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聖域ー星を探してー  作者: 風橋凪十


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4/8

The point of no return

星は、まだ消えていない――。


この物語は、作者が「こんな子と友だちになれたら」と思って書きました。

子供の頃に夢を諦めかけた人、そして今も何かに立ち向かっている人たちへ。

主人公の十和と一緒に、霧の中を進み、”北”を探す旅へ出てください。

迷っても、立ち止まっても、北は必ず教えてくれる――。

彼女が最後に見つけるものを、あなたもいつか手にできますように――。

※ AIによる補助で制作した作品です。


第4話 The point of no return

もう戻れない場所で知る―― “真実”とは。

ー他よりも空気が澄んでいる所。


指定の場所、“水宮の間”は潜入調査が始まってから何度も訪れた。

信徒が自由に出入りすることができる広場のようなところだ。

中央にある噴水の水面の揺らぎが天井に反射して、

白い光の模様は万華鏡のように変化する。

ただ、一日中眺めていても飽きることがないその美しさの底に、

“何か”が潜んでいる気がしてならなかった。

噂話が絶えないが、音華の家宅捜索の際に発見した内部資料と合致する内容、

施設の構造や曜日ごとの礼拝などのスケジュールを聞くこともできた。


特に重要なのはー“食事”だ。

信徒は通常、食堂で一斉に食事する。

ただし、怪我や病気をしている者、教えに背いた者は別棟に隔離されていて参加できない。

もしかしたら音華もそこにいるかもしれない。

“運搬係”になれれば接近できる。

そのためにもここを乗り越えなければ…


調査の中で、どんなに注意深くしても十分に掴めなかったことがある。

“リヴァイ”に関連する情報。

数年前から黒いフードの人物が常にマリアの側に待機するようになったらしい。

ただし誰もその素顔を知らない。

彼を見た者は口を閉ざし、「マリア様のお気に入り」とだけ言う。

“愛人”だという噂もあった。

ただ、リヴァイが確実にいなかった時期と比較すると、

今の組織は明らかに潤っている。


浄化室―洗脳機器があると予想される部屋は確か地下にある。

水宮の間とは違う。

私に洗脳はしないということなのか、マリアの目的が掴めない。

あり得る可能性を全て検証しながら向かう。


水宮の間という“空間”に入ったその瞬間、

ドアが重く閉まる音が静寂を切り裂いた。

無かった、今までも、さっき一度下見に来たときにも。

白い霧が床を這う。

(……麻酔……!)

咄嗟にローブで口と鼻を覆うが、もう手遅れだった。

肺の奥まで白い霧が染みていく。

呼吸は浅く、胸の奥が鉛のように重くなる。

(…できるだけ高いところへ移動しろ…)

意識の抵抗も虚しく、どんどん手足の感覚も鈍くなる。

まるで身体が自分のものではないかのように思える。

壁に手をつくと、視界がゆっくりと傾いていく。

意識が深い水の底に沈んでいくようだ。


自分の鼓動だけが遠くで響く。


水音が遠のく。


耳の奥で、心臓の鼓動だけが響く。


光が滲み、視界がほどけていく。

誰かが名前を呼んでいるような気がしたけれど、

それが自分の幻聴なのか、もう分からない。

まぶたを開けるのも精一杯だった。


視界の端が白く滲む中、人影が鮮明に見えた。

「初めまして、十和。やっと会えたわね」

その声は穏やかで、優しさを帯びている。

けれど、その奥底は冷たい。


「……やっぱり…“私”が…狙いだったの……?」


青薔薇事件が終わってしばらくしてから、薄々おかしいと思っていた。

頻繁にポストに白紙が入っていたり、科捜研からの帰り道に人の気配を感じたりするようになった。

それだけでは確信が持てなかったが、決定的だったのは音華の失踪だ。

潜入に志願したのも、これ以上仲間に迷惑をかけられたくなかったからだ。


「そうよ。あなたが邪魔だから。

 私の大切な人の記憶に、あなたが居座っている。

 それだけで、私の世界は濁るの」

マリアが一歩近づき、十和の頬に手を伸ばす。

白く細い指先が肌に触れるたび、体の奥の何かが削ぎ落とされていく。

心臓がぎゅっと締め付けられるような感覚。

息を整えようとしても、麻酔のせいでわずかにしか吸い込めない。

ガスが喉を締めつけ、声が途切れる。

「……音華ちゃん……先輩……」

胸の奥に、かすかな温もりが残っている。

守りたい―そう思える存在がまだいる。


その微かな光を読み取るように、マリアの瞳が細められる。

「音華? あの子なら……安心しなさい。囮としては、とてもよく働いてくれたわ」

十和の瞳が揺れた。

「……おと……か……」

「ええ。彼女は無事よ。少なくとも“今は”ね」


その言葉に、ほんの一瞬だけ、十和の顔に安堵の色が差した。

マリアはそれを見て、口元に小さな笑みを浮かべる。

「本当に……可哀想な子。

 そんな一縷の希望に、まだすがってしまうなんて。」


マリアが手をかざす。

『あなたを監視していたけど、洗脳よりこっちの方が良いみたい。』

(この子、想定していたよりも強いからー)


壁一面のモニターが光を放ち、映像が流れ出す。

白い照明の下、誰かが無機質な装置に拘束されている。

電子音が低く鳴り、彼のこめかみには電極が刺さっていた。

髪型、切れ長の目、手の形―間違いない、“先輩”だ。

その瞳はまだ、人間の光を失っていない。

見た瞬間、呼吸が止まった。

(落ち着け、本物なのかよく考えろ…)

