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聖域ー星を探してー  作者: 風橋凪十


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3/8

霧の中へ

星は、まだ消えていない―。


この物語は、作者が「こんな子と友だちになれたら」と思って書きました。

子供の頃に夢を諦めかけた人、そして今も何かに立ち向かっている人たちへ。

主人公の十和と一緒に、霧の中を進み、”北”を探す旅へ出てください。

迷っても、立ち止まっても、北は必ず教えてくれる―。

彼女が最後に見つけるものを、あなたもいつか手にできますように―。

※ AIによる補助で制作した作品です。


十和は一体、何を見つけるのか、潜入開始。第3話、霧の中へー。

庁舎の一室、厚いカーテンで光が遮られた会議室。

上層部の幹部たちが円卓を囲み、重苦しい空気が漂っていた。

「春木十和に〈サンクチュアリィ〉潜入任務を……?」

年配の幹部が眉をひそめ、紙資料を軽く叩く。

「小日向音華さんの失踪、さらに3年前の横浜勇斗氏の不可解な失踪の関連が明らかになった今、我々に必要なのは、検挙につながる現場の科学的証拠の獲得。法科学担当の春木ほどの適任はいません」

「しかし危険すぎるだろう……本当に彼女を?」

沈黙が広がる。勇斗のことを思い浮かべる誰もが、口を閉ざす。

「私も反対だ」

警部は低く声を落とす。

「普通では考えられない。外部職員が組織の深部に潜入するなんて。横浜の件で学んだだろう…もうこれ以上犠牲を出したくない」

「なぜ彼女を推薦するのか、説明します」

幹部の一人が資料を前に置き、静かに話し始める。

「昨年の『青薔薇事件』をご記憶でしょうか。密輸組織が化学薬品を用いた偽造薬物を県内各所に流通させ、多数の被害者を出した事件です。警察だけでは物証が揃わず、現場は混乱を極めていました」

「春木は現場に入り、微量残留物を徹底的に解析。わずかな化学反応の痕跡から、使用薬品の組成と製造手順を割り出しました。その情報により、警察は現場を特定、組織の拠点を一網打尽にすることができたのです」

「さらに重要なのは、彼女が分析結果をもとに作成した化学報告書が、法廷で決定的証拠となった点です。彼女の正確な分析と冷静な証言がなければ、あの組織の首謀者は裁かれなかったでしょう」

警部は深く息をつき、口元に手を当てる。

「春木は、ただの分析官ではない。現場での臨機応変な判断力、危機下での冷静さ、そして何より粘り強い。

だから、外部職員でありながらも潜入任務を任せたいのです」

会議室の空気が少し和らぎ、幹部たちは十和の能力を再認識する。

「本人も希望している。小日向音華の救出と、組織の内部資料確保-自分の手でやり遂げたいと」

「…では、正式に任務を告げることにする」

会議終了後、十和は直属の上司の部屋に呼ばれた。

「春木、入れ」

上司は資料を差し出し、慎重に言葉を選ぶ。

「今回の組織は麻薬密輸、資金洗浄、そして君も聞いていると思うが信者への洗脳行為を行っていると予想されている。君は法科学担当として、警察の現場権限は持たない。だが、君の能力と経験、そして青薔薇事件で見せた冷静さが評価され、任務に選ばれた」

十和は息を吸い、背筋を伸ばす。

「はい。音華…小日向さんの救出、証拠の確保。それが私の責務です」

上司は深く頷き、遠くを見る。回想が頭をよぎる。

-青薔薇事件の夜。現場で化学薬品の微量反応を特定し、本当にわずかな痕跡から犯行手順を導き出した春木。あの事件は彼女の努力の積み重ねが満遍なく発揮され解決に至ったと言っても過言では無い。

「……あの子ならやれる」

上司は自分に言い聞かせるように呟き、十和が庁舎を出ていくのを見送った。

「絶対に戻って来いよ、春木。」

十和の手には小型分析機材、ポケットには希望の欠片 -守りたい人たちへの思いがしっかりと握られていた。

庁舎を出た瞬間、秋の澄み切った空気が肺を満たす。

深呼吸を一度、二度-

「行ってきます。絶対に、戻ってきます」

そう心に誓い、十和は〈サンクチュアリィ〉潜入の第一歩を踏み出した。




静まり返った聖堂には、祈りの声が柔らかく反響していた。

十和は信徒たちに混じり、白いローブを纏って跪く。

祭壇の前では導師が静かに語りかけていた。

「ここでは誰も、あなたを否定しない。

 罪も、醜さも、弱さも、光に変わる。

 そう教えてくださったのが-教祖マリア様です。」

その名が口にされた瞬間、空気が変わった。

祈る者たちが息を合わせるように両手を掲げ、どこからともなく清らかな旋律が流れる。

姿を見た者はごく僅かだというのに、

“マリア”という名だけで、この場の温度と呼吸が支配されていくのがわかった。

(……見られている。)

十和は背筋を伸ばした。

視線の先には、監視カメラの死角も照明の影もないはずなのに、

まるでこの聖堂そのものが”監獄”であるかのような気配を感じる。

夜、与えられた部屋に戻ると、壁に備え付けられたスピーカーから声が流れた。

《あなたの痛みは、もう必要ないの。光が、あなたを導いてくれるわ-》

録音のはずなのに、その声は、耳元で囁かれているように近かった。

教祖マリアの声。

柔らかく、包み込むようでいて、奥底には冷ややかな支配の響きがある。

十和は日誌に簡単な記録を残す。

“音声洗脳の兆候あり。誘導文言は「罪」「浄化」「再生」”

