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最強のスキル詠唱破棄、しかし代償は

新作書きました。

よろしくお願いします。


「お前はクビだ、リオン! 今日限りで我がパーティーから出て行け!」

迷宮ダンジョンのボス部屋に、勇者の怒声が響き渡った。


俺の足元には、たった今討伐したばかりのAランクモンスター『ミノタウロス・ロード』が黒焦げになって倒れている。


俺はゆっくりと『その体勢』を解き、深くため息をついた。

「……また俺の魔法に文句があるのか?」


「当たり前だ! なんだ今のふざけた格好は!」

勇者が顔を真っ赤にして指差してくる。


無理もない。

たった今、俺がミノタウロス・ロードを単独で消し飛ばした際のポーズは、控えめに言っても異常だった。


両膝を外側に極限まで開いた凄まじいガニ股。

両腕はカマキリのように高く掲げ、下顎はアイロンのごとく前に突き出し、目は中央に寄せた完璧な寄り目。


それが、俺の持つ最強スキル【詠唱破棄】の発動条件だった。

(他にも色々格好はあるけどこれはマシな方)


俺の名前はリオン。自分で言うのもなんだが、容姿はかなり整っている方だ。

クール系イケメンと街の女性から騒がれることも少なくない。


だが、神は残酷だった。

俺に与えられた最強の無双スキルは、「発動する魔法の威力に比例して、限界まで羞恥心を煽る変顔と奇妙なポーズをとらなければならない」という呪われた代物だったのだ。


「我が『白銀の剣』は、常に民衆の憧れであり、美しくあらねばならない! それなのに、後衛で白目を剥いてガニ股になっている魔術師がいると、絵面が最悪なんだよ!」


「だが、俺が即時発動の魔法で牽制しなければ、お前ら今頃あいつの斧でミンチになってたぞ」

「言い訳をするな! 詠唱破棄など邪道! 魔法使いなら、後方で杖を掲げて美しく長い呪文を唱えろ!」


隣にいるプライドの高そうな女魔法使いも、「ええ、あなたのあの品のないお顔、見ているだけで吐き気がしますわ」と冷たく言い放った。

……理不尽すぎる。

(まぁ、気持ちはわかるが)


好きでカマキリの真似をしているわけではない。俺だって心の中では、血の涙を流すほど恥ずかしいのだ。

だが、ボス戦などの命懸けの状況では、羞恥心を捨てて強大な魔力をぶっ放すしかない。

結果として敵は全滅し、パーティーは無傷なのだから感謝されてもいいはずなのだが。

だが流石に毎度毎度文句を言われるのも疲れた。


「ああわかった。今まで世話になったな」

俺はこれ以上言い争う気にもなれず、背を向けた。

「フン、せいぜい一人で奇妙な踊りでも踊ってろ! お前みたいな顔面崩壊ピエロがいなくなって、これからは俺たちの華麗な戦いが大衆から注目されるはずだ!」


勇者の身の程知らずな捨て台詞を背に受けながら、俺は迷宮を後にした。

――数時間後。迷宮を出て街への帰路。


「グルルル……!」

茂みから、はぐれモンスターの『ブラッド・ベア』が飛び出してきた。凶暴なBランクモンスターだ。

理不尽な追放劇のせいでひどくイライラしていた俺は、即座にスキルを発動することにした。


「……ふぅ」

俺はスッと右足を真上に高く上げ、美しいI(アイ)字バランスの体勢をとった。

そして、両頬を両手でギュッと挟み込み、タコのように唇を極限まで突き出す。目はもちろん、限界まで見開いたガンギマリ状態だ。


「グギャ……?」

獲物に襲いかかろうとしていたブラッド・ベアが、「ヒッ」と短い悲鳴を上げ、ドン引きして一歩後ずさった。


モンスターにすら引かれるこの絶望的な羞恥。俺の心臓(ハート)はすでにズタボロだった。

だが、発動する魔法の威力は本物だ。

ズガァァァァァァン!!


