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第十四話:目撃者

その声はやけに楽しそうに、静かな部室に響き渡った。

僕の平穏な大学生活は、どうやら、もうどこにもないらしい。


「み、ミサキ……!なんで、ここに……!」


我に返ったアオイ先輩が、裏返った声で叫ぶ。

その顔は羞恥と怒りで真っ赤に染まっていた。

僕も慌てて身を起こし、脱ぎかけたシャツでどうにか身体を隠す。

心臓が、今にも張り裂けそうだった。


「なんでって、アオイが忘れ物したって言うから、わざわざ届けてあげようと思ったんじゃん。優しいでしょ?」

ミサキ先輩は悪びれる様子もなく、ひらひらと手を振る。

その視線は、明らかに僕たちをからかっていた。

「そしたらまあ、こんな面白いものが見られるなんて。……ねえ、ハルキ君だっけ?うちのアオイ、どうだった?」

「え……あ……」

不意に話を振られ、僕は言葉に詰まる。

どうだった、と聞かれても、答えられるわけがない。


「ミサキ!あんた、いい加減にしなさいよ!」

アオイ先輩が、僕を庇うように前に出た。

服の乱れも気にせず、親友を睨みつける。

でも、その声は怒りのせいで震えていた。

いつもの堂々とした姿は、見る影もない。


「えー、何怒ってんの?いいじゃん、別に。青春って感じで」

ミサキ先輩はくすくすと笑いながら、スマートフォンを取り出した。

そして、そのカメラを、僕たちに向ける。


「ちょ、何撮ってんのよ!」

「記念撮影。いやー、これはいいネタになるわー」

「やめなさい!消しなさいよ、今すぐ!」

アオイ先輩が掴みかかろうとするが、ミサキ先輩はひらりとかわす。

そのやり取りは、まるでじゃれ合っているようにも見えたが、アオイ先輩が本気で焦っているのは明らかだった。


「……分かった、分かった。撮らないし、誰にも言わないよ」

しばらくして、ミサキ先輩はあっさりとスマートフォンを下ろした。

その言葉に、アオイ先輩がほっとした表情を浮かべる。

でも、僕は知っていた。

こういうタイプの人間は、絶対にタダでは終わらせない。


案の定、ミサキ先輩は悪魔のような笑みを浮かべて、言葉を続けた。

「――その代わり、ね」


ゴクリ、とアオイ先輩が喉を鳴らす音が聞こえた。

「……何が望みなの」

「うーん、そうだなぁ……」

ミサキ先輩は、悪びれる様子もなく、にんまりと笑った。

「決まってるじゃん。このまま、私も混ぜてよ」

「は……?」

アオイ先輩と僕の声が、綺麗に重なった。

混ぜて?今、この状況に?

僕の頭は、完全に思考を停止した。


「何、言ってんのよ、あんた……!ふざけないで!」

アオイ先輩の声が、震えている。

「ふざけてないよ?だって、アオイばっかりずるいじゃん。こんな可愛い後輩と、こんな場所で。ねえ、ハルキ君も、二人より三人の方が、もっと楽しいと思わない?」

同意を求められても、僕に頷けるはずがない。


僕が固まっていると、アオイ先輩が僕の前に立ちはだかるようにしてミサキ先輩を睨みつけた。

「絶対に嫌!帰りなさいよ、今すぐ!」

「嫌だなんて言わせないよ。だって、あたし、写真撮っちゃったし」

ミサキ先輩は、そう言って悪戯っぽく笑うと、スマートフォンの画面をちらりと見せた。

そこには、さっきの僕たちの姿が、はっきりと写っていた。


「……っ!あんた、いつの間に!」

「衝立をどかした、あの瞬間?あんたたちが固まってる間に、ね」

アオイ先輩の顔から、血の気が引いていく。

「さあ、どうする、アオイ?このままあたしを仲間に入れるか、それとも、この写真がサークルのグループLINEに投稿されるか。……選ばせてあげる」

それは、選択肢のようで、全く選択の余地のない、悪魔の提案だった。


アオイ先輩は、悔しそうに唇を噛み締める。

その視線が、助けを求めるように僕へと向けられた。

僕に、何ができるというんだろう。

ミサキ先輩は、楽しそうに僕たちを見つめながら、ゆっくりと僕たちのいるソファへと近づいてくる。

僕の大学生活は、もはや平穏どころか、嵐の中心に放り込まれてしまったようだった。

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