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聖域ー星を探してー  作者: 風橋凪十


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6/8

駆け上がる

星は、まだ消えていない――。


この物語は、作者が「こんな子と友だちになれたら」と思って書きました。

子供の頃に夢を諦めかけた人、そして今も何かに立ち向かっている人たちへ。

主人公の十和と一緒に、霧の中を進み、”北”を探す旅へ出てください。

迷っても、立ち止まっても、北は必ず教えてくれる――。

彼女が最後に見つけるものを、あなたもいつか手にできますように――。

※ AIによる補助で制作した作品です。

霧を越えた先に待つものとはー第6話、駆け上がる

十和は乱れた呼吸を整えながら、辺りを見渡す。

その目はもう、迷っていなかった。


ーまずは音華を救出しよう


ローブの内側で慎重に腕に着けた小さなGPS装置を取り外す。


入信時に渡された追跡装置。


ーもういらない。もうここで終わらせたい。


腰のポーチから筒を取り出す。

非常事態用の発煙筒。

それでも、ここに残る僅かな霧と混ざれば十分だ。


時間を稼ぎたい。できるだけ。


「ただの気休め……だな。」


そう呟き、火を点ける。


白い光が静寂を切り裂くように揺れ、

煙が水宮の間を満たしていく。


視界が霞むその隙に、

十和はドアを開けた。


外の廊下は、驚くほど静かだった。

爆心地のように整然とした沈黙。

霧の外に出たはずなのに、

空気の密度は、まだ“何か”に支配されていた。


ー音華、どこにいるのー


ただ、遠くで冷却装置の音が規則的に鳴っているだけだった。


彼女は地図を思い浮かべながら、

施設内を歩く。

別棟―聖堂の近く―いずれも、人の気配はない。


遠くで警報音がなり始めた。水宮の間の方向。


「……そろそろ、気づかれたな。」


十和は呟き、

ローブの袖口をきゅっと握る。


「……間に合って……お願い。」


小さく祈るように言葉を落とすと、

彼女は最後の候補地へ地下への階段へと足を向けた。


空気が重くなる。

まるで、その先に待つものを知っているかのように。



---




同じ頃。


聖堂の奥、マリアの寝室。


月光がカーテンの隙間から差し込み、

白いシーツを冷たく照らしていた。


マリアは椅子に腰掛け、

手にしたグラスを静かに回す。


赤い液体が光を受けて揺れ、

彼女の瞳にも同じ色を映した。


「……終わったと思っていたのに。」


ワインの香りとともに、

十和の声が頭の奥で蘇る。


――「あなたも、ひとりなの……?」


その記憶の断片が、

胸の奥を静かに締めつけた。


そのとき、

コンコン――

ドアが控えめに叩かれた。


「入って。」


ドアが開き、

リヴァイが姿を現した。

無表情のまま、静かに敬礼する。


月光が彼の左手を照らす。

銀の指輪が、微かに光を反射した。


「報告です。春木が――“水宮の間”を出ました。

 小日向音華の救出に向かっているようです。」


グラスの縁が、わずかに震えた。


「……ありえない。

 あの状態で、精神の再構築なんて……。」


マリアの声は掠れていた。

けれどその奥には、恐れにも似た震えがあった。


彼女はゆっくりと椅子から立ち上がる。

手の中のグラスを机に置き、

リヴァイの方を振り向いた。


「……外で待っていて。少し確認することがあるの。」


「了解。」


リヴァイが扉の外に出ると、

部屋の中は再び静寂に包まれた。


マリアは壁際のモニターへと歩み寄る。

指先でパネルを滑らせると、映像が点いた。


映し出された映像――

霧に包まれた水宮の間。

無意識に、口元をアップする。

声ははっきりとは聞こえないがマリアには分かった。

(謝っているのね……哀れだわ)

ふと、十和が顔を上げる。

(独り言…、いや誰かと話している)

誰もいない空間に手を伸ばしている。

十和の涙が一瞬止まってまた堰を切ったように溢れる。

何かを決意したかのように頷く。

(口角が上がった…?この状況下で?ありえない…)

