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第十五話:悪魔の契約と共犯者たち

僕の大学生活は、もはや平穏どころか、嵐の中心に放り込まれてしまったようだった。

ミサキ先輩は、楽しそうに僕たちを見つめながら、ゆっくりと僕たちのいるソファへと近づいてくる。

その一歩一歩が、まるで死刑執行のカウントダウンのように感じられた。

アオイ先輩は、悔しそうに唇を噛み締め、わなわなと震えている。

その視線は、助けを求めるように僕へと向けられていた。

僕に、何ができるというんだろう。


「さあ、どうする、アオイ?時間切れだよ」

ミサキ先輩は、僕たちの目の前で足を止めると、にやりと笑った。

その手の中のスマートフォンが、まるで死神の鎌のように見える。

アオイ先輩は、僕の顔と、ミサキ先輩の顔を交互に見た後、観念したように、ぎゅっと目を閉じた。

そして、絞り出すような声で、ぽつりと呟いた。


「……分かった。あんたの、好きにすればいい」

「え、先輩!?」

思わず、声が出た。

諦めるのか。

この状況を、受け入れてしまうのか。

僕の最後の希望が、音を立てて崩れていく。


「……やった。話が早くて助かるよ」

ミサキ先輩は、満足そうに頷くと、手にしていたスマートフォンをポケットにしまった。

そして、僕とアオイ先輩の間に、するりと身体を滑り込ませる。

ソファが、ぎしりと軋んだ。


「じゃ、改めて。ハルキ君、よろしくね」

耳元で囁かれ、僕はびくりと身体を震わせる。

ミサキ先輩の身体は、アオイ先輩よりもずっと小柄で、柔らかかった。

甘い、花のようないい香りがする。

彼女の手が、僕のシャツのボタンへと伸びる。

さっき、アオイ先輩が外してくれた、そのボタンに。


その、瞬間だった。


「――っ!?」


ミサキ先輩の動きが、ぴたりと止まる。

背後から伸びてきたアオイ先輩の腕が、ミサキ先輩の両腕をがっちりと掴み、羽交い締めにしたのだ。


「ちょ、アオイ!?何すんのよ、いきなり!」

ミサキ先輩が、慌てた声で叫ぶ。

でも、アオイ先輩は動じない。

その表情は、さっきまでの弱々しいものではなく、僕が初めて見た時のような、自信に満ちた、不敵な笑みを浮かべていた。


「あんたさ、さっきから見てると、調子に乗りすぎ」

アオイ先輩は、ミサキ先輩の身体を押さえつけたまま、いとも簡単にそのポケットからスマートフォンを抜き取った。

「これで、脅しの材料はあたしが預かっておくから」

アオイ先輩はそう言うと、スマートフォンを自分のポケットにしまった。

「……っ!あんた、ハメたな!離しなさいよ!」

「やだね。人を脅そうとした、悪い子にはお仕置きしないと」

アオイ先輩は、くすくすと喉を鳴らして笑う。

その顔は、僕が今まで見た中で一番楽しそうだった。


そして、その視線が、僕へと向けられた。

「ハルキ、手伝って」

「え?」

「そこの物置になってるとこに、荷造り用の紐、なかったっけ?取ってきて」

その瞳は、僕を共犯者に引きずり込む、悪魔のような輝きをしていた。

僕は一瞬ためらったが、さっきまでのミサキ先輩の態度を思い出し、静かに頷いた。


僕が持ってきた紐で、アオイ先輩は手際よくミサキ先輩を近くのパイプ椅子に縛り付けていく。

「ちょ、やめなさいよ!アオイ!あんた、本気!?」

「本気だよ。ねえ、ハルキもそう思うでしょ?こういうことする子には、ちゃんと分からせないと」

アオイ先輩は、僕に同意を求める。

僕は、こくりと頷くことしかできなかった。


完全に拘束され、ぐったりとしたミサキ先輩が、悔しそうに僕たちを睨みつけている。

アオイ先輩は、そんなミサキ先輩の顎をくいと持ち上げた。

「さあ、お仕置きの時間だよ、ミサキ。あんたがやろうとしたこと、そっくりそのまま返してあげる」

アオイ先輩は僕に向かってにやりと笑う。

「まずは、どこからいじめてほしい?」

その問いかけに、僕の背筋がぞくりと震えた。

衝立の向こう側、夕暮れの部室で、僕たちの歪な関係が、さらに歪な形で深まろうとしていた。

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