06 ミクとハルの鼓動
宝物殿の入り口の観音扉が全開していた。
俺らがそこへ行き、宝物殿の入り口に立った。
三十畳はある大きな板の間。正面奥にこの国を鎮守する神像が祀られている。
その前に特別大きな太鼓が一基。
その両サイドに中型のが一基ずつあり、俺らと大太鼓の間に小型の太鼓が台に載って六基。
祭祀、祭礼、神楽奉納はもとより、戦いのときにも使われる戦鼓……
大太鼓を一心不乱に叩く美玖がいた。
彼女の打ち出す大太鼓の響きに応えるように、どこからかハルニーナとともにこの戦鼓隊でそれぞれのパートを受け持っていた連中が呆然と立っていた。
あ…いい……
最初は見事な大太鼓に見ほれたんだ…
じっと見詰めてたら、太鼓に呼ばれてるような気がしたわ…
うち、じっとしてられなくて…撥をいつの間にか握ってた。
足場を確かめて腰をすえ、初めは軽く撥を当ててみた。
どうん
軽い反発と小さな音。
その音の余韻がなんだか挑戦的だったんだよねぇ……
「俺から良い音を出せるもんなら出してみろ」
って言われたようでさ…
正直、平気な顔してたけどショックだったし。
なにが?ってそりゃ2年も卓は消えちゃうし、帰ってきたら今度はうちも一緒に変なところへ連れてこられるし。
おまけに消えてる間、卓の身近にこんなに魅力的な女の子がいっぱいいたのがわかったし!
どんどんどどどどどぉ~~ん
ストレス発散~~~~♪
と思ったら、なんだか音が気に入んないし!
こんにゃろ!
うち、ムキになって太鼓と戦った。
汗が全身から噴出した!
服がびっしょりになってくのがわかる。
だんだん、なんでこんなにムキになってるのかわかんなくなって、頭の中からも胸の中からもいろんなモヤモヤしたもんが消えていって…
どん どどん
どどどどん
どどん どどん
叩くリズムと鼓動と周りの空気~太鼓の音の響きが波動となってうち以外の全てに影響して…
うちにはそれが全身から心の芯に浸透してきて……
音が喜んでる!
響きが踊ってるっ!
うちと太鼓が一緒になったぁ♪
あ、中太鼓!
小太鼓もきた~~~~~!
旋律がどんどん早くなって…一瞬刹那の静寂………
ここ!
うちの小刻みな打撃に周りがきらきら輝いてく!
うわぁ~~~~♪
うちがからっぽになった?
でもでも、うちの中がすっごくいっぱいになってる!
目が離せん…てか、鼓の波動に抱きしめられてる……んな感じか?
ぷっはぁ~~~
すげぇなぁ……美玖…綺麗だなぁ……飛び散る汗がキラキラしてやがる…
ハルニーナの太鼓も凄かったけど、美玖のは違った凄さだな。
うん。強靭で繊細なんだな
まぁハルとは年齢も経験も半分くらいだから、それだけ純粋ってか真っ直ぐなんだろな……
(これでバトンタッチ完了ね♪)
え?
(美玖は良い鼓手よ。若いし、強さと弱さ知ってるわ。タク、大事になさいね)
ハル?
不意に目の前にハルの笑顔が浮かんだ。
俺を庇って、血と泥にまみれた死に顔……
それがいつのまにか愛し合った後のほっこりした余韻に包まれた優しい顔になっていた。
(もう、負い目にしないで頂戴ね)
負い目?
(そうよぉ…貴方のせいで私が死んだって、そう思ってるでしょ?)
そりゃそうだろっ!
(でも、もう忘れてね。だいたい、いつまでもそんな風に思われてたら成仏できないでしょ?)
ハル……
(美玖を愛してあげるのよ。誰よりも大きく、永く、ね?)
彼女の笑顔は俺の胸の奥に隠してあった小さな…硬いしこりを溶かした。かすかに耳に美玖の生み出す鼓動が染み込んで来た…
当たり前だろ
(うん)
美玖は俺の想い人なんだぜ
(うん…知ってるよ……タクは私を抱いてるときも彼女を抱いてたから……)
そか?
(そうよ、失礼な奴よ、タクは……くちづけしてるときも、身体を愛撫してるときも…私とひとつになっているときも……)
え?
(タクの波動はあの子の鼓動だったわ…)
ハル……
(じゃあね♪)
ああ、ゆっくり休めよ
(そうね…おやすみ)
ずっどぉ~~ん
強烈な美玖の最後の一打で意識がとんだ……
美玖の鼓動…体温……体臭……
全身をしなやかに、踊るように刺激を加える感触はハル…か?
俺が熱いものに呑み込まれて行く…
その中の微妙な動き、この感覚は美玖?
や、やばい……し…
頭の芯まで痺れて………き……た…
微妙に別の生き物のようにうねり、俺を刺激する。
ぐ…
う、う…
今回…俺はひっくり返って失神するのが定番なったらしい……
「卓、目が覚めた?」
美玖の声が頭のうえから降って来た。
気づけば自室のベッドのうえで、美玖の膝枕で伸びていた。
「あ、うん、俺……」
「宝物殿で倒れたんだよ」
「そか…」
「良い夢見てたんでしょ?」
「え?」
「いい歳して、夢精してるし」
「え!!!!」
「バカ。もう着替えさせました」
「さんきゅ……」
顔がめっちゃ熱いし…面目ないやら恥ずかしいやら…
けど…
美玖は柔らかに微笑んでる…な?
「なに?」
「あ、いや」
「前の時のことは許してあげる」
「え?」
「ここでのうちの役割もわかった気がする」
「むぅ…」
「卓に守られてばっかじゃ、ね」
真顔になった美玖の瞳に真摯な光…
綺麗だなぁ……
「それでも美玖は、俺が守る」
「うん。守ってね」
「ああ」
上半身をおこして、彼女の唇に唇を重ねる。
「おっほん」
キスに夢中になってて気づかなかった…部屋の入り口にユミンがいた。
「お取り込み中失礼しま~す。タクの目が覚めたら打ち合わせしましょって、瀧夜叉が呼んでたよぉ」
「了解」
「ねぇ、タク」
「ん?」
「瀧夜叉…ご機嫌斜めだからねぇ、お気をつけてぇ~♪」
「なんでさ?」
「何ででしょう☆タクとミク、くっつきすぎ?」
「え?」
「あはっ、じゃ待ってるねぇ~」
お気楽にユミンは頭の上に♪つけて去っていったけど…それって忠告か?嫌味か?
どっちだぁああああ
【続】
おっさんと言いながら…まぁ、タクはまだまだ若いwww
てか、男はいつまでも心は厨二だね(^^♪