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07 ミク、初陣

昨夜の広間で更に詳しい情報を得て、俺はそれぞれの役割分担を割り振った。

彩姫とアーネ、桜太夫とユミン、俺と美玖と瀧夜叉でチームを組んだ。

ドーマが復活するとなるとその中心は黒翼山脈。

そう、俺たちはそこで奴を一度は倒し、死骸を老師が封印した…

使い魔の土蜘蛛は南の樹海で殲滅した。

だが、マウンテンの麓にはいくつもの街や寺院、城や砦が点在している。

もちろん、そこにはそれ相応の人も住んでいるわけで…


「知らせる?」


彩姫のフードから出ている形の良い小さい唇がいつものようにぶっきらぼうに動いた。


「いや、まだ確証がない…」

「でも確証を得てからじゃ遅いんじゃないの?」


桜太夫は反対の意向だ。

俺は考える…



確かに…だけど単なる噂や風聞だったとき、騒ぎがでかくなるのは賢明じゃない……



「タク、どういたしましょう?」


アーネの丁寧な物言いが、この際ちょっとだけ癪に障るな。


「桜、ユミン、先発してくれ」

「了解」

「は~い」


俺が桜太夫の瞳を見ると、少しだけ目を細めてうなずいた。


「勘が良くて助かる」

「どういたしまして」


で、彩姫とアーネを見るとふたりもこくりと首を縦に振った。


「伝令はユミン、頼むな」

「は~い」

「瀧夜叉、親父さんに万一のときの出陣を手配しておいてもらってくれないか?」

「もうしたし」

「お、成長したな」

「うるさい」


どうにも機嫌が悪い…

俺とみんなとの阿吽の呼吸に美玖はちょっと目を見張っている。


「凄いねぇ」

「?」

「言わなくてもわかるんだ」


チロっと流し目で見上げる美玖の眼の中にある炎が…


…蒼白くて怖いな…

……



早速、桜太夫とユミンが屋敷を後にした。

彩姫とアーネも数騎の荷駄隊を指揮して出て行った。

俺たちも旅支度と戦いの準備をした。


「うち、どうしょ?」


戸惑う美玖を瀧夜叉が呼んで、奥座敷へ連れて行った。



きっと戦鼓隊の衣装を着せるんだろうな……

緋袴に純白の巫女衣装……あれって、かなり艶っぽいんだよなぁ

なにしろ純白のひとえに薄羅紗の白羽織だけだから……思いっきり透けるしぃ♪



♪じゃないだろ!




とひとりでノリツッコミしてる間にふたりが戻ってきた。


「ほう…」

「へん?」

「いや、いいんじゃないか?」


巫女衣装ではなかったけど、ベトナムのアオザイに良く似た更紗生地の上下。

黒とグレーのグラデーションが妙に美玖と合うんだな…


「みてみてっ」


くるっと背を向けると、肩から背にかけて斜めに龍、上着の裾から背に向かって咆哮する虎が墨絵のように刺繍されていた。


「すげぇ」

「素敵でしょ~~♪」

「おお」


ご満悦の美玖とむっつりふくれっ面の瀧夜叉…



なんだかなぁ



なんで瀧夜叉はふくれてやがんだ?

素朴な疑問…だな。

昨日は美玖ともあんなに楽しそうに話してたし…てか、美玖には笑顔かよっ!



よくわからん



五日目の夕方にエストシャイン寺院のあるサンピカールの街に着いた。




いや正確には、その付近にやってきて……




「瀧夜叉、あれ」


俺が指差した先を彼女はすでににらみつけていた。


「行こう!」


駆け出した。


「美玖、初陣だ」


俺は美玖を見た。彼女は気丈に歯を食いしばっていたけど、明らかに緊張とおびえの混じった蒼白い顔でひきつっていた。


「俺がいる。みんながいる。大丈夫だ。美玖の太鼓で俺たちに力をくれ」


力いっぱい彼女を抱きしめ、カチカチ小刻みに歯が鳴っている彼女の口にくちづけした。

腰の長剣が今か今かと引き抜かれるのを待っている。

瀧夜叉の気合、アーネのであろう銃声、彩姫の放つ魔法の稲妻の光。

土蜘蛛の放つ異臭が風に乗って鼻腔を刺激し、雑魚使い魔の耳障りな叫びが鼓膜を震わせる。

美玖の歯鳴りが止まった。

唇を離すと血色がもどり光沢もつややかなピンクの唇に不敵な笑みを浮かべている。


「もう、だいじょ~ぶ」

「うん」

「卓、ここは任せなさい!」

「任せたっ!」


俺が長剣を抜いてもう一度振り返ると、彼女はアオザイの衣装のまま…撥を手にしていた。

据え付けられた大太鼓の前で構えた彼女が、俺を見て力強く撥を打ち下ろす。



どど~~~~~ん!!



その波動に背を押され、連打する鼓動に乗って俺は魔物の中に突進した!

戦鼓隊の担ぎ太鼓がリズミカルに鼓動を放ち、美玖の強打が響くたびに俺たちに力がみなぎってくる!



