Wishing you were somehow here again
星は、まだ消えていない――。
この物語は、作者が「こんな子と友だちになれたら」と思って書きました。
子供の頃に夢を諦めかけた人、そして今も何かに立ち向かっている人たちへ。
主人公の十和と一緒に、霧の中を進み、”北”を探す旅へ出てください。
迷っても、立ち止まっても、北は必ず教えてくれる――。
彼女が最後に見つけるものを、あなたもいつか手にできますように――。
※ AIによる補助で制作した作品です。
第5話、真実の先に待ち受ける未来とはー
暗い部屋。
モニターだけが光を放ち、沈黙が広がる。
音華の顔が青白く染まる。
画面の向こうに漂う霧――その中央に、十和がいた。
「……十和ちゃん……?」
音華の声は、誰に届くこともなく空気に溶ける。
十和は座り込んでいた。前髪で表情は見えない。
けれどそれ以上に、心の奥の何かが削られていくのが伝わった。
「どうして、こんなことに……」
その時、画面の端にマリアが姿を現した。
白いドレスをまとい、まるで聖女のような微笑を浮かべて。
『やっと“二人”を分ける時が来たのね。』
「……マリア……!」
音華の手が無意識に拳を作る。
けれどガラス越しの彼女には、届かない。
十和が顔を上げた。
その瞳に、まだわずかに“意志の光”が残っている。
「……やっぱり…“私”が…狙いだったの……?」
『そう、あなたが邪魔だから。
私の大切な人に影を落としているから。
音華はただの囮、傷一つつけていないわ』
「やめて……十和ちゃんはそんなの関係ない!」
『あなたを監視していたけど、洗脳よりこっちの方が良いみたい。』
『見なさい。あなたが信じた人が、どう“利用”されたのか。』
その言葉の直後 -画面が切り替わった。
十和の前に、映像が投影される。
十和がよく話していた”先輩”だ。
だがすぐに、その表情が冷たい機械のように変わっていく。
「や……めて……!」
十和の声が震える。
「違う……そんなはずない……!」
「マリアっ!!」
音華が叫ぶ。拳でモニターを叩く。
でも、ただノイズが走るだけだった。
マリアが十和の肩に手を置く。
十和の背中が小さく震えた。
その指先は優しげに、しかし冷たく首筋をなぞる。
『あなたの“信じる力”が一番美しいの。
だからこそ、それが壊れる瞬間を見たいのよ。
知ってる? ―人が壊れていく過程ほど、美しいものはないの。』
十和の表情が崩れた。
呼吸が乱れ、声にならない声が喉を掠める。
「……音華……。ごめん……。守れなかった……」
「十和ちゃん! やめて、そんなこと言わないで!」
でも音華の声は、もう届かない。
十和の瞳から光が消えていく。
それは、強く優しい人ほど壊れやすいという、残酷な真実。
マリアが小さく息を吐く。
『綺麗……。』
ヒールの音が遠ざかるたび、音華の心拍が痛みと一緒に鳴った。
「……十和ちゃん……」
画面の中で、十和の唇が微かに動く。
「……もう……いらない……」
音華の世界が崩れた。
膝をつき、止まらない涙が床に落ちて音を立てる。
「違う……そんなの十和ちゃんじゃない……!」
モニターの明かりが消える瞬間、音華は震える手を胸に当てた。
「お願い……戻ってきてよ……
私、まだ十和ちゃんと一緒にいたい。
何度だって、立ち上がれるって知ってる。
だから――帰ってきて」
無音。
世界が息を潜める。
その祈りは、誰も気づかなかったが、
かすかに残ったノイズの中で、
十和の瞳の奥に一瞬だけ光を取り戻させた。
霧の中。
指先が、―わずかに動いた。
―――――――――――
どれくらいの時間が経ったのだろう。
誰かの声がした。
「戻ってきて」って。
心が押し潰されそうな暗闇の中、十和はかすれた声を漏らす。
「……音華ちゃん……先輩……助けられなくてごめん…なさい……」
涙で視界が揺れ、手足の力もない。
体が呼吸することを拒否している。
そのとき―霧の向こうから、足音が響く。
柔らかく、けれど確かなリズム。
1人の少女の輪郭が浮かび上がる。
髪を後ろで束ね、制服のリボンが風に揺れている。
高校時代の十和―。
差別も後悔も知らず、真っ直ぐに誰かを信じていた頃の、自分。
過去に置いてきた自分。今1番会いたくない。
「……負けないで」
静かな声。けれど、その言葉は鋭く心を貫いた。
十和は震えながら顔を上げる。
「無理だよ……もう何も残ってない……
守りたかったもの、全部……
私に生きている意味なんて無……」
若い十和が駆け寄り、勢いそのままに抱きしめた。
「やめてよ……二度とそんなこと言わないで!」
その声は震えていた。怒鳴るようで、泣き出すようで。
痛いほどに温かかった。
「…私ね、怖かったよ。泣いて、逃げたくて、何度も諦めかけた。
でも、それでも立ち向かったし、負けなかった。
“未来のあなた”のために!」
涙の音が、霧の中に落ちていく。
「あなたがここで諦めたら、何のために私は努力したの?
