03 タクは帰還した。
2年ぶりに戻った俺の世界。
彼女の美玖は待っていてくれた。
んで会った途端に熱烈なチュウ…彼女の部屋でのひっさしぶりの濃厚なエッチ♪
爆睡した。
左腕に美玖の重さが心地よい…
で?
なんで頭を殴られて俺は起きにゃなんないんだ?
なんでバイバイしたはずのこいつが俺を覗き込んでるんだ?
「起きろ、タク」
あいつの声だ…間違いはない……が
いるはずがねぇじゃねぇか
悪い夢だ……
「俺の夢に勝手に出るな」
美玖を抱くように寝返る。
「夢を見てんのはタクだろ?」
頭の上であいつの声がするが、かかわったらまたとんでもない事態になるかもだ。
知らぬ顔の半兵衛が万事平和だ。
「まったく…お気楽なのは変んないね」
盛大な溜息が聞こえるが、美玖を抱く腕の力を強める。
と、彼女がくるりとこちらへ身体をまわす。
甘やかな寝息と体温と体臭…俺の胸に顔を埋めるように背を丸めてぴったりと密着する。
「タク、そのまま寝てたいのはわかるけど…」
奴は俺の耳元へ唇を寄せる気配…右耳に息遣い…奴の自慢の長い黒髪が…くすぐったいな
ん?
「すぅぅぅううううう~~~~~……」
息を吸い込んで…いる?
「おっきろぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
奴…彼女のよく通る高音が炸裂し、俺も美玖も跳ね起きた!
耳がキンキンしている…美玖も耳を押さえて目尻に涙をためている。
「やっと起きたな」
「てめぇ…瀧夜叉ぁ……なんてことしやがる!」
「ふん。素直に起きないのが悪い」
「だいたい、なんだっててめぇがここにいる」
「わたいの世界にわたいがいて、なにが悪い」
「はぁ?」
違和感がある…改めて周囲を見渡す。
はぁ…なるほど
「納得したか?」
「とんぼ返りだぞ」
「何をわらんことを…丸1年ぶりだ」
「なっ…」
「で?そっちの裸の女は白拍子か?」
瀧夜叉は全裸で俺の背に隠れている美玖を、びしっと指差す。
「バカ野郎。俺のカノジョだ」
「カノジョ?」
「あ~~~~~俺の想い人だ」
「ほう…タクのようなおやぢにも、そんな若い想い人ができるんだ?」
「わるいか?」
「いや、別に」
拗ねたように横を向く瀧夜叉…確かに三日前に別れたときより少しだけ大人びたな。
「ってことは、あれから1年経ってるわけだな?」
「前より頭が悪くなったか?」
「いや、確認しただけだ」
そこへ俺の背中から美玖が初めて口を開いた。
「ここ…どこ?」
返答に困った俺に気づいたのか、瀧夜叉がにっこり笑った。
「ここは…タクや貴女のいた世界とは違う世界らしいぞ」
「卓、この娘は?」
「ん~~瀧夜叉だ。悪い奴じゃない」
と俺たちに瀧夜叉が衣類を投げてよこした。
なんだかんだ言って、気だけは効く奴だ
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さて、状況をしっかり把握したいな…
塩で口をゆすいで…というか、ここでの習慣を美玖に説明してみたが…
「うち、夢見てるンかな?」
と戸惑っている…
てか、そりゃそうだな
俺だって来たときゃ、大慌てでドタバタしてたからな…
それに比べりゃ美玖は混乱したり慌てたりしないだけ立派だよ…
古風な日本家屋とアジア風の高床住居が混じったような屋敷。
ここが旅館らしいことは顔を洗いながら確認した。
窓から見える南国っぽい森林、遠くにかすんで見える高い山脈の稜線。
太陽の向きで瀧夜叉の屋敷から、そんなに離れていないこともわかった。
美玖……お前…意外と大物だな…すっかり景色に惚れ、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み…俺に微笑みをみせた。
「こんなとこに2年もいたんだ?」
「美玖、怖くないのか?」
「ん~~~~ビミョ~」
そう悪戯な目をしてキスをしてくる。
まぁ悪くはないな…てか、むしろあっちにいるより自由で、素直になれるかもだな。
「これからは…たぶん、大変だと思うぜ」
「そうなの?」
「覚悟しといたほうがいいな」
「卓がいるから何でもいいよ…」
ふと伏せた睫毛が2年間の彼女の気持ちを代弁しているようだ。
寂しかったンだな
ごめん
咳払いが背後から聞こえた。
「わたいの屋敷へ来てくれるな?」
「どうやって探し当てたか知らんけど、行かなきゃならんのだろ?」
「うん…すまん」
「みんなは?」
「タクを探しまわってる…」
全員集合してるってことは、相当な事態だな…と身が引き締まる。
視線を感じる…美玖か?
「どした?」
「あ、えと…」
「?」
「カッコいい…」
首まで真っ赤になって言い馴れないことを俺に言うし…おれまで照れくさいじゃないかぁ!
「ま、ともかく、奴の屋敷へ行くよ」
「うん」
「離れるな。必ず俺が守る」
わっと言って美玖は思いっきり照れて、俺の腕に身体を押し付けた…
う~~ん、美玖の胸は大きくて弾力あって気持ちいいなぁ……
「スケベ」
正面から俺を見上げる瀧夜叉の瞳が紅く光っている。
「その台詞……わたいにも前に言ったよな?」
「え?」
意地悪な瀧夜叉の言葉とそれに反応する美玖。
俺は動揺を見すかされないように、表情を引き締めた。
「重みが違う」
断言すると瀧夜叉はつまらなそうな顔をする。
「ちぇっ、動揺しないのか」
「するか」
「これだから擦れたおやぢはつまらん」
「てめぇのおもちゃにはならん」
彼女の屋敷までは20分ほど。
その間、俺と瀧夜叉のやりとりを美玖はクスクス笑いながら聞いている。
「兄妹みたいね」
彼女のもらした言葉にふたり同時に反応してしまった。
「こんな兄貴いらん」「こんな妹いらん」
「ほら、気が合うじゃない?うち、こんな妹欲しかったんだ」
「むぅ…ミクだよな?」
「うん」
無邪気な彼女に瀧夜叉は急に真剣な視線を向けた。
「いつまで、そんなお気楽が言ってられるか…」
くいっと顎で自分の屋敷を示すと、俺たちをおいて駆け去った。
「どういうこと?」
「ふむ…確かに、な」
「え?」
「ともかく美玖は俺から離れるなよ。寝ても起きてもいつでもだ」
「う、うん。わかった」
屋敷の門が聳え立っている。
朱に塗られた中華門のような…大げさな造りは変っていなかった。
ほんとに勢ぞろいしてるな…
誰かが知らせに走ったのだろう。
俺を探しているはずの…あの時の仲間たちが門の前で、それぞれの表情で待っている。
さて…今回はどうなっちまうんだろうな
冒険に向かう高揚感と不安…腰の長剣に触れると、力が全身にみなぎる様に感じた。
【続】