右ポケットの中に手を伸ばす。

右手握っているものはマリアには見えなかったが反射した光と、十和のこの言葉だけは聞き取れた。

「壊れてなかった……動いてる」

(嘘でしょ…)

もう一度深呼吸してから、手首につけていた予備のゴムで髪を縛る。

髪を結び終えると、ふと左手を見つめた。

指先をゆっくりと開いて、何かを確かめるように。

その瞬間、マリアも同じように -自分の左手を見ていた。

銀の指輪が、照明の冷たい光を反射している。

さっき見た光とは、まるで違う。


「……冷たいわね。」

小さく、独り言のように。

「でも……さっきの光のほうが……ずっと……あたたかかった。」


なぜそんなことを思ったのか、自分でもわからない。

けれど胸の奥が、ほんの少し痛む。


マリアは拳をゆっくり握った。

指輪がかすかに軋む。

「……私の光は、もうここにはないのね。」


画面の中の十和が顔を上げる。

まるでマリアの言葉を聞いたかのように。


その目には、まだ消えていない“意志”があった。

その光がマリアの心を刺す。


「……その目、やめて。

 そんなふうに見られたら……私まで揺らぐじゃない。」


呼吸が浅くなり、

震える左手で自分の指輪を隠す。

けれど指の隙間からこぼれる光が、

今度はほんのりと温かく感じられた。


「……勇斗。あなたの指輪なのに……

 なんで、今になってこんなにあたたかいの?」


彼女の視線が、再びモニターの十和へと戻る。

「あなたが何を見てるのか、私にはわからない。

 でも……その光だけは……どうしても、目を離せないの。」


モニターの光が揺れ、

マリアの頬に一筋の涙を照らした。

それは冷たさではなく、わずかな温もりを帯びた涙だった。

霧がゆっくりと部屋に広がり、モニターの映像を覆った。

十和の姿は視界から消え、光の粒も霞んでしまう。

マリアは息をつき、モニターから目を離した。

胸の奥のわずかな熱が、冷めていくのを感じる。

沈黙の中で、彼女の指先がワインのグラスに触れた。


マリアはグラスを取らず、

静かに立ち上がった。


「……リヴァイ。」


扉の向こうで、すぐに足音がした。


「行くわ。地下へ。」


リヴァイが頷く。

二人は月明かりの廊下を、

沈黙のまま歩き出した。


その背後、机の上に置かれたグラスの中で、

赤いワインがわずかに揺れた。

まるで、マリアの心の奥の波紋を映すように。




湿った空気が肌にまとわりつく。

コンクリートの壁を、十和は慎重に伝っていく。

階段を下るたび、金属の軋む音が耳に刺さった。


懐中電灯の明かりが、一瞬だけ壁の十字架を照らす。

その下に――鉄の扉があった。


「……ここか。」


息を殺してノブを回す。

錆びた音と共に、扉がわずかに開いた。


中は薄暗く、ほとんど物音がない。

だが、空気が違った。

人の気配。

生きている、呼吸の気配。


「……音華ちゃん?」


十和の声が震える。

返事はない。

だが、奥のベッドにかすかな動き。


光を向けると、

そこに――音華がいた。


両手は軽く縛られたまま、

眠っているように横たわっている。


「……よかった……!」


十和は駆け寄り、

膝をついて縄を外した。

その手が触れた瞬間、

音華のまぶたがゆっくりと動いた。


「……十和、ちゃん……?」


掠れた声。

それでも確かに、十和の名を呼んでいる。


「音華ちゃん、大丈夫……? 