お願い、立ってよ……生きてよ……!」
「……でも、私がいなくなったって……」
「違う!!」
声が裂けるほどに叫ぶ。
若い十和の目は涙で濡れ、けれどそれが逆に奥の光を輝かせていた。
「私のことを一番理解している“あなた”が、私を否定しないで!」
…静寂。世界から音が消えた。
十和の涙が一瞬止まる。
その手が頬を包む。
指先が―怒りでも悲しみでもない、
―愛しさに震えていた。
「…いいんだよ、ボロボロでも。
それでも人を想う……それがあなた。
あの日からずっと、私は信じてる!」
十和の目から、堰を切ったように涙があふれる。
「……どうして、そんなに……」
「だって、大好きだから。
私が憧れた未来をあなたが生きてくれているから。」
―そうだ、あのとき決めたんだ。
大好きな人たちには辛い思いをさせないって。
私が守る。
だから、科捜研を選んだ。
守りたいものが増えていくのが、幸せだった。
「音華ちゃん……」
中学生の時からずっと一緒。
大学は違ったけど、今でも月に一度は会っている。
大学生の頃、美術館に一緒に行ったとき、
展示品を大学で学んだ知識で解説してくれた。
音華ちゃんも、夢を掴んでるんだなって分かって嬉しかった。
このキラキラした時間が、たくさんの人に届いて欲しいって思った。
若い十和は微笑む。
その笑顔は、飛行機雲のようにまっすぐだった。
「どんなに打ちひしがれてもいい。
だけど、諦めることは絶対に許さない。」
十和は泣きながら、ゆっくりと頷いた。
右ポケットの中に手を伸ばす。
そこにあった小さな金属の感触 -先輩からもらったコンパス。
「先輩……」
初めて会ったとき、今まで見たことのないぐらい、澄み切った目だと思った。
何かを断ち切るようにまっすぐで、誰かを責めることも、逃げることもしない。
その冷静さが、少し怖いほどに美しくて。
気づいたら、自分もそうなりたいって思っていた。
「……人って、どこまで自分でいられるんでしょうね」
ある日、ふと聞いてみた。
先輩は少し驚いた顔をして、それから笑った。
「どうした、そんな哲学的なこと考えるなんて珍しいな」
「答えを見つけられないんですよ。
でももし、自分が自分でいられなくなっても……
それでも“誰かを守りたい”って気持ちは、消えないと思いたい。」
「春木なら……消えないさ。」
その声が、今も耳の奥で響く。
はっきりとした答えじゃなかった。
けれど、その一言が、どんな理屈よりも強く私を支えた。
ー思い出した。
それで、先輩はコンパスをくれたんだ。
“答えが出ないときは、ー北を探せばいい”
―先輩らしい答えだった。
嬉しかった。自分に向き合ってくれたことが。
本当は、先輩に持っていて欲しかった。
その日の先輩の目は少し赤くて、どこか遠くに行ってしまいそうだったから。
でも先輩は、
「もう俺は、北を見つけたから」
と笑った。
言葉を信じた。
だから先輩がいなくなっても、ここまで来れた。
―先輩、コンパスが助けてくれたよ。
壊れそうだった心を、もう一度、立たせてくれました。
「私、守られてばっかりだ……」
“答えが出ないときは北を探せばいい”
その声が、頭の中で優しく響く。
震える手でコンパスを握りしめる。
針が微かに震え、北を指す。
「壊れてなかった……動いてる」
「うん。あなたはまだ動ける。」
若い十和が微笑み、もう一度抱きしめた。
「もう大丈夫。あなたならできる。
私の“希望”は、今もここにあるんだから。
私の夢を叶えてくれてありがとう。頑張って。」
十和は深く息を吸う。
涙が、少しだけ温かい。
「……うん。私、行くね。」
霧がゆっくりと晴れていく。
手の中のコンパスが、北を示して止まる。
その先には、まだ見ぬ光が滲んでいた。
もう一度深呼吸してから、手首につけていた予備のゴムで髪を縛る。
昔から、集中したいときはいつもこのスタイルだ。
やっぱり、“これ”が安心する。
ー助けを待ってる人がいる。
左手を目の上にかかげてみる。
深爪ぎみの何の跡もない手がそこにはあった。
ー先輩の左手の指輪。確かめたいんだ。
洗脳で付けさせられているのか、自分の意思でつけているのか―。
「私が――音華ちゃんを、先輩を、守るんだ。」
若い十和は、泣きながら笑った。
「そう、それが“私たち”の答え。みんな待ってるよ。」
白い霧が完全に晴れ、一筋の光が部屋を照らしたとき、
そこにいたのは、もう“過去”ではなく“今”の十和だった。
縛った髪がどこからか吹いた風になびく。
“信じ続ける理由は、ー他者に壊されるものではない。”
―それだけは、絶対に手放さない。
傷だらけでも、瞳はまっすぐに未来を見つめていた。
立ち上がっても受け入れなけばならない真実は残っているー
次回、第6話 駆け上がる




