壊れたコンパス
星は、まだ消えていない――。
この物語は、作者が「こんな子と友だちになれたら」と思って書きました。
子供の頃に夢を諦めかけた人、そして今も何かに立ち向かっている人たちへ。
主人公の十和と一緒に、霧の中を進み、”北”を探す旅へ出てください。
答えが見つからないときも、迷っても、立ち止まっても、北は必ず教えてくれる――。
彼女が最後に見つけるものを、あなたもいつか手にできますように――。
※ AIによる補助で制作した作品です。
タイムトラベルができたらどこへ行きたいか―春木十和は迷わず、高校時代と答える。当時の自分を静かに抱きしめたいと。
高校時代は鏡で自分の顔を見るのが苦痛だった。直しようのない外見の醜さを、毎朝、目に焼き付けられるようにして受け止めなければならなかったからだ。今でもヘアバンドで長い前髪を後ろに追いやると、胸の奥に苦い記憶がざわめき、胸がぎゅっと締め付けられる。
不釣り合いだ。わざわざ他人の口から言われなくても、そんなことは自分が一番よく分かっていた。
好きだった人が、周囲に流され、あっさりと別の女子と付き合いだしたとき、胸の奥がひりつくように痛んだ。目の奥が熱くなり、まるで全身の血が一瞬逆流したかのように悔しさとやるせなさが押し寄せる。それでも震える手を握りしめ、十和は悟った―たかが高校生ごときの恋愛は、自分が思っていたよりも幼いものであることを。輝いて見えた相手も、ただ周囲に流されただけの存在に過ぎなかったのだ。
何度も喉の奥で呑み込まれ、やり場がなくなったその痛みや怒りは原動力とした。涙をこらえ、指先に力を込める。十和は公平に判断されるもの―勉強や努力の成果に全てを注ぐことを選んだ。利き手には、その時のペンだこが今も残っている。恋愛は、自分には与えられないものだと信じた。愛を求める気持ちはあった。けれど、それを受け取る資格は自分にはないと、いつしか心に言い聞かせていた。
人間の言動は喜怒哀楽のコンパスの向きに影響を受けて、外に向けられたり内にそっとしまい込んだりされるのだと思う。いつの間にか、十和のコンパスの「怒」は外側を向かなくなり、愛の位置も曖昧になっていた。人の好意も素直に受け取れずぎこちなく背を向けてしまうようになった。それでもそのコンパスは、大切な人たちのために使いたいと強く願う。いつか家族や友人以外から向けてほしい胸の奥に残る温もりや木漏れ日を抑え、今はただ前を向いて進むしかないのだ。
それが、愛を受け取るための準備であり、未来の自分への小さな架け橋であることを、十和はまだ知らない。
そして―その架け橋をお気に入りの歌を口ずさみながら渡る時は、思ったよりずっと早く訪れることになるのだ。
目を開けると、カーテン越しに午後の光が差し込んでいた。
机の上には、事件資料のファイルと、飲みかけのコーヒー。
デジタル時計は、13時47分を指している。
「……また考えごとしてたな」
春木十和、28歳。
県警科学捜査研究所―いわゆる「科捜研」で、法科学分析を担当している。
日々向き合うのは、顕微鏡の下に並ぶ繊維片やDNAサンプル。
感情よりも事実、印象よりも証拠。
誰よりも“公平な判断”を下す場所に、今の十和はいる。
静かで正確な仕事は、性に合っていると思う。
あの頃、必死で求めた「努力が報われる場所」に、ようやく辿り着けた気がしていた。
けれど、ときどき―顕微鏡のレンズに映る自分の目と、ふと視線が合う瞬間がある。
そこに映るのは、過去の十和が置き去りにした何か。
もう触れてはいけないはずの“痛み”が、まだかすかに呼吸していた。
ご覧いただきありがとうございます!
第1話では皆さんと一緒に旅に出る十和が、道標になれるよう気を引き締めて丁寧に書きました。
第2話では新しい登場人物とともに、止まっていた時計の針が動き出します。
どうぞお楽しみに!




