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09 タク、奮戦す。

まぁ方針だ作戦だといっても敵のいる位置も状態もわかってんだから、余計な寄り道をせずに一直線に向かって行くっきゃないし。

黒翼山脈の裾野までは、幌馬車隊を組んで進んだ。

ロードワークは美玖も一緒だけど、俺は休憩時間、寝る前、起き抜けに俺は瀧夜叉、桜太夫から猛特訓を受け、美玖は楽隊との音合わせや

この国、世界のことを老師や彩姫から聞いている…勿論、前の戦いのこともこれから聞くだろう、な…



3日で裾野の一ノ宮に到着した。

低級モンスがそれこそ地面も見えないほど待ち受けていた。

美玖の大太鼓での開戦の合図。鳴り響く太鼓の波動は響刃となり防壁となって俺たちの戦闘を有利にしてくれた。

先陣にユミン、桜太夫。


「いってくるねぇ~~♪」

「さぁって、一丁やるかっ」


ふたりがまず魔物の群れに突っ込んで行く。

中陣に瀧夜叉と俺。


「タク、わたいが行く!」

「瀧夜叉っ!」

「全体見てるんだよっ」


言われなくてもそれはやるさ。

それが俺の役割なんだから…


彩姫が支援魔法を展開した。

後詰のアーネからの援護が間断なく撃ち出されている。



ふと見ると、巫女姿の美玖が撥を宙高く掲げている。

陽光が輝いて彼女から後光が射しているようだ…綺麗だなぁ……って、言ってる場合じゃないし!


「覇っ!」


美玖の唇から短く強い気合がほとばしり、大太鼓がひと際大きく鳴り響いた!



それから丸々2日目に二ノ宮。

ここには中級魔物の黒土蜘蛛と上級魔物の紅蜘蛛が待ち受けていた。

一ノ宮の戦闘で俺の勘も完全に戻っていた。

体力温存しながらユミンや瀧夜叉、桜太夫が弱らせた敵の止めを刺し、最後のボス蜘蛛に対した。

長剣を肩に担いで俺はゆっくりと敵の前に歩いていった。

十字の口から吐き出された毒糸を見切る余裕もあった。

ざっと俺の倍近い身長のボス蜘蛛の前足を薙ぎ払って俺はにっと笑った。


「お~しまいっ」


下腹に気をためると、長剣が光を発して刀身の3倍近く伸びる。


「せいやぁあああああっ」


振り下ろすとボス蜘蛛が真っ二つ!あっという間に浄化されて霧になって消えた。


「終了」


そう言って振り返ると戦鼓隊の後方に嫌な黒雲が迫っていた。


「やばっ!」


俺は走った!

気づいた桜太夫もユミンも走った。

彩姫が慌てて防御魔法を唱え、アーネが銃口をそちらへ向けた。


「タク!ダメっ!危ないよ!」


瀧夜叉の裏返った声が、背後から聞こえる。



瀧夜叉、なんでつったてる?



一瞬よぎった疑問も、黒雲から巨大な蛇の頭が細く鋭い稲妻をまとって現れたときには消えていた。



美玖っ!



俺たちのパーティーの本当の要は戦鼓隊であり、その中心で大太鼓を御している美玖…

敵はそれに早くも気づいて背後から奇襲を仕掛けてきた!



いや、奴らは最初から知っていたんだ!



俺は悔しかった。

ハルニーナがいたとき…前の戦いのときもパーティーの命綱は戦鼓隊だった。



あのときと同じ陣形を組んだ俺のミスだ!

奴らが気づくのはわかり切っていたはずだ!



果敢に美玖は太鼓を撃ち続けている。

響刃が蛇へむかって飛んでいるが、うろこに跳ね返されている。



ダメだっ

気合の一発がいるんだっ



それを撃ち出す余裕がないこともわかった。

美玖の額に汗が浮いている。疲労が恐怖が彼女を支配しはじめている。



やばい、やばいっ



俺は走った。

足がもつれる…じゃないかぁ……こんにゃろぉおおおお



ユミンの手から小型の手榴弾が投げられ、桜太夫の鈎爪と最大パワーのパンチがヒットする。

アーネが迫撃砲を肩にして発射したっ

彩姫の防御魔法が分厚い防御壁をつくって、蛇の進出を食い止めている。


「美玖っ!」

「卓っ!」


ようやくたどり着いた俺は美玖を固く抱き、キスをした。



俺が行く



卓……



大丈夫だ。

一撃で頼むぜ♪



うん!任せといてっ



視線が絡み合って俺と彼女は微笑しあった。



いっくぞぉおおおおおおっ!



走るっ

はしるっっ

火事場のなんとやらだな♪

長剣がまた光り、今度は10倍に伸びた!

勢いつけて今度は思いっきり黒雲を、蛇の本体がある場所を突き刺したっ


「美玖っ!」

「覇っ!」


彼女の気合の乗った渾身の一撃は響波刃となって蛇の頭を断ち割り、瞬速で黒雲を引き裂いた!



クワォオオオオオオオオォォォッォォ………



蛇の断末魔は虚空に響き、尾を引くように木霊となって…消えた……

長剣を腰に収めてみんなを、美玖を見た。



無事…だな



ほっとした。

あ、あれ?そういえば瀧夜叉…は、どこだ?



見渡すとはるか後方で、瀧夜叉は立っていた。

薙刀を構えるでもなく…こちらへ来る様子もなく……ただ、そこにいた。



あいつ…



指先にチリチリと激しい感情が生まれたとき、ぽんっと肩を叩かれた。


「ん?」


桜太夫とユミンが俺の両脇に立っていた。


「タク。今回だけは許してやって…」

「太夫?」

「うんうん…こういうこともあるよ?」

「ユミン…」



そう言われてもな…生死の境だったんだぜ、俺たち…



美玖の瞳は全てを許せと言っている…

瀧夜叉の方を見た。



ふぅ……



彼女の全身から後悔と自虐、悲しみと寂しさが感じられた…



俺は空を見た…抜けるようなってか、底抜けの青空だな。



ま、いいか…



頬に触れた風が気持ちよかった。






【続】


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