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第二十五話:崩れ落ちた小悪魔

どれくらいの時間が経っただろうか。

スタッフルームのソファの上で、僕はただ、隣にいる先輩の温もりを感じていた。

さっきまでの熱狂が嘘のように、部屋は静まり返っている。

聞こえるのは、僕たちの、まだ少しだけ乱れた呼吸の音だけだった。


僕の胸に顔をうずめるようにして、鴻上先輩はぐったりと身体を預けていた。

その身体は、燃えるように熱かったけれど、今は小さな子供のように、か弱く感じられた。

乱れた赤い髪が、汗で僕の素肌に張り付いている。

その瞳は固く閉じられ、長いまつ毛が涙の雫で濡れていた。

さっきまでの、僕を翻弄した小悪魔の姿は、もうどこにもない。

ただ、嵐が過ぎ去った後、すべてを出し尽くして崩れ落ちた、一人の女の子がいるだけだった。


その姿を見ていると、僕の胸が、きゅっと締め付けられる。

やりすぎた、という後悔。

でも、それだけじゃない。

今まで見たことのない、彼女の無防備な姿に、どうしようもなく庇護欲が掻き立てられている自分がいた。

僕が、この人を変えてしまったんだ。

その事実が、重く、そして甘く、僕の心にのしかかる。


「……せんぱい」


僕が、おそるおそる声をかける。

すると、僕の胸にうずめられた顔が、ゆっくりと持ち上げられた。

その瞳は、蕩けるように潤んでいて、焦点が合っていない。

でも、僕の顔を捉えた瞬間、その瞳に、悔しそうな光が宿った。


「……はるき」


初めて、名前を呼ばれた。

その声は、僕が知っている気の強い先輩の声とは全く違う、甘くて、少しだけ掠れた声だった。


「……あんた、案外、やるじゃない」

「え?」

「まさか、あたしが……あんたに、ここまでされるなんてね……」

ぽすり、と僕の胸を弱々しく叩く。

その言葉には悔しさが滲んでいたけれど、僕の身体にしがみつく腕には力が込められていた。

離さない、と言っているかのように。

その矛盾した態度が、彼女の今の気持ちのすべてを物語っているようだった。


「……こうなったら、罰としてあんたをあたしのモノにするから」

「先輩……」

「あたしをこんなに夢中にさせといて、まさか逃げられるなんて思わないでよね」


その言葉は、僕の心の奥深くに、甘く突き刺さった。

僕の腕に回された先輩の腕に、ぎゅっと力がこもる。

この人は、もう僕に夢中だ。

そう、直感的に理解した。

僕の反撃は、この小悪魔の、心の奥にある鍵を、壊してしまったのかもしれない。


「……はい」

僕は、その震える小さな背中を、優しく抱きしめ返した。

そして、その髪を、ゆっくりと撫でてあげる。

先輩は、安心したように、もう一度僕の胸に顔をうずめた。

その身体から、完全に力が抜けていくのが分かった。


鴻上先輩との問題は、ひとまず落ち着いたのかもしれない。

でも、これで終わりじゃないんだ。

僕はこの腕の中にいる、恋に落ちた小悪魔を、これからどうしていけばいいんだろう。

そして、あの二人との、とんでもないルールが、明日から始まろうとしているのに。

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