Where in the world
星は、まだ消えていない――。
この物語は、作者が「こんな子と友だちになれたら」と思って書きました。
子供の頃に夢を諦めかけた人、そして今も何かに立ち向かっている人たちへ。
主人公の十和と一緒に、霧の中を進み、”北”を探す旅へ出てください。
迷っても、立ち止まっても、北は必ず教えてくれる――。
彼女が最後に見つけるものを、あなたもいつか手にできますように――。
※ AIによる補助で制作した作品です。
組織の資料を前にして何を思うのかー第8話 Where in the world
十和は薄暗い倉庫の一角で、回収された膨大な捜査資料を広げていた。
これほどの情報を手に入れたのは初めてだった―
マリアが組織を壊してでも、勇斗を手に入れたいのではないか。
その思いが、胸の奥をざわつかせる。
汗がにじむ手で小さな銀のコンパスを握りしめる。
ポケットの中のひんやりと冷たい金属。だが、その重みは、ただの金属以上の意味を持っていた。
あのとき先輩が渡してくれたコンパス。答えが見つからないときは北を探せ―その言葉の裏には、静かに自分を見守る温かさが宿っていた。
十和は思った。初めて、自分の感情のコンパスを見透かしてくれた人がいた。
怒りや不安を外に出せず、愛の向きもぎこちなく、人の好意を素直に受け取れなかった自分を、ちゃんと見てくれた。
そのときの胸の奥の震えは、喜びと安心と、淡い好意のすべてが絡み合った、あの感覚そのものだった。
画面に映る先輩。十和の胸は締めつけられる。先輩は何回も自分の名前を呼んでいる。
「……どうして……私の名前を……?」
十和は心の中で問いかける。勇斗の目には確かに迷いがある――でも、どうして自分の名前が、あんなに優しく響くのか理解できない。
マリアがその顔を勇斗に近づけ、唇が触れ合う瞬間―十和は思わず息をのむ。
「……っ」
小さく声が漏れ、手に握ったコンパスがわずかに震える。
胸の奥が痛む。怒りだけではない、悔しさ、焦り、そして戸惑い。
どうして―どうしてこんなことが……。
画面から目を背ける。涙がひと筋頬を伝う。
目の前で起きていることを認めたくなくて、でも目を背けることで何も変わらないことも分かっている。
怒鳴りたい、叫びたい気持ちはあったが、声は出なかった。
しっかり握りしめたコンパスの冷たさが、記憶をさかのぼる。
“北を探せばいい。”
揺れる感情を整理しなくても、北を思い出せば針は止まる。先輩を取り戻すため、自分の心の方向を確かめるためにー今、自分は北を見つける必要がある。
十和の目に、マリアの仕掛けた洗脳の過去映像と、今の洗脳映像が重なる。
初めての洗脳映像のときは、先輩の意識が少し残っていた。だからあのとき意識が戻った。だが今は……光は揺れ、瞳の奥に本当にかすかな迷いがあるだけだ。
心理学専門の同僚もここまでの洗脳で意識があるのは本当に奇跡だと言っていた。
青薔薇事件前後の組織の流れも掴みつつある。
だからこそ、一刻も早く止めなければ。
心の中で、“北”を測り直す。コンパスが震える感触が、その決意を後押しする。
ふと、視界の隅にマリアの姿が映った。冷徹で、支配者のように見えるその表情の奥に、微かな迷いや、満たされない孤独が透けて見えた。
人の行動には必ず意味がある。
マリアの気持ちが少しわかるような気がした。
痛みや怒りだけで片付けられない複雑な感情に、ほんのわずかの同情が混ざる。
だがすぐに決意に戻る。握りしめたコンパスの重みが、胸の奥でしっかりと北を指す。
守るべきもの、絶対に救いたい人がいる。
十和は深く息を吸った。涙は流れるが、声にはならない。
「……先輩、絶対に助けるから。もう二度と、誰にも奪わせない……」
銀のコンパスの冷たさは、十和の胸の奥の熱を確かに支えていた。
過去の自分に抱きしめられた記憶と、今の自分の決意が、ひとつの線でつながる。
そして、静かに画面を消した。
そのとき、机の上の端末が震えた。
着信―音華。
「……音華ちゃん?」
通話を繋ぐと、相手の声が響いた。
『十和ちゃん? まだ起きてたの?』
「寝れるわけないでしょ。そっちは?」
「徹夜中。……ねぇ、やっぱり行くつもりでしょ?』
少しの沈黙。
十和は笑いながら答えた。
「うん。行く。私が行かないといけない」
『いつもそう。
誰かのために、頑張りすぎだって』
「違うよ。今回は、私のためでもある。
―好きな人の幸せを取り戻したいから、おせっかいって言われても」
通話の向こうで、音華が息を呑む。
それから、少し声を震わせて言った。
『……絶対、帰ってきて。
十和いなくなったら、私、めっちゃ怒るからね』
十和は笑いながらも、目元を拭った。
「怒られるの嫌だから、ちゃんと帰るよ」
「うん。……あたしも、見ているから。
どうせ止められないなら、支える」
「ありがと、音華ちゃん」
『ありがとうじゃないってば。……また朝まで語ろうね、帰ってきたら』
「うん、約束。」
通話が切れる。
静かな夜の中で、十和はポケットのコンパスを取り出した。
指でそっとガラスをなぞる。
「星は……消えていない。」
彼女の目に浮かぶ涙は、もう恐怖の色ではなかった。
決意と、優しさと、愛しさの色。
暗い廊下を進む。
電話が切れたあとも、音華の耳には、十和の声が残っていた。震えるような覚悟と、隠しきれない不安。それでも前へ進もうとする強さが、しっかり伝わってくる。
十和ちゃんとは、中学のころからの付き合いだ。
教室で肩がぶつかって笑い合った日々、放課後に一緒に帰った日々、くだらないことでふざけ合った日々――
小さな頃から、私はいつもまっすぐな姿を見ていた。
科捜研に入職してから、彼女は横浜先輩と出会った。
私は写真しか見たことなかったけど、名前を聞くと十和の真剣な瞳を思い出す。
「先輩みたいな人になりたいって思ったんだ」
その言葉に、心はほんのりと温かくなった。十和が人を信じる姿は、いつも変わらず誠実で儚く、守ってあげたくなる光を放っていた。
***
彼が行方不明になってからの十和ちゃんは、少しずつ変わっていった。
夜遅くまで仕事に没頭し、時には涙を堪えて孤独に立ち向かう日もあった。
それでも、誰かを見捨てることなく、助けようとする姿勢を崩さなかった。
あの夜、絶望の淵にいた私の前に、十和ちゃんは駆けつけてくれた。
「ごめん、遅くなっちゃった」
震える声、でも確かな温もり。信じてよかった。手を握られた瞬間、守られている安心を忘れない。
***
今、また危険な道に向かおうとしている。
マリアに立ち向かう勇気を、私は知っている。
止めたい気持ちはあるけれど、あの子自身が信じる道を進むのを、そっと見守るしかない。
「十和ちゃん……頑張って。あなたなら、絶対に大丈夫」
10年以上の長い年月で育った絆が背中を押す。
過去の思い出も、写真の笑顔も、今の十和の力になる――
音華はそう信じて、小さく息を吐き、祈った。