遅くなってごめん。怪我は?」


音華は首を振った。

涙が、こぼれそうに光った。


「夢だと思ってた……でも、ほんとに来てくれたんだね……」


十和は微笑む。

そして途中で見つけたカイロを包んだローブを音華の肩にかけた。


「これを着て。外は冷える。」


「……十和ちゃんは?」


「私は平気。……行こう。」


音華の腕を支えて立ち上がる。

その瞬間――


「――待て。」


背後から、低い声が響いた。


音華が息を飲む。

十和の全身が、瞬時に強張る。

ー振り向くな。

本能はそう命じる。

でも、ここを抜けなければ助かる道は無い。



背中を震わせながら、ゆっくりと振り向く。

そこには、

黒いローブに身を包んだ“先輩”が立っていた。


髪が伸びて肩までかかっている、

目に憧れた光はほとんど残っていないー

それでもまだ面影は残っていた



「……先輩……?」


震える声が、空気を揺らした。

リヴァイは答えない。

ただ、その表情に一瞬だけ迷いが浮かんだ。


その背後に、

静かにマリアが現れる。


「まだ生きていたのね、十和。」


その声音は、微笑の形をしていた。

だがその奥には、燃えるような嫉妬が隠れていた。


その手が、リモコンのスイッチを握る。


「リヴァイは……私の光。

 彼を壊したのは、あなたのせい。」


十和は動かない。

いや、動けなかった。

それでも、彼女の声はぶれなかった。


「違う。縛ることは愛じゃないよ、マリア、」 

マリアの眉がわずかに動いた。

ーまだだ、時間を稼げー


「…信じること、それが愛。そのきっかけを勝手に他者が壊すことを私は…許さない。」


その瞬間、

リヴァイの瞳が小さく揺れた。


「―春木……?」


かすれた声。

マリアが息をのむ。


十和は一歩、前へ出た。


「先輩、聞こえますか。」


マリアが叫ぶ。


「やめてッ!!」



サイレンが鳴り響いた。

警報灯が赤く点滅する。


「……! 警察……!?」


マリアが驚いたように顔を上げる。

十和の口角が少し上がる。


ー間に合った!


「……この、小娘が……!」


マリアの手が震える。

スイッチに指がかかる、その瞬間――


「――春木、逃げろ!!」


リヴァイが叫んだ。


マリアの腕を掴み、スイッチを逸らす。

十和は音華を抱えて階段を走り出す。


「先輩―!!」


その叫びの直後、

地下全体が白く弾けた。


爆音。

風圧。

光。

世界が崩壊していく。



---


瓦礫の中。

耳鳴りだけが、世界を満たしていた。


「……音華ちゃん……っ!」


十和は震える腕で瓦礫をどけ、

音華の身体を引き寄せた。

かすかに息をしている。

血は出ていない。


「よかった……生きてる……」


崩れた天井の隙間から、

夜の光が薄く差し込んでいた。


マリアとリヴァイの姿は、どこにもなかった。

瓦礫の向こうには、崩れた鉄扉だけが残る。


十和は唇を噛み、

強く拳を握る。


「……終わりじゃない。

 まだ……先輩を取り戻す。」


瓦礫の隙間から吹き込む風が、

彼女のローブを揺らした。

その布は焦げ、灰色に染まっていたが――

その目の光だけは、消えていなかった。



---




同時刻。

別室のモニター。


煙とノイズの中で、

画面には十和と音華の姿が、かろうじて映っていた。


マリアは無言で見つめていた。

傷ついた手を握りしめながら。


「結局……壊れなかったのね、十和。」


彼女の声は、驚きでも怒りでもない。

ただ、深い理解に似たものが混ざっていた。


「恐怖も、喪失も、絶望も――

 全部、抱きしめて、それでも立つ。

 だからあの子は、光を見続けられる。」


画面の中の十和が、

崩れた瓦礫の中で誰かの手を掴んで立ち上がる。


マリアは目を細めた。


「……私は、違う。

 私は……リヴァイがいなきゃ、立てないの。」


静かに立ち上がり、

モニターの電源を切る。

画面が暗転し、

部屋には、月明かりだけが残った。


「……彼が光なら、私は影でいい。」


その言葉を残し、

マリアはゆっくりと部屋を出ていった。


扉が閉まる音が、

夜の廊下に溶けていく。


そして、誰もいなくなったモニターには――

ノイズの奥から、微かに“声”が残った。


『――先輩……見つけるから。』


十和の声。

それは、まだ消えていない灯火だった。





霧から解放された光がまた霧に眠るー次回第7話、星の瞬き

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