第二十一話:新しいルール
「……ねえ、ハルキ。あたしと、付き合って」
「はあ?何言ってんのミサキ。ハルキが選ぶのはあたしに決まってるでしょ」
僕の身体にぎゅっとしがみついたまま、二人の言い争いが始まった。
その雰囲気は昨日までとは全く違う。
僕を巡る、甘くて、どうしようもなく幸せな戦い。
いや、幸せなのか?
僕の頭はもう正常な判断を下せなくなっていた。
「ちょっと、二人とも……!」
僕が止めようとしても、二人は全く聞く耳を持たない。
「ハルキはあたしのこと、どう思ってんのよ!」
「違う!ハルキはあたしの方が好きだもん!」
まるで、おもちゃの取り合いをする子供のようだった。
そのおもちゃが僕でなければ、微笑ましい光景だったかもしれない。
「……もう、分かった。分かったから!」
しばらくして、ミサキ先輩が何かを思いついたように、ぱんと手を打った。
その声に僕とアオイ先輩の動きが止まる。
「二人で言い争ってても、埒が明かない。……だから、ルールを決めようよ」
「ルール?」
アオイ先輩が訝しげに眉をひそめる。
ミサキ先輩はにやりと笑った。
その笑顔は昨日の悪魔のようなものではなく、純粋にこの状況を楽しんでいる子供のような笑顔だった。
「そう、ルール。ハルキを、どっちか一人のものにするんじゃなくてさ」
彼女は僕とアオイ先輩の顔を交互に見比べると、とんでもないことを言い放った。
「――二人で、共有するの」
「は……?」
今度こそ僕とアオイ先輩の声が、綺麗に重なった。
共有?何を言っているんだ、この人は。
「だって、どっちかなんて選べないでしょ?ハルキも困るだろうし。あたしだってアオイにハルキを譲る気ないし、アオイだってそうでしょ?」
ミサキ先輩は、アオイ先輩の顔を覗き込む。
アオイ先輩は、悔しそうに顔を逸らした。
図星らしい。
「だから、どっちか一人を選ぶとか、そういうの、なし。これからは、あたしたち三人で一つ。そういうことにしない?」
「三人で、一つ……?」 アオイ先輩が、戸惑ったように繰り返す。
「そう。どっちかがハルキといる時は、もう一人もそこにいるのが当たり前。隠し事も、抜け駆けも、なし。……対等に、ね。私たち二人、それで一つになるの。どう?悪くないでしょ?」
それは、あまりにも突拍子もない提案だった。 でも、この混沌とした状況における、唯一の解決策のように思えた。
「……でも、そんなの……ハルキが、いいって言うわけ……」
アオイ先輩の言葉は、自信なさげに尻すぼみになる。
そうだ。僕の気持ち。
二人の視線が、僕に突き刺さった。
僕に、拒否権なんてあるんだろうか。
ここで「嫌です」と言ったら、この嵐はもっと大きなものになるだけな気がする。
「……ハルキは、どうなの?」
アオイ先輩が、おそるおそる尋ねてくる。
その瞳は不安そうに揺れていて、僕の罪悪感を刺激した。
僕は、何も言えなかった。
ただ、大きく、深いため息をつくことしかできない。
そのため息を、二人は肯定と受け取ったらしい。
「……やった!」
ミサキ先輩が、嬉しそうに僕の首に抱きついた。
「……じゃあ、契約成立、だね」
アオイ先輩も、少しだけ頬を緩ませて、僕の背中に腕を回す。
こうして僕の意思は完全に無視されたまま、僕のこれからの大学生活を決める、とんでもないルールが制定されてしまった。
僕の反撃は、どうやら僕が思っていた以上に事態を複雑にしてしまったらしい。




