表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

勇者パーティーの没落と、新たなる変顔(魔法)の覚醒


闘技場での大惨事から一夜明けた。

王都の冒険者ギルドは、朝からその話題で持ちきりだった。

「聞いたか? あの『白銀の剣』の勇者、王様の前でいきなり足を開いて奇声を上げたんだとよ」

「ああ、おまけに顔面をモンスターに殴られて前歯が全部折れたらしいぜ。ダッサ……」


「結局、王族への不敬罪でパーティーは解散、ライセンスも剥奪だってよ。今頃、スライムの汚物処理でもさせられてるんじゃないか?」

ギルドの片隅のテーブル席で、俺は深くため息をついた。


自業自得とはいえ、かつての仲間があそこまで社会的に抹殺されるとは。俺の【詠唱破棄】の真実(ポーズと変顔)を中途半端に真似しようとした結果がアレだった。


「ふふっ……あははっ……!」

向かいの席では、氷の聖女ことセレスが、昨日の光景を思い出しては肩を震わせていた。

彼女は完全にツボに入ってしまい、一晩経っても思い出し笑いが止まらないらしい。


「いい加減にしろ。お前、聖女としての威厳がゼロになってるぞ」

「だ、だってぇ……! あのナルシスト男が、あんなドヤ顔で足広げて……っ! ひぃぃっ、お腹痛い!」

涙を拭うセレスを呆れ顔で見ていると、ギルドの扉が勢いよくバンッと開いた。


「緊急事態だ! 昨日の闘技場から逃げ出したAランク魔物『狂暴猿ブラッド・エイプ』が、王都近郊の街道に現れた! 討伐隊を組むぞ!」

ギルド職員の悲痛な叫びに、冒険者たちがどよめいた。


あの勇者が一撃でノックアウトされた猿だ。

普通の冒険者が何人集まっても被害が拡大するだけだった。

「行くわよ、リオン」

さっきまで笑い転げていたセレスが、スッと立ち上がり、一瞬で『氷の聖女』の冷徹な顔に戻った。この切り替えの早さだけは素直に感心する。


「‥お前の支援(笑って倒れないこと)があるならな」

「……善処するわ」

いや目を逸らすな。

俺たちはすぐに王都を飛び出し、街道へと向かった。


そこには、馬車をひっくり返し、暴れ狂う狂暴猿の姿があった。四メートルを超える巨躯。

その両腕は丸太のように太く、一撃でも貰えば即死は免れない。

「ギガァァァァッ!!」

俺たちの姿を認めた狂暴猿が、ドラミングをして威嚇してくる。


「リオン、私の『聖なる防壁ホーリー・ウォール』で時間を稼ぐわ。その間に、あなたの最大の攻撃を準備して!」

「分かった」

俺は覚悟を決めた。


Aランク魔物を確実に仕留めるには、最上級魔法をぶつけるしかない。

だが、最上級魔法の代償(ポーズと変顔)は、俺の精神を完全に破壊するレベルのものだった。


俺は狂暴猿の真正面に立ち、大きく息を吸い込んだ。

そして――両手を後頭部で組み、腰を直角に曲げて極限まで『エビ反り』の体勢をとった。


さらに顔面は、唇をタコのようにすぼめた『アヒル口』。

目はバッチリと見開き、狂暴猿に向かって『情熱的なウインク』を連続で放つ。

名付けて、最上級氷結魔法発動フォーム『魅惑のエビ反りアヒル口(連続ウインク付き)』だ。


「ウホ……ッ!?」

狂暴猿が、明確に「ドン引き」した顔で硬直した。

野生の勘が『こいつはやばい変態だ』と告げているのか、後退りさえしている、正解だ。


背後からは、「ぶふっ……!」というセレスの吹き出す音が聞こえた。防壁魔法の展開音が途絶える。こいつ、また支援を放棄しやがった。


だが、俺の体内にはかつてないほどの莫大な魔力が渦巻いていた。

恥ずかしさで心臓から血が出そうだったが、俺はそのエビ反りアヒル口のまま、渾身の魔法を解き放った。


「凍てつけぇぇぇっ!!」

タコのような唇から、絶対零度の吹雪が一直線に噴射された。

【最上級氷結魔法:コキュートス・ブレス】。

「ギッ、ギャァァァ――……」


狂暴猿は逃げる間もなく、その巨大な体を一瞬で分厚い氷柱に閉じ込められ、完全に沈黙した。陽の光を反射してキラキラと輝く氷の彫像の完成だった。


「……ふぅ」

俺は静かにエビ反りを解き、乱れた前髪を整えてクールな表情を作った。

完璧な討伐。これでAランク討伐の功績は俺たちのものだ。


「……あはははははっ!! なによあれぇっ! エビ反りでウインクってぇぇぇっ!!」

背後を振り返ると、セレスが街道の真ん中で四つん這いになり、地面をバンバンと叩いて呼吸困難に陥っていた。


「む、無理ぃっ! かっこつけてるのに顔がアヒル……っ! あはははははははっ!!」


……俺がこの世界で本当の平穏(笑われない日々)を手に入れるのは、どうやら魔王を倒すよりも難しい道のりになりそうだった。


一方、その頃。

王都の地下下水道では、顔中に包帯を巻き、ボロ布を着せられた元・勇者が、ゴブリンの糞をスコップで掻き出しながら血の涙を流していた。


「なぜだ……! なぜ俺の『美しきしゃくれブリッジ』は不発だったんだぁぁぁっ!!」

彼の悲痛な叫びは、誰に届くこともなく下水道の闇に消えていったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