第二十話:反撃の朝
柔らかい日差しが瞼を透かし、僕の意識をゆっくりと浮上させた。
身体が、重い。
特に、両腕が痺れて感覚がなかった。
重い瞼をこじ開けると、そこには見慣れない天井が広がっていた。
ミサキ先輩の部屋だ。
「……っ!」
瞬間、昨夜の記憶が洪水のように蘇る。
ミサキ先輩がシャワーから出てきた後の、あのカオスな状況。
そして、僕の中で何かが切れて、二人の先輩をソファに組み敷いた、その後のすべて。
僕は恐る恐る、自分の両腕に視線を移した。
右腕はアオイ先輩が、左腕はミサキ先輩が、それぞれしっかりと抱き枕のようにして、僕に寄り添って静かな寝息を立てていた。
その寝顔は、僕が今まで見た中で一番、無防備で、あどけなかった。
「……どうしよう」
声にならない声が漏れる。
昨夜の僕は、どうかしていた。
いくら流されるままだったとはいえ、あんな乱暴なことをして。
二人は、怒っているに違いない。
軽蔑されたかもしれない。
そう思うと、心臓が氷水で冷やされたように、きゅっと縮こまった。
とにかく、謝らなければ。
そして、ここから逃げ出さなければ。
僕は、先輩たちを起こさないように、ゆっくりと腕を引き抜こうとした。
その時だった。
「……ん……」
小さな呻き声と共に、二人の身体がもぞりと動いた。
まずい、起きる。
僕は息を殺し、固唾を飲んでその様子を見守った。
二人はほとんど同時に、ゆっくりとその目を開いた。
そして、目の前にいる僕の顔を見て、一瞬だけ、きょとんとした表情を浮かべる。
「……あ」
「……おはよ」
僕の心臓が、大きく跳ねた。
怒られる。
そう思った僕が何かを言う前に、二人はどちらからともなく、僕の身体にぎゅっとしがみついてきた。
「え……?」
「……ハルキ、すごかった」
アオイ先輩が、僕の胸に顔をうずめたまま、くぐもった声で言う。
「……うん。マジで、見直した」
ミサキ先輩も、僕の肩にこてんと頭を乗せて、同意するように呟いた。
その声には、怒りも、軽蔑も、何もなかった。
ただ、蕩けるように甘く、熱っぽい響きがあるだけだった。
「あ、あの……昨日のことは、その……」
僕が謝罪の言葉を口にしようとした、その時だった。
二人は同時に顔を上げると、僕の唇に、それぞれの唇を寄せた。
右から、左から、同時に。
柔らかい感触と、二つの違う甘い香りに包まれて、僕の思考は完全に停止する。
「……ごめんね。あたしたち、調子に乗りすぎてた」
ミサキ先輩が、僕の頬をそっと撫でながら言う。
「うん。君が怒るのも、当然だった。……でも」
アオイ先輩が、僕の髪を優しく梳きながら、言葉を続けた。
「……昨日のハルキ、すごく、格好よかった」
その瞳は、潤んでいて、熱を帯びていて、僕が今まで見たことのない色をしていた。
それは、獲物を見るような色じゃない。
ただ、純粋な好意と、少しの憧れが混じった、女の子の顔だった。
「だから、お願い。私たちを、許してほしい。……そして、もう一度、君にめちゃくちゃにされたい」
「……っ!?」
予想外の言葉に、僕は言葉を失う。
僕は、その場の勢いで、二人に謝らせたい一心で行動しただけだったのに。
どうやら、とんでもないスイッチを入れてしまったらしい。
「……ねえ、ハルキ。あたしと、付き合って」
「はあ?何言ってんのミサキ。ハルキが選ぶのは、あたしに決まってるでしょ」
また、言い争いが始まった。
でも、その雰囲気は、昨日までとは全く違う。
僕の反撃は、どうやら、僕が思っていた以上の結果を生んでしまったようだ。




