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08 瀧夜叉の圧

サンピカールの街は閑散としてる。

そりゃそうだ、あんだけの魔物が湧いてりゃ、一般人は逃げるよな…

俺たちは普段なら泊まることは出来ないと思われる、だだっ広い領主様ご一行の宿泊する本陣にあがりこんだ。


「卓、血がついてるよ」


美玖が寄って来て俺の上着を脱がせた。



って、なんか美玖、艶っぽいな…



酔ってるように頬は上気してるし、瞳はうるうるだし…

ああ…初の実戦で興奮してるんだ…


「ちっと休憩な」


俺、みんなに断って、先に割り当てられた部屋へ入った。

美玖が黙って俺の後ろから付いて来てる……

ベッドがある…部屋に入った途端、彼女が抱きついてきた!



美玖の身体はめっちゃ熱い。

俺自身、土蜘蛛と戦い魔物を斬り、久しぶりの殺戮でアドレナリン出続けてる。




戦いの最中から心臓バクバクだった。

卓があの化け物に向かっていったとき、恐かった!

卓が死んじゃうんじゃないかって目が離せなかった!

卓が刀を担いで飛んだとき、息が出来なかった!

卓があの化け物を斬り割ったとき…心臓止まるかと思った!

化け物が黒い血をふりまいて潰れたとき……

体中が熱くてどきどきしてて、全身が心臓になったみたいに…眩暈するくらいに……




初陣で興奮しきった美玖。




抱きしめた美玖を全身で感じる愛おしさ、充足感。

ふたりがひとりになった感じ…気持ちも一緒に感じた……

溶け合ったまま、間近で見詰めあって唇を重ねる。

指で美玖の髪をいじる…結構、この感触好きなんだ。



ふうっと俺たちは深い安寧の淵に落ちていった………




深い深い眠り…

殺戮の穢れも疲労も美玖とひとつになって…全部溶けて消えた。

目が覚めると…赤い赤い夕日が窓の障子に映えている。

なんもかんも癒される美玖の寝顔がすぐ目の前にある。



戦いが始まったんだな…



わかりきったことだけど、改めてそう感じた。



美玖を守る



っても、今回は随分助けられた気がする…

気合いれて鍛えなおすしかないな。

苦笑い…口元をゆがめる癖、直せっていわれてたなぁ



ん?ぴりぴりとした気配…こりゃ闘気?

って瀧夜叉か?これって…怒気に近いな…んじゃ、起きるかぁ



鍛錬用のTシャツみたいな白麻の上着と、黒のクンフーパンツっぽいのを身につける。

扉を開けると、そこに瀧夜叉と桜太夫がいた。


「行くよ」


ぶっきら棒に言葉を投げると、瀧夜叉は背を向けた。


「し~らないっ」

「なんだ?」


桜太夫の発言は意味深でどこか憐れみを感じる…


「きっついから覚悟しといくんだね」

「おいおい…」


先を行く瀧夜叉がピタっと止まる。


「?」


半分だけ顔をこちらに向けた彼女が…ぼそっと


「すけべ」

「うっ…!」



それから数時間後……



「も、もう…だ、めぇ……」

「ふんっ、だれてるからそうなるんだ。明日も朝からだからね」

「ぐえっ!こ、殺す、気か?」

「ふ~~んだ。さっさとミクに優しくしてもらいな」


地面に大の字になって息も絶え絶えの俺に、瀧夜叉がトドメのひと言。



瀧夜叉ぁ~~おめぇ、いつからこんなに……



本陣にもどるあいつの背中…なんか、なぁ……



「気づいた?」


桜太夫が見下ろしている。


「気づきたくない」

「そう?……そうね」

「ああ。これからまた始まるんだ…」

「今は仲間のほうがいいかな?」

「間違ってるか?」

「いや、それでもいいと思う」

「んじゃ、そうしといてくれ」

「その代わり…」


痛ましそうな視線…


「わかってるさ。地獄の特訓が続くってんだろ?」


溜息つきながらの桜太夫がうなずいた。



今一度探索に走ったユミンとアーネが夜遅くに帰ってきた。

気持ちよく夜食を完食したふたりから報告を聞く。


「なるほど…それほど余裕はなさそうだなぁ」

「そうだねぇ~」「ですね」


そこへセイメイ老師が到着したと美玖が連れ立ってやってきた。

瀧夜叉が妙に明るい笑顔をふたりに見せてるし…

今後の、というか明日からの方針を話し合って解散したあと、部屋へもどろうとした俺は老師に呼び止められた。


「なんでしょう?」

「美玖なんだが…」

「はい」

「今回は置いて行かんか?」

「ダメです」

「では、たき…」

「瀧夜叉も連れて行きます」

「お主…」

「ふたりとも守ります」

「決意は立派だがのぉ…」

「今の俺が…かなりなまってるのもわかっています」


俺は拳をつくって、短く息を吸った。


「それでも美玖とはもう離れないし、瀧夜叉だって守りきります」


言ってることが相当無茶だってことは自分でわかってる。

だがしかし、やらなきゃ…だ。


「左様か…出来る限りの後方支援はするがのぉ…やってみるのもよかろうてな」

「ありがとうございます」





【続】

おっさん、まだまだ青い(厨二)

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