第三十二話:壊れた癒やし
僕は、鍵のかかった部室の中で、ただ、なすすべもなく、その絶望的な事実を突きつけられることしかできなかった。
僕の唯一の癒やしだと思っていた存在。
その彼女が、僕が今まで出会った誰よりも、深く、そして歪んだ欲望を、その内に隠し持っていたなんて。
目の前が、真っ暗になるようだった。
「――あたしの相手も、できるよね?」
その言葉は、懇願でも、問いかけでもなかった。
断ることを許さない、絶対的な命令。
ナツさんの指が、僕のシャツのボタンを、一つ、また一つと外していく。
僕は、抵抗できなかった。
もう、どうでもよかった。
アオイ先輩に、ミサキ先輩に、ほむら先輩に、そして、ナツさんにも。
僕の意思なんて、どこにもない。
僕は、ただ、彼女たちの欲望を受け入れるだけの、存在なんだ。
僕が、諦めて、すべてを受け入れようとした、その時だった。
『……意外と、ビッチだったんだ』
彼女の言葉が、脳内でリフレインする。
ビッチ?僕が?
違う。
違うだろ。
僕をこんな風にしたのは、あんたたちじゃないか。
僕の平穏を奪って、めちゃくちゃにして、好き勝手しておいて、その言い草はないだろ。
ぷつり、と。
僕の中で、何かが切れる音がした。
絶望が、一周して、冷たい怒りに変わる。
もう、やだ。
もう、流されるのは、終わりにしよう。
「……高木君?」
僕の目の色が変わったことに気づいたのか、ナツさんが、不思議そうに顔を上げた。
僕は、彼女の手を、乱暴に掴んだ。
「え……?」
予想外の抵抗に、ナツさんの瞳が、戸惑いに揺れる。
僕は、その手を振り払うと、逆に彼女の腕を掴み、壁際の本棚へと押し付けた。
ドン、と大きな音がして、本棚から数冊の漫画が床に落ちる。
「きゃっ……!?」
突然のことに、ナツさんは驚きの声を上げた。
でも、その目には恐怖ではなく、信じられないものを見るような、好奇の色が浮かんでいた。
「……相手してほしいんですよね?」
僕の声は、自分でも驚くほど低く、冷たかった。
僕は、彼女の耳元で、囁くように言った。
「――してやりますよ、ナツが、満足するまで」




