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第十三話:衝立の向こう側と、闖入者

衝立の奥は物置になっているようだった。

使われなくなった長机やパイプ椅子が壁際に寄せられている。

その中央には、誰かが私物として持ち込んだのだろうか、簡素なソファベッドが一つだけ置かれていた。

先輩は僕をそこへといざなうと、もう一度僕の目をまっすぐに見た。

その瞳は熱っぽく潤んでいて、僕の心を射抜くようだった。


「……怖くない?」

先輩の問いかけは、僕の心を気遣う優しい響きを持っていた。

僕は静かに首を横に振る。

怖くはない。

ただ、心臓が早鐘のように鳴っていて、どうにかなってしまいそうだった。


先輩は安心したようにふわりと微笑むと、僕の頬にそっと手を添えた。

そして、ゆっくりと顔を近づけてくる。

あの夜とは違う、穏やかで優しいキス。

僕はおそるおそる、その背中に腕を回した。

先輩の身体がびくりと小さく震える。

その反応がなんだか可愛くて、僕の緊張も少しだけほぐれた。


どちらからともなく、僕たちはソファベッドへと倒れ込む。

狭い空間で互いの熱が混じり合う。

先輩は僕のシャツのボタンに、ゆっくりと指をかけた。

一つ、また一つとボタンが外されていく感触。

窓から差し込む月明かりが、僕の素肌を淡く照らし出した。


「……綺麗」

先輩が吐息混じりに囁く。

その言葉に、僕の顔が熱くなるのが分かった。

あの夜の乱暴な感触とは違う。

一つ一つの所作が僕を大切に扱ってくれているのが伝わってきて、胸の奥が温かくなった。

これなら受け入れられる。

ううん、違う。

僕は、この人を受け入れたいんだ。

そう、はっきりと自覚した。


僕が先輩の背中に回した腕に力を込めると、彼女は嬉しそうに目を細めた。

先輩の手が僕の身体をゆっくりと撫でていく。

その熱い感触に、僕の身体からどんどん力が抜けていくのが分かった。

外の世界の音はもう何も聞こえない。

ただ僕たちの熱い吐息と、高鳴る鼓動だけがこの空間を満たしていた。

先輩が僕のズボンのベルトに、そっと手をかける。

もう後戻りはできない。

僕もそれを望んでいた。


その、まさに、すべてが一つになろうとしていた、その時だった。


ガチャリ、と。

静かな部室に、無機質なドアの開く音が響き渡った。


「あれー?誰もいないのかなー?」


聞こえてきたのは間延びした、聞き覚えのある声。

まずい。

誰か来た。

僕と先輩の身体が同時に強張る。


「アオイのやつ、まだ残ってると思ったんだけどなー。忘れ物したって言ってたし」


声の主はずかずかと部室の中に入ってくる。

足音は僕たちがいる衝立の前で、ぴたりと止まった。

心臓が飛び出しそうだった。

見つかる。

どうしよう。

パニックに陥る僕の上で、先輩は真っ青な顔をしていた。


「……ん?なんかこの奥、人の気配しない?」


好奇心に満たた声。

そしてゆっくりと、衝立が横にずらされる音がした。

やめてくれ。

心の叫びも虚しく、僕たちの隠れ家は無慈悲に暴かれていく。


そこに立っていたのは、やはり歓迎会にいたミサキ先輩だった。

彼女は衝立の奥で半裸で折り重なる僕たちを見て、数秒間固まっていた。

その手にはスマートフォンが握られている。

おそらくアオイ先輩に連絡を取ろうとしていたのだろう。


「……」

「……」

「……」


誰も何も言えない。

時間が止まったかのようだった。

ミサキ先輩は目の前の光景が信じられないといった様子で、何度か瞬きを繰り返す。

そして僕たちの姿と、アオイ先輩の真っ赤な顔を交互に見比べると。


次の瞬間。

その口元に悪魔のような笑みが浮かんだ。


「……へえ。あんたたち、ここでそんなことしてたんだ」


その声はやけに楽しそうに、静かな部室に響き渡った。

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