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上級悪魔現れる

第12話:王都の凱旋パレードと、悩殺マッスル妖精の号泣クネクネ・フラダンス


霊峰ガランでの古竜討伐という人類史に残る偉業は、瞬く間に王都全土へと知れ渡った。


王都の正門をくぐると、俺とセレスを待っていたのは、割れんばかりの歓声と視界を埋め尽くすほどの紙吹雪だった。沿道には数万人の民衆が押し寄せ、熱狂の渦が巻き起こっていた。

「氷の聖女様! そして最強の魔術師リオン様ぁぁっ!」


「我らが英雄! 王都を救ってくださってありがとうございます!」

民衆が泣いて歓喜する中、セレスは特別あつらえのオープン馬車の上で優雅に手を振り、完璧な『氷の聖女』としての慈愛に満ちた微笑みを振りまいていた。


「……お前、よくあんな大爆笑して地面を転げ回った直後に、そんな澄ました顔ができるな」

俺が隣で小声でぼやくと、セレスは口元を扇子で隠しながら、声を出さずに肩を震わせた。

「ふふっ……あなたこそ、偉大な英雄なんだから堂々と胸を張りなさいよ。ヒョットコ鳩さん……ぷっ」


「頼むからその名前で呼ぶな」

盛大なパレードの終着点は、王城の巨大なバルコニーだった。

眼下には王都広場を埋め尽くす大群衆。

そして俺たちの目の前には、豪奢なマントを羽織った国王が立っている。

国王が直々に俺たちの功績を讃え、最高位の勲章を授与するという栄誉ある儀式がこれから執り行われるのだ。


「リオンよ、そして聖女セレスよ。そなたらの働きにより、我が国は未曾有の危機から救われた。心からの感謝を――」


国王が厳かに告げたその時だった。

空が突如として禍々しい漆黒の瘴気に覆われ、太陽の光が遮られたのだ。


「カッカッカ……古竜を倒した小生意気な人間どもめ。我が魔王軍の障害となり得る存在は、この王都ごと塵に変えてくれる!」


空間がグニャリと歪み、上空から巨大な『上位悪魔グレーター・デーモン』が姿を現した。


Aランクを優に超え、単体で国を落とせるほどの力を持つ大魔族。

そいつが王城のバルコニーに向けて、超広範囲の暗黒魔法『極大消滅球』を放とうと、両手に真っ黒なエネルギーを収束させ始めたのだ。


「な、なんだあの化け物は!?」

「ひぃぃっ! 逃げろぉぉっ!」

広場は大パニックに陥り、護衛の騎士たちも上位悪魔の圧倒的な魔力圧に腰を抜かして動けない。


放たれれば、王城も広場も一瞬で消し飛ぶ。

俺は咄嗟にバルコニーの最前列へと進み出た。

(……やるしかない。特級防御魔法【絶対聖域アイギス・シールド】を!)


特級魔法の代償は重い。だが、ここで羞恥心を優先すれば数万の命が消える。


俺は国王、騎士団、数万の民衆、そして上空の上位悪魔からの視線が一点に集中する中、決死の覚悟で魔法の発動フォームを起動した。



まず、両手を頭の後ろで組み、胸の筋肉を大胸筋の奥からピクピクと弾き飛ばすようにリズミカルに動かす。

そこから、膝を曲げて腰を落とし、骨盤を八の字に激しく、かつ滑らかにくねらせる『超高速のフラダンス』を開始した。


さらに顔面は、両頬をリスのように限界までパンパンに膨らませ、上目遣いで涙をポロポロと流し続ける『あざとい号泣顔』を完璧に作り上げた。


名付けて、特級防御魔法発動フォーム『悩殺マッスル妖精の号泣クネクネ・フラダンス』だった。

「…………ファッ!?」

上空で消滅球を構えていた上位悪魔が、眼下の光景を見て完全にチャージを停止した。


屈強な筋肉をピクピクさせながら、号泣して猛烈な勢いで腰をくねらせている男。

あまりにも文脈を無視した狂気のフラダンスに、上位悪魔の顔に明確な「ドン引き」の表情が浮かんだ。魔族らしからぬ困惑だ。


「えっ……キ、キモ……ッ!」

上位悪魔の口から、思わず素の暴言が飛び出した。

数万人の民衆も、国王も、騎士たちも、全員が完全に言葉を失い、口をポカンと開けて石像のように固まっていた。王都の中心が、痛いほどの沈黙に包まれる。

だが、この圧倒的かつ絶望的な羞恥心と引き換えに、俺の周囲には難攻不落の神聖エネルギーが展開されていた。


「弾け飛べぇぇぇぇっ!!」

俺が号泣顔のまま、猛烈な勢いで腰を天に向かって突き出すと、黄金の絶対障壁がバルコニーから急激に膨張した。

ドゴォォォォォン!!


「ギャバババババッ!?」

圧倒的な反発力を持った黄金のバリアは、上位悪魔をその未完成の消滅球ごとカチ上げて、文字通り空の彼方の星となるまで弾き飛ばしてしまった。


空の瘴気が一瞬で晴れ渡り、再び暖かな太陽の光が王都を照らす。

「……ふぅ。どうやら守り抜けたようだな」

俺はフラダンスの腰の動きをピタリと止め、頬の涙を拭って、何事もなかったかのようにクールな無表情で振り返った。

「…………」

数万人の民衆、そして国王が、未だに事態を飲み込めずに静まり返っている。

そんな絶対零度の沈黙の中、バルコニーの特等席で、たった一人だけが完全に崩壊していた。


「あ、あはははははははははははっ!!! マ、マッスル……っ! 泣きながら腰振ってるぅぅっ! ひぃぃぃぃっ!!」

美しいドレスに身を包んだ氷の聖女セレスが、国王の足元でビターンビターンと赤い絨毯を叩きながら、涙と鼻水を撒き散らして大爆笑していた。


「む、無理ぃっ! フラダンスが高速すぎるぅぅっ! 悪魔がキモいって言ってたぁぁっ! あはははははははっ!!」

「……頼む、もうそれ以上は俺の心をえぐらないでくれ」


英雄として歴史に名を刻むはずだった俺の栄光は、こうして数万人の大観衆の前で『伝説の変態マッスル妖精』へと昇華された。


王都に平和は戻ったが、俺の尊厳が戻る日は永遠に来ないことだけは確実だった。


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