王城の舞踏会と、貴公子リオンの恍惚ポールダンス
第13話:王城の舞踏会と、貴公子リオンの恍惚ポールダンス
王都を救った英雄としての凱旋パレードから数日後。
俺とセレスは、王城の最も豪奢な大広間で開催された『英雄を讃える祝賀舞踏会』の主賓として招かれていた。
広間は眩いばかりのシャンデリアに照らされ、国内の有力な貴族たちがこぞって集まっている。
オーケストラの優雅な音楽が流れる中、俺は仕立ての良い純白の燕尾服に身を包み、壁際で死んだ魚のような目をしていた。
「素晴らしい活躍でしたな、リオン殿! あのバルコニーでの『神聖なる妖精の舞』……我が領地の祭事でもぜひ披露していただきたい!」
「ええ、あの情熱的な腰の動き! あれこそが古の魔を祓う儀式なのですね!」
次々と挨拶に来る貴族たちが、目を輝かせながら俺の黒歴史を絶賛していく。
国王が気を利かせたのか、あの『悩殺マッスル妖精の号泣クネクネ・フラダンス』は、公式記録において『神降ろしの神聖舞踊』という扱いになっていた。
国を挙げて俺の羞恥心を抉り続けないと気が済まないらしい。
「ふふっ……神聖なる……ぷっ、妖精さん……」
隣に立つセレスは、夜空の星を散りばめたような極上の蒼いドレスを見事に着こなしていた。
誰が見ても息を呑むほどの傾国の美少女だ。
だが、扇子で隠されたその口元は常にピクピクと痙攣し、俺が貴族に褒められるたびに肩を震わせて咽び泣くような声を漏らしていた。
「……お前、一口も酒を飲んでないのに酔っ払いみたいになってるぞ」
「だ、だってぇ……! 妖精って……神降ろしって……っ! あはははっ、皆あの泣き顔のフラダンスを真面目に称賛してるんだもの……っ!」
「いい加減にしろ。俺は今すぐこの広間から逃げ出したいんだ」
俺が深い溜息をついた、その時だった。
パリンッ!!
突如として、広間の巨大なステンドグラスが外側から粉々に砕け散った。
悲鳴が上がる中、夜の闇から数十の黒い影が広間へと侵入してくる。オーケストラの演奏が止まり、優雅な空気は一瞬にして凍りついた。
「ヒヒヒ……浮かれているところ申し訳ないが、この国の歴史は今夜で終わりだ」
影の中心から歩み出たのは、血のように赤い瞳と青白い肌を持つ、燕尾服姿の優雅な男だった。背後にはコウモリの羽を生やした魔族たちが控えている。
その場にいた騎士団長が、顔面を蒼白にして叫んだ。
「貴様ら……特Aランク指定の魔族、『吸血鬼(高位種)』か! なぜ王城の結界を抜けて……!」
「我ら宵闇の貴族を、人間どもの浅知恵で防げると思ったか? 国王の首はいただく。そして、この国は我ら吸血鬼の牧場となるのだ!」
(この国、魔族とかに襲われすぎじゃね?大丈夫か)
吸血鬼のリーダーが指を鳴らすと、広間の入り口が分厚い血の壁で塞がれた。完全な密室空間だ。
パニックに陥る貴族たち。
護衛の騎士たちが剣を抜いて飛びかかるが、吸血鬼たちは嘲笑いながら片手で騎士たちを軽々と吹き飛ばしていく。
物理攻撃がほとんど効かず、並の魔法も弾き返す高位の吸血鬼。弱点は強力な『光属性』か『神聖魔法』のみだ。
「リオン!」
セレスが扇子を閉じ、鋭い視線を俺に向けた。いつの間にか『氷の聖女』の完璧な戦闘態勢に入っている。
「結界で分断されているわ。外からの援軍は絶望的ね。……あなたがここで一掃するしかないわ」
わかっている。だが、広間全体を覆い尽くすほどの高位の神聖魔法を発動するための『代償』は、こんな数百人の貴族が見ている前で絶対にやりたくない部類のものだった。
俺が躊躇していると、吸血鬼のリーダーが俺を鼻で笑った。
「お前が噂の英雄か? バルコニーで奇怪な踊りをしていた道化師が。我ら高貴なる吸血鬼を前に、その足の震えが止まらぬようだな」
違う。足が震えているのは恐怖からではない。
これから自分が完遂しなければならない『社会的自爆テロ』への絶望からだ。
「……セレス。俺が魔法を放ったら、すぐに残敵を掃討しろ」