ペンを置いた瞬間、ふと窓の外に気配を感じた。

薄闇の中、聖堂の塔が月を遮り、闇が揺れる。

そのとき-

(春木なら……残っているさ。)

“先輩”の声がした。

一度消えかけた記憶が、胸の奥で確かな灯をともす。


同じ頃、教祖マリアは執務室で、

信徒たちの報告を受けていた。

白磁のように透き通る肌に、夜を閉じ込めたような黒髪。

その髪は光を吸い込むほどに艶やかで、動くたびに静かな波を描く。

薄く血の気を帯びた唇が動くと、それだけで場の空気が震えた。

その美貌は、誰もが“神に選ばれた存在”と信じて疑わないほど、完璧だった。

「やっと来てくれたのね……“春木”…”十和”。」

マリアはその名を繰り返し、唇の端をゆっくりと上げた。

「リヴァイが、何度も夢の中で口にしていた名前。」

側に控える信徒が恐る恐る問う。

「処分されますか? 不法侵入の疑いをかければ-」

マリアは長い黒髪を指で軽く梳きながら、細い首を小さく振った。

「いいえ。……興味があるの。

 なぜ彼がこの子を記憶に残していたのか。

 彼は私の“光”であり、私だけのもの。

 それなのに、心の奥底で、この女の影がまだ(うごめ)いている。」

立ち上がったマリアは、

静かにモニターに映る十和の映像へと歩み寄る。

その瞳 - 取り込まれたら逃げられないような黒。

見たものが僅かでも場の空気が統一されるような説得力がある。

「すぐに壊すのは惜しいわ。

 この“聖域”では、心も魂も時間をかけて溶かしていくの。

 焦らず、ゆっくりと-ね。」

唇に指先を当て、甘く笑う。

その笑みの奥に、確かな敵意と嫉妬が潜んでいた。

白い頬に落ちた黒髪の陰が、宝石よりも輝いて見える。

「教えてちょうだい、十和。

 あなたがどんな“光”で彼を照らしたのか。

 そして―その光をどうすれば完全に消せるのかを。」

マリアの声が空気を撫でると、

部屋の奥で香が焚かれ、白煙がゆらりと漂った。

花の香りに混じって、どこか鉄のような冷たい匂いがする。

その夜から、十和の周囲に小さな歪みが生まれ始めた。

信徒たちの視線。繰り返される祈りの言葉。

夢と現実の境界が、少しずつ溶けていく。

マリアはそのすべてを、あの漆黒の瞳で見つめていた。

-十和という異物をゆっくりと“聖域”の中に沈めながら。


十和は深く息をついた。

ここまでの試練-幻の声、揺れる映像、思考を絡め取るような挑発-すべてを乗り越えた。

煩わしいものばかりだったが、自分がここへ来た目的を確かめつつ冷静さを取り戻した。それでも謎の多すぎる組織に1人で潜入しているという緊張感は消えなかった。

監視カメラの向こうにマリアの姿は映っていない。ただ、画面の端に映る静かな空間から、彼女の視線の重みを感じる。

「……ふふ、骨がある子」

声は聞こえない。が、十和にはその気配が伝わった。

確かに、マリアは楽しんでいる。まだ直接会うほどの興味はない。

本格的に弄ばれるのはもう少し後のようだ。


ある夜、部屋の机の上に白い封筒が置かれていた。

-とうとう来たのか。

焦る気持ちを抑えて封を切ると、柔らかい香りとともに薄い銀色の紙が一枚現れる。

部屋の蝋燭の炎が揺れる。

心拍が上がった。静かに。

「直接あなたに会いたいの。

 指定の場所へ。楽しみにしているわ-マリア」

十和は手紙を強く握りしめ、息を整える。

手汗がいつもより多い。

このときを待っていた-

でも来ないでほしいと願った自分がいたことも知っている。

もう自分ができる方法で徹底的に調べ尽くした。

音華の居場所も信徒の話から数箇所に絞り込んだ。

あとは、より地位が上の人物への接触しか方法がない。

後戻りすることはできない。

ーマリアに銀の手紙で呼び出された者は光に包まれるー

そう表現する信徒の話を何回聞いたことか。

間違いない。

“洗脳”される。

胸の奥で、守るべき存在を思い浮かべる。

その人たちとの幸せな時間を思い浮かべながら、ゆっくりと。

十和は覚悟を固めた。

耐えられる、私は負けない、信じてもらっているのだから。

「……行こう。もう、逃げられない。」

窓の外の夜風が頬を撫で、彼女の決意を静かに後押しするかのようだった。


マリアはモニター越しに十和を見つめ、静かに言葉を落とした。

「いらっしゃい。

 あなたの“覚悟”が本物なら、

 私の光の中で-確かめてあげるわ。」

画面に映る光が、彼女の瞳に淡く反射した。

言葉と同時に、聖堂の香が一斉に燃え上がる。

甘い白煙が渦を描き、

マリアの輪郭がゆっくりと霧に溶けていく。

最後に、かすかに残った声が夜へ滲む。

「春木十和-あなたを祝福する。

 そして-案内してあげる。」

ヒールの音が止まる。

 「光の底へ-ね。」

風だけが微かに笑っていた。





いよいよ教祖マリアとの初対面。

そこで明かされる“真実”とはー

次回、第4話The point of no returnー

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