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闘技大会と、美しき勇者の大爆死

第5話:大闘技大会と、美しき勇者の大爆死


王都は熱狂に包まれていた。


年に一度、王族も観戦に訪れる大闘技大会。俺とセレスは、討伐の報酬で買った少し良い席から闘技場を見下ろしていた。


「……なぜ俺が、あいつらの試合なんか見に来なきゃならないんだ」

「情報収集よ、リオン。腐ってもかつてのあなたのパーティー。彼らがどう没落していくか……いえ、どう戦うか、見届ける義務があるわ」


セレスは腕を組み、氷のように冷たい視線を闘技場に向けている。

だが、その声は微かに上擦っており、隣に座っているだけで彼女の体が小刻みに震えているのが分かった。

絶対に「何か面白いこと(主に俺の変顔関連)が起きるのではないか」と期待している。


ファンファーレが鳴り響き、闘技場の門が開いた。

歓声の中、煌びやかな鎧に身を包んだ勇者と、その後ろを歩く魔法使いが入場してくる。


『さあ、本日の目玉! 民衆の希望たる【白銀の剣】パーティーの登場だ! 対するは、捕獲された凶悪なAランク魔物、狂暴猿ブラッド・エイプ!』


実況の声と共に、巨大な檻から血走った目をした四メートル超えの巨大な猿が解き放たれた。


普通のパーティーなら総力戦で挑むべき強敵だ。

しかし、勇者は剣を抜くことすらなく、ふふんと鼻で笑って前に出た。


「皆の者! そして国王陛下! とくとご覧あれ! この天才たる俺が編み出した、一切の詠唱を必要としない究極の魔法技術……【美しき舞踊スタイリッシュ・バースト】を!!」


闘技場が静まり返る。

観客も、国王も、固唾を呑んで勇者の次の行動を見守った。

そして、勇者は動いた。

「フッ……!」

彼は両脚を限界まで外側に開き、見事なまでの『ガニ股』になった。


さらに両腕をカマキリのように高く掲げ、顔は……なぜかキリッとしたウインクと、薔薇をくわえているかのようなドヤ顔を作っていた。


闘技場を、痛いほどの沈黙が支配した。


誰一人として言葉を発せない。

国王に至っては、持っていたワイングラスを落として口をポカンと開けている。

「……ねえ、リオン」


「頼む…話しかけないでくれ」


隣でセレスが尋常ではない震え方をしている。俺は両手で顔を覆い、前かがみになって死にたくなっていた。


勇者のやつ、俺の『カマキリガニ股』を、中途半端に自分流の「美しさ」でアレンジしやがった。その結果、ただの『股を開いてカマキリの真似をしながらドヤ顔をしている変態』が錬成されていた。


「喰らえぇぇっ!!」

勇者が自信満々に叫ぶ。

しかし、当然だが何も起きない。

彼は【詠唱破棄】のスキルなど持っていないのだから。

「ウホ……?」


対峙していた狂暴猿でさえ、「こいつ、いきなり発情期に入ったのか?」と言わんばかりの困惑した表情で頭を掻いている。


「な、なぜだ!? これでは発動しないというのか!? ならば……!」

焦った勇者は、さらに狂行に出た。


地面に背を向けて倒れ込み、グワッとブリッジの体勢をとったのだ。

そして、王族の観覧席へ向かって、限界まで顎を突き出した『しゃくれ顔』を披露した。

「はぁぁぁぁっ! 美しき、しゃくれブリッジ!!」


『……えーっと。勇者選手、突如として奇妙なストレッチを始めました。これは……何かの儀式でしょうか?』

実況のフォローすら虚しく響く。


国王はついに顔をしかめ、「誰か、彼をつまみ出せ。見ていて不快だ」と側近に命じ始めた。

「だ、駄目だわ……リオン……っ! ひぃぃぃっ!!」


隣の席では、ついに限界を迎えたセレスが椅子から滑り落ち、腹を抱えて痙攣していた。


「あ、あははははっ! ドヤ顔でガニ股っ……! からの、しゃくれブリッジ!! む、無理っ……呼吸が、呼吸ができないぃぃっ!!」


「……俺のせいじゃない。あいつが勝手にやったんだ」

俺が必死に弁明している間にも、闘技場では悲劇が起きていた。


ブリッジの体勢で動けない勇者に、ついに痺れを切らした狂暴猿が近づき――その突き出たしゃくれ顎に向かって、容赦のないフルスイングの右ストレートを叩き込んだのだ。


ドバキィィィッ!!

「あべばばばばばっ!?」

勇者の美しかった顔面がへこみ、悲鳴と共に闘技場の壁までボールのように吹っ飛んでいった。白目を剥いて完全に気絶している。


後に残されたプライド激高の女魔法使いは、一人でAランク魔物を前にガクガクと膝を震わせ、そのまま泡を吹いて倒れた。


『しょ、勝負あり! なんということでしょう、王都の希望であった勇者パーティー、謎の奇行の末に一撃で全滅です!!』

闘技場は大ブーイングの嵐に包まれた。


「金返せ!」

「ただの変態じゃないか!」

「王の御前で何を見せている!」

怒号が飛び交う中、俺は静かに席を立ち、笑いすぎて息も絶え絶えになっているセレスの襟首を掴んで引きずりながら、闘技場を後にしたのだった。


彼らの社会的な死は、こうして数万人の大観衆と国王の目の前で、あまりにも無様に完了したのである。


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