走るのを特等席で見たいだけだ。
オークに占拠された廃砦に到着した。
見張りのオークたちが、俺たちの姿を見つけて下品な笑い声を上げる。
「ブヒィ! 女だ! 極上の女と、ひ弱な男が来たぞ!」
「リオン、結界は張らないわ。あなたの広範囲魔法で一気に終わらせなさい」
セレスは早々に支援を放棄し、安全な岩陰に移動して特等席を確保した。完全に観客の態度だった。
「……後で絶対に泣かす」
俺は恨み言を呟きながら、砦の門の前に進み出た。
オークの群れを一掃するには、中級以上の土魔法が最適だ。
だが、その代償はまたしても俺の尊厳を激しく削り取るものだった。
俺は深く息を吸い、地面に仰向けに倒れ込んだ。
そして、両脚を艶かしく交差させ、片腕を頭の後ろに回す。
顔は、唇を尖らせて色目を使いながら、なぜか限界まで白目を剥くという高難度の表情を作った。
名付けて、中級土魔法発動フォーム『誘惑のセクシー大根(白目)』だった。
「ブヒ……?」
興奮気味だったオークたちが、突如として地面でセクシーポーズをとりながら白目を剥く男を見て、完全にフリーズした。
欲望に忠実な魔物でさえ、「関わってはいけないヤバい奴」と本能で察した顔だった。
「大地よ、穿てぇぇぇっ!」
俺が白目のまま叫ぶと、砦の地面が激しく隆起し、無数の鋭い岩の槍がオークたちを下から串刺しにしていった。
【中級土魔法:アース・スパイク】。
「ブギィィィィッ!?」
色気もへったくれもない凄まじい威力の岩槍により、砦にいたオークの群れは一瞬にして壊滅した。
「……終わったぞ」
俺は素早くセクシー大根のポーズを解除し、服の泥を払った。
背後を振り返るまでもない。
「ひぃぃぃぃっ! せ、セクシー大根……っ! 白目なのに、色目使ってるぅぅっ! あはははははははっ!!」
岩陰では、氷の聖女がまたしても腹を抱えて地面を転げ回っていた。彼女の引き笑いが、崩壊した砦に虚しく響き渡るのだった。
♦︎
一方その頃。
王都の地下下水道では、元勇者が巨大スライムの体内に半分取り込まれ、完全にパニックに陥っていた。
「た、助けてくれぇっ! 俺の美しい顔が溶けるぅぅっ!」
彼が必死にスライムの中で暴れていると、ふと上部の鉄格子から、魔法使いの女が下水道に落とされてくるのが見えた。
彼女もまた、借金取りに追われてここまで落ちぶれたらしい。
「お、お前! 俺を助けろ! 早く魔法を詠唱しろ!」
「無理よ! こんな臭い場所で長文の詠唱なんてできるわけないでしょ!?」
かつての栄光にすがりつく二人は、そのまま仲良くスライムの胃袋(?)へと消えていくのだった。
彼らの泥水より酷い底辺生活は、まだ始まったばかりだった。