「ええ、任せて(笑わなければね)」
俺は純白の燕尾服の襟を正し、広間の中央、屋根を支える巨大な大理石の円柱へと歩み寄った。
そして、覚悟を決めた。
俺は円柱にガシッと抱きつくと、勢いよく飛び上がり、両脚を柱に絡ませて体を逆さまに固定した。
そのまま、重力に逆らうように腰を激しく前後左右にうねらせ、円柱の周りを猛スピードでグルグルと回転し始める。
「な、なんだ!?」
吸血鬼たちがギョッとして後ずさる。
さらに顔面は、下顎を限界まで前に突き出して鼻の穴を塞ぐほどの『究極の受け口』。そして両目は焦点の合わない『猛烈な寄り目』。
ダメ押しとばかりに、舌をだらしなく垂らしながら、吸血鬼たちに向けて「アハァ〜ン」という艶めかしい吐息を撒き散らした。
名付けて、特級神聖魔法発動フォーム『恍惚の求愛ポールダンス(高速腰振り&受け口寄り目)』だった。
「…………えっ?」
吸血鬼のリーダーが、心底理解不能なものを見る目で固まった。
「き、貴様……何を……? 神聖な王城の柱に股を擦り付けて、そのおぞましい顔はなんだ!? 我ら吸血鬼の美学に対する冒涜か!?」
恐怖ではない。純粋な『嫌悪感』と『ドン引き』の入り交じった悲鳴だった。誇り高き夜の貴族たちでさえ、逆さまで柱に絡みついて受け口で腰を振る男の姿には、耐え難い生理的嫌悪を抱いたらしい。
「ひっ、見ないで! こっちを見ないでくれぇっ!」
「キモい! キモすぎる! 目が腐るぞ!」
吸血鬼たちがパニックになり、顔を覆い隠して逃げ出そうとした。
だが、すでに俺の体内には神の如き強大な光の魔力が満ちていた。
「浄化されろぉぉっ!!」
俺が受け口のまま、舌をベロベロとさせながら絶叫した瞬間。
俺の激しく振られる腰のあたりから、太陽すらも霞むほどの強烈な黄金の光が全方位に向けて爆発的に放射された。
【特級神聖魔法:ホーリー・ノヴァ】。
「ギィィィヤァァァァァァァッ!!」
「目がぁ! 光が、いや、あの腰の動きが脳裏に焼き付いて離れな……おごぼぁぁっ!」
黄金の光に包まれた吸血鬼たちは、浄化の光によるダメージと、直前に見たトラウマ級の映像による精神的ショックのダブルパンチを受け、文字通り塵一つ残さず灰となって消滅した。
広間を覆っていた血の結界も、ガラスが砕けるように消え去った。
「……ふぅ」
俺は静かに大理石の柱から降り、乱れた燕尾服のシワをパンパンと払い、完璧な貴公子の無表情を作って振り返った。
被害はゼロ。王侯貴族の命は見事に守り抜かれた。
「…………」
だが、広間を支配していたのは、吸血鬼が襲撃してきた時よりも遥かに深く、冷たい沈黙だった。
数百人の貴族たちが、シャンデリアの光の下で全員、魂が抜けたような顔で俺の股間と顔を交互に見つめている。
そして、その沈黙を破ったのは、やはりあの女だった。
「あ……あひっ……ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
美しい蒼のドレスを身に纏った氷の聖女セレスが、広間のど真ん中で四つん這いになり、磨き上げられた大理石の床をバンバンと叩きながら酸欠の魚のように痙攣していた。
「あはははははははははっ! ポ、ポールダンスっ! 逆さまでっ! 受け口で腰振ってたぁぁぁっ! む、無理っ! 吸血鬼がドン引きして泣いてたぁぁっ!」
「……頼むから、もう黙ってくれ」
セレスはついに床に仰向けになり、豪華なドレスがめくれるのも構わず両足をジタバタとさせて悶絶し始めた。
「たす、助けてっ! 息が、息ができないっ! アハァ〜ンって言ってたぁぁぁっ! あははははははははっ!!」
王都を揺るがす吸血鬼のテロは、こうして英雄リオンの献身(物理的な尊厳の完全なる死)によって防がれた。
後日、この大理石の柱は『聖なる男の柱』としてなぜか貴族の奥様方の間で密かな信仰を集めることになり、俺は三日三晩、自室のベッドで枕を濡らし続けることになったのだった。