タコ口から漏れ出た極太の熱線(上級魔法:プロミネンス・レイ)が、ブラッド・ベアを背後の森ごと跡形もなく消し飛ばした。


焦げ臭い風が吹き抜ける中、俺は静かに(アイ)字バランスを解き、真っ赤になった顔を両手で覆う。


「……はぁ。早く俺のこの雄姿を、笑わずに受け入れてくれるパーティーを見つけないとな」

ため息をつきながら、俺は一人で夕日に向かって歩き出した。


一方その頃、俺という最強のストッパー(兼・顔面崩壊ピエロ)を失った勇者パーティーが、長すぎる魔法詠唱中にモンスターにタコ殴りにされ、華麗さの欠片もない泥沼の戦いを繰り広げることになるのだが……。


それはまだ、もう少し先の話だった。


♦︎


街に到着した俺は、冒険者ギルドへと足を運んだ。

理不尽な追放劇のせいで財布の中身は心許ない。

(もっと貯金しとけば良かった、はぁ‥)


当面の活動資金を稼ぐため、掲示板から手頃な依頼を探す。

選んだのは、近郊の廃鉱山に住み着いたCランクボス『鉄鎧蜘蛛アイアンスパイダー』の討伐だった。


すぐに出発したいところだが、ボス戦に向けての準備は怠らない。


俺は市場の道具屋へ向かい、蜘蛛の毒に備えて解毒薬を三本、そして念のための回復薬を購入した。

さらに武器屋でローブのほつれを直し、靴の滑り止めを念入りに確認する。

いくら魔法が強力でも、一瞬の隙や油断が死に直結するのがソロの辛いところだった。


準備を万端に整えた俺は廃鉱山へ潜り、最深部のボスの間へ足を踏み入れた。

薄暗い空間の奥で、複数の赤い眼光が光る。


鋼鉄のように硬い外殻を持つ巨大な蜘蛛、Cランクボス『鉄鎧蜘蛛』だ。俺は単身で、その巨大な化け物と対峙していた。


「シャアアアッ!」

威嚇の叫びと共に、蜘蛛が鋭い前脚を大剣のように振り下ろしてくる。

俺はバックステップでそれを躱し、迎撃のために魔法の構えをとろうとした。


その時だった。ボスの間の入り口付近に、微かな気配を感じたのだ。

視線を向けると、岩陰からこちらを伺う人影があった。


銀色の長い髪に、透き通るような蒼い瞳。

ギルドでも有名な『氷の聖女』セレスだった。

普段から一切の感情を表に出さず、近づく者すべてを冷たい視線で凍りつかせると噂される孤高の美少女。


なぜ彼女がこんな所にいるのかは分からない。だが、今は彼女に構っている余裕はなかった。

「……やるしかない」

見られているのは極めて不本意だが、命には代えられない。

俺は意を決し、最強スキル【詠唱破棄】のスイッチを入れた。

スッ、と両手を頭の上に乗せ、ウサギの耳のようにピーンと立てる。


極端な内股になりながら、膝をガクガクと震わせて腰を深く落とした。

そして仕上げに、両の鼻の穴を極限まで押し広げ、下唇を噛み締めながら目を激しく泳がせる。

限界まで情けなさを追求した、名付けて「怯える変顔ウサギ」のポーズだった。

「キチィ……?」


突如として頭の狂った動きを始めた俺を見て、突撃してこようとした鉄鎧蜘蛛がドン引きし、明らかに後ずさりをした。

モンスターに同情と困惑の目を向けられるのは、本当に心が抉られる。

だが、発動条件を満たした俺の魔力は爆発的に膨れ上がっていた。


「いっけぇぇぇぇぇっ!!」

俺の“鼻の穴“から、中級雷魔法『ライトニング・ピアス』の極太の雷撃が放たれた。

轟音と共に一直線に放たれた青白い閃光は、鉄鎧蜘蛛の硬い外殻を紙切れのように貫き、巨大な体を一撃で黒焦げの炭に変えてしまった。

「……ふぅ。一丁上がりだ」


雷撃を撃ち終えた俺は、すぐさま鼻の穴を元に戻し、何事もなかったかのようにクールなイケメン顔を取り繕った。


完璧な討伐だった。

Cランクボスを無傷で、しかも一撃で仕留めたのだ。

さすがの氷の聖女も、俺の圧倒的な実力に畏敬の念を抱いたに違いない。

そうだ、きっとそうに違いない。


そう思い、入り口の方を振り返った瞬間だった。

「ぶっ……ふふっ……ひぃっ!」

岩陰から、奇妙な音が漏れ聞こえてきた。

見ると、あの『絶対に笑わない』と噂される氷の聖女セレスが、地面に両手をついて肩を激しく震わせていた。


「おい、大丈夫か? 毒でも食らったんじゃ……」

「くっ、こっちに来ないで……っ! あ、あははははははっ!! なによあれ、う、ウサギっ……鼻から雷っ……ひぃぃぃっ、お腹痛いぃぃっ!!」


セレスはついに耐えきれなくなったのか、氷のような冷たい表情を完全に崩壊させ、涙をポロポロと流しながら腹を抱えて地面を転げ回り始めた。


「……お、おう」


俺のガラスのプライドは、Cランクボスとの戦いよりも致命的なダメージを負って、粉々に砕け散ったのだった。



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