偽物だと信じたい、思い込みたい。

胸の奥で、何かが弾ける音がした。

それが身体的なものか心理的なものなのか、自分でも分からなかった。

十和は叫ぼうとするが、喉は声を拒絶する。

ガスのせいで、呼吸すら満足にできない。

体が鉛のように重く、手足は思うように動かない。

マリアは画面の前に立ち、十和を見下ろすように言った。

「見なさい。あなたの信じた人が、どう“利用”されたのか。」


電子音が一段と強く鳴り、先輩の体が震える。

「……や……め……ろ……っ」

「私を見なさい、リヴァイ。」

モニター越しに照らされたその横顔は、まるで本物の聖母のように穏やかで―

けれど、そこに宿る愛は救いではない。

マリアの声が、画面越しに静かに届く。

リヴァイ、レヴィアタン―嫉妬の神の名前。

先輩の瞳が、徐々に濁っていく。

まぶたの奥で光が砕け、瞳孔が開き―

その瞬間、マリアが囁いた。

「大丈夫? リヴァイ?」

「……マリア……愛してる……」


(自分には何も出来ないのか…!)

「……っ」

離したくなかった手がどんどん遠ざかっていく。

信じた人が、信仰の下敷きになる。

それは死よりも残酷な“終焉”だった。

今はただ、映像を眺めることしかできない。


画面には“リヴァイ”としてマリアの命令を忠実に実行する姿が映る。

リヴァイの手がマリアの頬を撫でた瞬間、

十和の視線が吸い寄せられるようにその指へと向かった。

ー左手の薬指に、金属の輪が光った。

目の前に立っているマリアと同じデザインの指輪がはっきりと映っていた。

金属の冷たい光が、二人の“結びつき”を無言で示していた。

「……まさか……」


思わず息が止まる。


胸の奥で、何かが崩れる音がした。

リヴァイの手がわずかに動く。

十和には、命令に従うだけの、死んだ手にしか見えなかった。

送別会のとき、指輪のないその手と握手した記憶が蘇る―。

僅かな温もりだけが、胸の奥でまだ脈打っていた。


しかし、指輪の輝きは生きて、全てを語る。


十和の視界が揺れる。

眼の奥で熱いものが広がり、頭の中で何も考えられなくなる。

声は出ない。

執務室のテーブルには数々の事件の計画書が置いてあり、

その中には見覚えのあるものがあった。

薬物の成分の化学式。

青い薔薇が書類の裏に印刷されている。


1秒でも早く犯行手口を明かしたくて、何日も徹夜で閉じこもった研究室の薬品の匂い―


這いつくばって残留物を探した建物の湿ったアスファルトの感触―


「嘘だ…」

「そうよ。あなたたちが青薔薇事件と呼んでいるのは、リヴァイ、“先輩”の計画よ。」

彼女の言葉に“確証”は無い。

でも否定する力がない。

「リヴァイを手にしてから、

 私は血眼であなたを探した。

 けれどなかなか見つけられなかった。

 でもこの事件、あなたがかなり解決に貢献したそうじゃない。

 もっと時間がかかると思っていたけど、さすがね。

 まあ、“私たち”の関与までは…見破れなかったみたいだけど。」

マリアはわずかに笑い、画面を指先で撫でる。

指先から伝わる温もりのような感覚が、傷を抉る。

視界が暗転する。


体が、音を立てて崩れた。


「……音華……ごめん……守れなかった……」


マリアはゆっくりと再び十和のもとへ歩み寄る。

ガスに侵された体は抵抗もできず、指先ひとつ動かせない。

マリアの指先が十和の髪に触れる。

「どれだけ自分を縛り付けてきたのかしら……

 もう良いのよ。自由になりなさい。

 あなたには何も残っていないのだから。」

その声は、優しすぎて、恐ろしかった。


細い指が、十和の髪を解く。

ヘアゴムが切れる音とともに全身の力が抜け、

ふわりと広がる黒髪が、光を失った頬を撫でる。

マリアの息がかすかに触れる距離で囁く。

「綺麗……。あなたの髪……こんなに柔らかいのね。

手入れすればもっと素晴らしくなるのに、もったいない。

ずっと結んでいたなんて。でも―私が直してあげる。」

十和の瞳は虚ろで、まばたきも遅い。

マリアはその髪をゆっくりと撫でながら、陶酔したように微笑む。

「これでいいの。あなたはもう“おしまい”。」


物語の読み聞かせを終えた母親のように、

マリアは十和を抱き寄せる。

完全に力の抜けた身体を、腕の中で優しく支える。

その瞳の奥では、確かな勝利の光が揺れていた。


「あなたの“信じる力”が一番美しいの。

 だからこそ、それが壊れる瞬間を見たいのよ。

 知ってる? ―人が壊れていく過程ほど、美しいものはないの。」

マリアは静かに目を閉じる。

瞳の中の何かを隠すように。


「あなたも…ひとりなの……もう……いらない……」

十和の唇が、かすかに動く。

最後の力を絞り切るかのように。


一瞬感じた安らぎを切り裂くために。


マリアはその顔を静かに見下ろし、最後に髪を撫でつけた。

『どうしてそこまで人を信じられるの…?』

「おやすみなさい、十和。光の中へようこそ。」

白い霧が静かに満ちて照明の光を覆う。

世界から音が消える。

呼吸も、痛みも、もう何も感じない。

―ただ、時間が流れる。


「…やっと“リヴァイ”は私のもの」


その“部屋”には、マリアのヒールの音だけが響いた。

その音も聞こえなくなった。

ーもう、戻れない、真実を知る前には。


動き出したはずの聖堂の掛け時計の針が、―止まった。



―信じるということ。

壊れるほどの痛みを抱えても、立ち向かわなければならない“真実”がある。

静寂の奥で、心はまだ灯りを探し続けられるのか。


―次の夜明けへ。


次回、第5話 Wishing you were somehow here again


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