表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/38

第二十九話:勝者と、新たな呼び名

濃厚なキスが終わっても、鴻上先輩は僕を離さなかった。

僕たちは、二人の先輩に見せつけるように、しばらくの間、ゼロ距離で見つめ合う。

その視線に耐えられなくなったのは、アオイ先輩が先だった。


「……っ」


彼女は、何かを言おうとして、でも言葉にならず、ただ悔しそうに唇を噛み締めた。

そして、僕と鴻上先輩の顔を一度だけ強く睨みつけると、踵を返し、逃げるようにバーから出て行ってしまった。

カラン、とドアベルが、やけに悲しく響く。


残されたミサキ先輩は、そんなアオイ先輩の後ろ姿と、僕たちを交互に見比べた後、面白そうに、ふっと息を吐いた。

「……へえ。あんたの勝ち、みたいだね」

その言葉は、鴻上先輩に向けられていた。

でも、その視線は、僕から逸らされない。


「まあ、今日のところは、退いてあげる。……でも、これで終わりだなんて思わないでよね、ハルキ君」

捨て台詞を残し、ミサキ先輩もアオイ先輩の後を追うように、店から出て行った。

嵐は、過ぎ去った。

後に残されたのは、僕と鴻上先輩。

そして、さっきまでの喧騒が嘘のような、静寂だった。


「……ふぅ」

鴻上先輩は、僕からゆっくりと身体を離すと、満足そうに一つ、息を吐いた。

「ま、こんなもんでしょ」

その顔には、勝利の女神のような、不敵な笑みが浮かんでいた。

僕は、まだ心臓が大きく音を立てているのを感じながら、呆然と立ち尽くす。


「……あんた、なかなかやるじゃん」

「え?」

「さっきのキス。悪くなかった」

先輩は、僕の唇を、自分の指でそっとなぞる。

その仕草に、僕の顔が熱くなるのが分かった。


「……ご褒美、あげなきゃね」

その言葉に、僕はびくりと身体を震わせる。

昨夜の記憶が、鮮明に蘇った。

先輩は、そんな僕の反応を見て、くすくすと楽しそうに笑う。


「……その前にさ」

彼女は、僕の目をじっと見つめて、言った。

「恋人のふり、するんでしょ?だったら、いつまでも名字で呼ぶの、おかしくない?」

「あ……」

確かに、そうだ。

「あたしは、あんたのこと、『ハル』って呼ぶから」

「ハル……」

「あんたは?あたしのこと、なんて呼ぶ?」

その問いかけに、僕は少しだけ、迷った。

そして、意を決して、その名前を口にする。


「……ほむら、先輩」

「んー、まあ、及Dai点かな。本当は、呼び捨てにしてほしいけど」

先輩は、少しだけ不満そうに、でも、嬉しそうに目を細めた。

僕たちの間に、新しい空気が流れる。

それは、昨日までの、ただのバイト仲間としての空気とは、全く違う、甘くて、少しだけ危険な空気だった。


「……ねえ、ハル」

「は、はい、ほむら先輩」

「さっきのキス、あたし、全然満足してないんだけど」

先輩は、僕のネクタイをくい、と引いた。

僕の身体が、カウンターに引き寄せられる。


「……もう一回、しよっか。今度は、誰にも邪魔されないように、ね」

その瞳は、僕が今まで見た中で、一番、甘く、そして妖艶な色をしていた。

僕は、もう、彼女に逆らうことなんてできなかった。

先輩は、ひらりと身軽にカウンターに腰掛けると、僕の腕を強く引いた。

そして、自分もカウンターに乗り上げると、僕の上に、ゆっくりと覆いかぶさった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