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05 ミクの来た意味

なんだかなぁ…

今日はやけに早起きしちまった。

美玖はまだぐっすりだ。

そりゃ、あれだけ昨夜……はは……俺はちっとばっかし腰に違和感が、ね。

なんだけど、妙にすっきり目が覚めたのはここの朝の空気が冴えているからかな…



うっうぅ~~~~~ん



中庭に出て目いっぱい伸びてみる。



はぁああああ……



すぅうう……



満タンの深呼吸が、全身に血液を思いっきり走らせるのがわかる。



気ンもちいぃ~~♪



腰や足のつけ根にある疲労感とわずかな筋肉痛も溶けてゆく。



「さて、どうする…かな」


駆け足でのここと自分の世界との往復は、何を意味しているんだか…

少なくとも偶然はありえないということは、前回でわかっている。

ということは、美玖もここへ来る必然があったということか……


「だが、前回ではなく今回である意味はなんだ?」


小高い築山の頂上にある東屋…考え事するにゃ、あそこだな…ってか、あそこくらいしか静かなとこないし。




前回……

冬から春になりかけの頃。

俺は残業終わって帰宅する道すがら、灰皿のある公園で一服。

風でなかなかつかない百円ライターにイライラしながら、根性で火をつけたっけな…で、ふっと夜空を見上げたんだな…

暗くも星の瞬きもない薄明るい夜空。

東京の真ん中では、いわゆる吸い込まれるような真っ暗で星がたくさんあるなんてのは、そりゃ無理な相談だけどねぇ……



気づけばこの世界にいて、救世主なんぞに祭り上げられちまった。

持ったこともねぇ長剣の持ち主になって、四十も半ばの運動不足な俺をよってたかって鍛えてくれちゃってな。



いろんなものを見た。

切ないシーンも哀しい情景も、それはゲームやアニメの中のことではなく、まぎれもなく本物で…正直パニクった。

たくましい女の子ばっかりの戦友とたくさんの人たちとの出会いと別れ……


あ~~~~誰にモノローグしてんだかなぁ




で、この世界を破壊しようとする意志の塊り…

ラスボスのドーマの存在を知り、その使い魔である土蜘蛛やそりゃ~~おっかない魔物の群れと戦った。



く…くそっ…そうさ俺がいい加減だったから…未熟だったから……

ハルニーナを死なせちまった…あれほどセイメイ老師に注意されていたのに……

ドーマの最後の砦に侵入するときやばくなった俺を庇って………



「おはよ~~~」

「お、美玖。おはよう」

「早かったんだね」

「うん」

「いっぱいしたから、爽快だな」

「って、ばかぁ!」


普段は結構お姐さん肌で明るくて道化ている彼女なんだけど、正面から真っ直ぐに思いを伝えると照れて真っ赤になる…

そこがめっちゃ可愛い…てか、彼女の歳は出逢ったときはまだ十代で、いまだって二十歳なんだが……


「どしたの?」

「ん?」

「いつもより、更に優しい顔で笑ってるから」

「そうか?」

「それに、ね」


彼女はちょっとはにかんだ笑みを浮かべて、ちょっとだけずり落ちた眼鏡越しに上目遣いで俺を見た。


「寂しそうな影があってかっこよかったよ」

「はは…あんがと」

「なんか巻き込んじまったな」

「ん~~~~そうなのかな?」

「?」

「うちは卓と一緒のほうがいいし」

「そか」

「うん」

「そだな」

「それに、ね」

「ん?」

「うちも一緒にここへ来たっての、巻き込まれたからなのかな?」


さすがに美玖は鋭いな。年齢は俺の半分以下なんだが、結構いろんなもの見てきてるし経験もしてきてる。

それに学校の成績はともかくとして本質を見極める知恵ってのかな…

そこんとこは俺以上だとある意味尊敬もしてる。


「ドーマってなんなの?」

「単刀直入だね」


俺は彼女の腰を抱き寄せて軽くキスをする。唇の柔らかさが心地良い。


「簡単に言うと前回ここへ来たときはラスボスだったね」

「てことは、今回は違うの?」

「まだわからんが…そんな気がする」

「どして?」

「確かに息の根止めたのを確かめたからな」


俺は彼女の瞳を真っ直ぐに見て答えたとき、背後で気配を感じた。

勝手に俺の右手が動いて長剣を逆手に抜いて、切っ先をそれに突きつけた。


「腕は衰えておらぬようだ」

「老師」

「そちらの娘、紹介してくれぬか?」

「老師、手を出したら容赦しませんぜ」

「ふむ」

「俺の彼女……想い人の美玖です」


剣を鞘に収めながら、彼女を庇うように身体を老師に向ける……

このじいさまは呪術師としては、とんでもない高位で腕を持ってるんだが、それに輪をかけてスケベときてやがる……

美玖のお尻も胸も触らせてやらんぞ!


「面白い娘じゃな」

「面白い?」

「ここへ、お主と来たのも偶然ではなかろうよ」

「……」

「良い魂を持っておる」


褒められたと思った美玖はぺこんと頭をさげた。


「もうちょっとばかり、ここで勉強すればともに戦えるじゃろ」

「え?マジですか?」

「ほっほっほ。マジぢゃ」


そのとき屋敷のほうから瀧夜叉とユミンが朝食の準備ができたと呼んできた。

と、思い出したように俺と美玖の腹が鳴った。


「老師、行きますか?」

「そうじゃの。皆と会うのも久しぶりじゃ、呼ばれるとしようかの」


三人で築山を降りて…かなり足早に屋敷の広間へ……美味い朝食にありついた。




賑やかな朝食。

俺には慣れた感覚だったけど、美玖にはかなり新鮮だったのか良く食べよく喋った。

みごとにご飯のおかわりもして、ぺろっときれいに食べきった。



「あ~~~~ん、お腹いっぱ~~い♪おいしかったぁ……あ、でも…毎日だと太っちゃうなぁ」

「昨日の晩は相当激しかったみたいだから大丈夫だよ」


しれっと桜太夫がツッコミを入れる…まぁ、既婚者だからなぁ…


「毎晩してもらったらOKね」


彩姫がすかさず追い討ちをかける。って、それって冗談?本気?


「やだぁ~~~~~」

「っていいながら、ミク嬉しそ~だよん」


ユミンまで……

その場はすっかり俺たちをからかっての遊びモードだし。

救いの神は瀧夜叉ってのが、また珍しい状況になった。

彼女は屋敷の案内をするって言い出して美玖を広間から連れ出してくれた。



ん?



なにか聞こえたぞ




ど~~ん




屋敷の中の空気を清冽にする響き…




どんどどん



どんど~~ん、どどん



リズミカルに響く



和太鼓だ……

そうか、宝物殿にあった戦鼓だ。



美玖…彼女のデリケートな心を守るもの…高校時代から愛してやまない和太鼓。




彼女の中の嫌なことや苦しいことも哀しいことも、バランスを失いそうになる彼女の無垢な心を浄化する必須アイテム。

彼女の叩き出す太鼓の響き…

激しく優しいリズムは彼女だけではなく同時に周囲の澱んだものをも払い清める。



「これじゃな…あの娘の存在理由は」

「え?」

「癒しと勇気」


セイメイ老師の言葉に、俺は珍しく素直にうなずき、


「ハルニーナ以外にもあんなにあれを叩ける子がいるんですね」


アーネがぽつんとつぶやいた。






【続】

でっかい和太鼓を叩く女性ってかっこいいよね(笑)

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