大太鼓の小刻みな連打が敵へ響きの刃となって襲い掛かり、防戦で手一杯だった彩姫に回復魔法の呪文を詠唱する余裕を与えた。

裂傷、打撲で動きの鈍くなった瀧夜叉も、接近戦になって苦闘するアーネも元気が戻ってくる。



まず、アーネを混乱から切り離す



銃手の彼女が乱戦の渦中にいては持ち味が出せない。

けど…ちっとばかし多いな



久しぶりの剣戟だぁ~~~身体がきついぜ~~~ぜぇぜぇ



ふわりと身体が温かいものに包まれる



おおおおおおおおおおおおお!

彩姫の回復魔法~~~様さまぁ~~~♪



再び元気…あっちも元気♪



ちがぁ~~~う!



いくぞぉ~~!



アーネを囲む雑魚どもを蹴散らし、彼女の手を引いて、一度乱戦から逃れ出る。

追いすがる奴らを瀧夜叉が食い止めている。


「ありがとうございます!」

「援護頼む!」

「お任せください!」


彼女の言葉を背に、苦闘する瀧夜叉の許へ走った。


「助けにきたぜ」

「この状況で、説得力なし!」



確かに!



背中合わせの俺たちの周りは雑魚とはいえ、無数の魔物たち。

太鼓の響刃やアーネの狙撃もここまでくると焼け石に水状態だな…



ん?



敵右翼後方が乱れてる?



「どないすんべ?」

「のん気だなぁ」

「まぁな…開き直り、かな?」

「てか、根拠あるんでしょ?その余裕わ」

「ばれたか!」


敵をなぎ倒しながら俺たちの掛け合い漫才。


「余裕だねぇ~~♪」


ひょっこりとユミンが顔を見せる。


「いや、あんまりないな…」

「ん~~~~息があがってるかなぁ?」

「歳だからね、このスケベおやぢわ」

「なん…ぜぃ…とでも…ぜぇ……言えっ!」



正直…はい、一言もありません……肩で息してます



「タク!サンピカール着いたら鍛えなおす!」

「へい……ぜぇぜぇ……わかっ……た」



と、ひときわ強烈な大太鼓の一撃!

同時に俺たちの周りの雑魚どもがぶっ飛んだ!


「お待たせ」

「……」

「あらあら」


桜太夫は尻餅ついてへたばった俺をにこやかに見下ろしている。

彼女の片手の一閃で、数体の敵が簡単に吹き飛ばされる。

ユミンが敵の間を駆け抜けるたびに、両手に握られた刃渡りの長い両刃のナイフがきらめく。



死屍累々…だな



美玖の太鼓と彩姫の魔法でもいちど立ち上がったが…することないなww

敵が一箇所にまとまりゃ美玖の大太鼓の響刃や桜太夫、瀧夜叉の餌食だし、乱れればアーネの狙撃とユミンのナイフでズタズタだし。



さて……



俺の視界の正面に毒々しい紅い土蜘蛛が一匹。

普通の蜘蛛の頭部の部分がない代わりに、そこから裸体の女の上半身が生えてる。

目だけ昆虫の複眼、耳のとこから触覚が伸びてる。威嚇音を発するたびに口が十字に割れるのは見てるだけで気色悪いし…

肩から背中、蜘蛛の身体の部分との接合しているところまで、紅い短く硬い毛がびっしり…てか、なんで胸のとこだけ人間の女性?

妙に形の良い…Eカップくらいかなぁ……薄桃色の乳首と色白の肌……コントラストがビミョーにエロいし。



描写はおいといてっと、




剣を持ち直して、ゆっくりと近づく。


「てめぇだけだぜ」


すっかり元気溌剌な俺。

足場を確かめる。

太鼓も鳴りをひそめている。



「タク、推参!」


長剣を肩に担ぐようにして、一気に間を詰める!

十字の口から糸が吐き出される。


「先刻承知!」


かいくぐり、薙ぎ払い、突進する!

一瞬、吐き出す勢いが止まる。


「待ってたぜ、そいつを!」


俺は地を蹴って奴の前で跳躍する!

眼下に奴がいる。今にも糸を吐き出そうとしている。


「せいやっ!」


自分の落下する勢いに、担いだ長剣を振り下ろす。



ぐしゃあ



なんともいえない感触……頭から真っ二つに断ち割った。



べしゃ



っという音。

紅い土蜘蛛は黒紫の体液を撒き散らしてその場に沈んだ。


「終了」


大きく深呼吸して長剣を鞘に滑らせる。


「復活してるんだな?」

「間もなく完全に復活…そんな感じ」


桜太夫は眉を寄せて溜息つきながらそう言った。


「わかった…とりあえずサンピカールへ行こう」


戦鼓隊、アーネ、彩姫が俺のところへ集合した。



抜けるような青空……



東京じゃ、決してお目にかかれない空だな…



黒翼山脈の方にある黒雲……

うざい奴だ、死んどきゃいいのにな……



さて、どっちにしても鍛えなおさにゃいかんな…へたり込むのは情けないからなぁ



みなの顔を見渡して、俺は号令した。



「撤収!」



皆がおう!っと呼応した。






【続】

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